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8.もう止まりません
しおりを挟む「ど、どうしたんだ、イーリス。落ち着いてくれ。」
慌てふためくケンドリック殿下。けれど私の口はもう止まらない。
「私は落ち着いています。」
「こ、婚約破棄なんて簡単に、宣言するものじゃ無い。俺と結婚出来なくなるぞ?」
「元々結婚したく無いんです。」
ケンドリック殿下の言葉に被せ気味に言った。
どうして何回も言ってるのに通じないの!?
「イーリス様、感情のままそんな事を仰るようでは、王太子妃になれませんわ?」
「こんな場所でそんな大それた発言をすることの意味を分かってないのか!?」
エミリア様とアンソニー様は私を窘めるよう語気を強めた。また、上から目線の物言い、いい加減にして欲しい。
そこへ、報告を受けた陛下とアデライン様が驚いた表情で私たちの所へ駆け付けてきた。
「ど、どうしたんだ?ケンドリック?」
「イーリス様?こんな場所で騒ぎを起こすなどあってはならない事ですわ。」
みんな大慌てだ。けれど、誰も私の婚約破棄を本気だとは思っていなかった。
「陛下、私は一度も婚約に同意してませんよね?」
「え?そ、そうか?そうだったかな?」
「私は無理やり婚約させられたのに、よってたかって貶されて、もう耐えられません!」
「む、無理やりなどと……人聞きの悪い。」
陛下は『無理やり』って言葉に反応した。
それもそうか……ここには他国の賓客もいる。こんな無様な騒動は国の恥になる。
「私は一度もケンドリック殿下との結婚を望んでるなんて言った事ありません。それどころか、婚約も結婚も嫌!王太子妃なんて願い下げですっ!」
「興奮してるのか?ちょっと頭を冷やすといい。少し休もう」
「嫌です。ここでハッキリ言います!」
ちょうどいい、招待客の前ではっきり言ってしまおう。場所を変えて話したらまた理解して貰えない。
「君は結婚したいのだろう?駄々を捏ねるのは止めるんだ!」
「は?結婚は嫌です!何度もお断りしましたが?」
「それは……私の気を引くための駆け引きでは……?」
「違います。望んでもいないのに勝手に婚約させられて大迷惑。アイトネ様にも、私は神殿に引き籠ればいいって言われて仕方なく来たんです。私を王太子妃にしたいのは殿下の方でしょ?私はこれっぽっちも望んでなーーーーいっ!!」
もう口が止まらない。
「だいたい、聖女だからとか、王太子妃を目指すなら、とか、理想ばかり押し付けられ、出来ないと貶されて……。冗談じゃないっ!」
「ケンドリック、聖女様に何か無礼な事を言ったのか?」
陛下がケンドリック殿下に向かって冷ややかな口調で尋ねた。
「そ、それは……イーリスのためで……。貶したわけでは……」
「失礼、私は近くにいて会話が聞こえていましたが、聖女様に寄って集って貶めるような発言の数々。聞いていても気持ちの良いものでは有りませんでしたね」
栗色の髪にヘーゼルの瞳をした男性が会話に入ってきた。殿下に負けず劣らずのイケメン。目に悪い。
「ペイトン殿下……」
殿下って事は他国の王族なのだろうか?
「イーリス様、シシリ王国では心穏やかには過ごせないようですし、我が国へいらっしゃいませんか?強大な魔力を持った聖女様を我が国は歓迎いたしますよ?」
ペイトン殿下と呼ばれた人物は胸に手を当て、私に手を差し出してくれた。
けれど……
ドクンーードクンーードクン
鼓動が強く聞こえ、胸が痛い。
身体が熱くなって視界が霞んできた。
なに、これ……。
「イーリス様、大丈夫ですか?」
倒れそうになった私を支えてくれたのは
「神官長?」
「ハナに呼ばれて来たんです。魔力が……かなり不安定になっていますね。何か、感情が昂るような事があったのですか?」
「ちょっと怒ってしまいました。」
声が掠れる、立っていられない。
そんな私を神官長は横抱きにしてくれた。
「聖女様になんてことを!このような強大な魔力を持つ聖女様の身体は、魔力が制御できなければ壊れてしまうのですよ?」
え?
そんな危険な身体だったの?
そう言えば女神様が前の身体じゃ魔力を詰め込めないような事言ってたな……。
朦朧とする意識の中、神官長が怒る声だけが聞こえてきた。
「私はただ聖女様に貴族としてのマナーを教えていただけだ……。」
「王宮の仕来たりや伝統を聖女様に押し付けないでいただきたい。マナーが完璧じゃなければいけないと言うのは、そちらの都合でしょう?精神的に不安定になれば魔力も不安定になる。イーリス様の御身は神殿で預かりましょう。」
神官長は私を横抱きにしたまま会場を後にした。
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