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一章【始まり】

7.永遠眠神《ヒュプノス》

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 霧が、まだ漂っている中。突如として、弾け飛んだ右腕を確認し、直ぐに回復に取り掛かる。

 【治療薬貯蔵庫】という異空間に治癒薬を貯蔵できるスキルから、上級の上の天級治癒薬を取り出し右腕に振りかける。
 痛みも引き、右腕は一瞬で再生する。

 攻撃の際に、右腕の魔力が膨張していたがそれが攻撃に関係しているのだろうか。
 それにこの攻撃は、ヒュドラのものではない。
 謎の攻撃を防ぐために、【魔力操作】で全身の魔力を制御し、上級魔法の魔法守護聖域マジックサンクチュアリという周囲の空間に魔力を制御し、魔法攻撃を軽減させる魔法を行使する。

 これで、何とかなるか。
 
 「シャアァァ!!!!!!!」

 ヒュドラは俺が体勢を崩したのを見たのか、死霧デスフォグを吸い込み大きな暗黒の球体を形成し始めた。
 それによって、辺りの致死の霧は晴れた。つまり、詠唱が可能になったのだ。そして、【思考加速】によって引き延ばされた数秒の間に何とか体勢を立て直すことができた俺は小さな笑みが浮かべた。
 
 「眠れ 眠れ けものよ、あやかしよ。永遠の眠りへいざなわん 永遠眠神ヒュプノス……」
 
 永遠眠神ヒュプノス。それは、呪文じゅもんの神級に位置している呪いの力を極限まで高め、敵を永遠の眠りへと引き摺り込む伝説の魔法である。
 神級それも呪文となると、無詠唱というわけにはいかない。だが、致死の霧が無くなったことで何の心配もなくそれを行使できたのは嬉しい誤算だ。
 
 「シャアァァ?……シャ……ャァァ……………」
 
 呪文により、黒の首以外は全て死んだ。いや、眠ったというべきか。
 いくらヒュドラが、魔法に耐性があったとしても神級の魔法攻撃を耐えられるのは不死の黒の首のみ。
 
 「キシャァァ!!!!」
 
 残った黒の首は逆上し、形成していた暗黒の球体死獄炎を放った。だが、もう遅い――。
 当たれば即死するような魔法でも、【覚醒】すれば問題ないはずだ。周りに人が居たら危険だが――気配は感じない。

 「【覚醒】」
 
 【覚醒】は、魔法を行使するのに必要な魔力と、スキルを発動させるのに必要な心力を多く消費して、僅かな時間だけ神格を得るスキルだ。
 スキルには、才能系、補助系、攻撃系、防御系が存在しており【覚醒】は、その中で才能系に属している。そして、神格を得ることで同格神格未満の存在を不死に関係なく殺すことが出来るようになるのだ。

 一瞬、意識が奪われたかと思うと俺は【覚醒】した。
 

 「悪いが、攻撃はもう受付けない」

 暗黒の球体死獄炎は俺の目の前で消え去った。
 神格を得るということは、同格神格未満の攻撃も実質無効化できるということ。
 
 それを見て逆上したヒュドラは、死獄炎以外に何度も攻撃を仕掛けて来た。
 しかし、攻撃は当たらなかった。受け付けなかった。
 
 「【聖剣】」

 スキル【聖剣】で、聖属性が付与された剣を具現化されそれを両手で握りしめる。スキル【竜特効】も発動させ、聖殺セイクリッドスレイという治すことのできない傷を与える魔法を聖剣に上乗せで付与させる。

 「さよならだ」
 
 【剣の才】【剣の魂】【剣の神】を持っている俺は、一瞬にしてヒュドラを消滅させた。
 

 * 
 
 「危なかった」
 
 ヒュドラを消滅させ、安堵したのも束の間、何者かの気配が背後に現れる。
 
 「そこに居るのは――」
 
 振りむいて語り掛けようとした瞬間、左腕と右足が弾け飛ぶ。
 
 この攻撃は――。
 しまった……【覚醒】を使ったことで、魔力と心力を短時間に消費しすぎた。意識を保つのにも限界がある。

 だが、この攻撃を行える存在は危険だ。
 再度、結界や補助系スキルを発動させ臨戦態勢を取る。


 
 ――そこだ!
 
 「【聖槍】連射……!」
 
 【聖剣】という聖属性が付与された槍を複数具現化させると、面制圧を行うように手を止めることなく連射させる。
 数秒経つと何者かの気配は、完全に消え失せた。
 
 「逃げられたか……」
 
 不安は残るものの、それと同時に疲労が襲う。
 
 「遠距離転送テレポート
 
 大きな転移魔法陣が高速で組み立てられできた瞬間、俺はその場から消えた。
 意識が朦朧とする中――ワースとアスカの待つフェンリル町のギルドに帰還するのだった。
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