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一、ふられました!
しおりを挟む私はその日とても気分が良かった。
空は透き通るように晴れていて、熱くも寒くもない心地よい気温。
今日、婚約者が留学先から帰国する。
私と婚約者のフェルは今秋結婚する予定。彼は優しくて穏やかな人柄で、燃え上がるような大恋愛では無いけれど、一緒に居ると心が温かくて幸せな気持ちになる。
私は伯爵令嬢として育ったくせにガサツなところがあった。だけど、フェルはいつも優しくて……何をしても怒らない。とにかく優しい人だった。
久しぶりに会うから、フェルに買って貰ったワンピースとアクセサリーを着けてお洒落をした。彼はこのワンピースを覚えているだろうか?
ふんわりしたデザインの水色のワンピースは、私にはちょっと可愛い過ぎるかもしれない。けれど、これはフェルが選んでくれた初めてのワンピースで、彼の為にお洒落をするのも嬉しかった。
少しでも可愛いって思われたい。
だけどーー
「ごめん、ロゼッタ。婚約を解消して欲しい」
フェルの隣には儚げな少女が彼の腕に寄り添うように立っていた。
「……ぇ?」
去年の誕生日にフェルから貰ったイヤリングは、耳元でシャラシャラと涼し気な音を立てて揺れる。
まるで滑稽な私を笑っているみたいに聞こえた。
「ど、どうして?」
「ロゼッタは強くて自立してるし、一人でも大丈夫だろう?彼女……ライラは僕がいないと駄目なんだ。守ってあげなくちゃ、そう思った。だから……ごめん」
フェルが隣に立つ少女を見つめる。
そんな甘い表情、私は向けられたことがない。
「……」
フェルは……どうして私は一人でも大丈夫だなんて思ったのだろう?
手足の先が冷たくて、感覚がなくなっていく。
今、こんなにも辛いのに……。
木々のざわめきが遠くに聞こえる。
今、私は一人で立っているのがやっとだった。
だけど、私は精一杯意地を張る。
笑顔が上手く作れない。
「分かったわ。フェル、そっちの瑕疵なんだから慰謝料はキチンと払ってよね。じゃあ、お幸せにね!」
「うん、分かっている。すまない。ロゼッタ、ありがとう」
フェルは隣の少女を守るように肩を抱いた。
私は無言のまま踵を返しその場を離れた。
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