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彼の部屋で二人で話をする事になった。
ユーリーはどう切り出したらいいか逡巡していたが、意を決して話し出した。
「私には誘拐され、奴隷として売られた過去がある。それがその時の物だ。」彼が胸を開襟してシャツを引っ張るとそこには焼き印が。
「7歳の時に公爵家を恨む者に拐われ売られた。そこでの生活は酷いものだった。4年間、男娼の下働きをしていた。男を買う貴婦人を見てきた。そのせいで女性が苦手で…。父に発見されてから貴族教育をやり直してここまでになった。」
彼にそんな壮絶な過去があるなんて思わなかった。私は呆然としたまま話を聞いていた。
「その…今でも貴族女性は苦手だ。でも、孤児院の子供達に接する…サラを見て…好ましく………思った」
相変わらず無表情で視線は合わないが耳は真っ赤だ。
「…その…このような奴隷としての痕の残る私は……嫌…だろうか…。」
「そんな事ちっとも気にならないわ。」
私がそう返事すると彼はほんの少し私の方を向いてくれた。
「はじめは、守りの指輪を持つサラを保護することが目的だった。」
なるべく目を見ようとしてくれているのだろうが、時々視線を反らしながら落ち着かない様子で言葉を選びながら話を続ける。
「サラのコロコロ変わる表情を……。…可愛いと思った。町で少年に声を掛けた事があっただろう?その……いいと思った」
髪を掻き毟る。
「あーもう、上手く話せないが、あの少年が奴隷時代の自分と重なって………一人でもあんな風に助けてくれたなら……と思った。」
不器用ながらも必死に言葉を紡ぐ彼がなんだかいとおしい。
「婚約者を演じるという約束だったが…本物の夫婦になって欲しい……。」
そう言った後、素早く立ち上がると
「…こんな告白しか出来なくて…すまない。…返事はまだいい。」と言ってさっさと部屋を出ていった。後ろ姿でも彼の耳は赤く照れているのが分かる。
彼が恥ずかしがるものだから、私も顔が紅潮するのが分かる。
私は暫く動けずその場に立ち尽くしていた。
その日の夜は二人とも無言でカトラリーの僅かな音だけが響く晩餐となった。
そして使用人の皆は私達に何があったか知っているような生温かい視線を向けていた。
翌日からユーリーは暇を見付けてはダンスの練習に付き合ってくれた。
「いつもありがとう、忙しいのに悪いわ。」
「いや、サラが他の男と踊るのは…あんまり…………。避けたい……。重いか?」
無表情の中でもシュンと耳が垂れるのが分かる。
私はユーリーに柔らかく見えるように微笑むと
「私もユーリーが他の人と踊るのを見るのは嫌よ。」
と言ってみた。耳が途端に赤くなり、その表情より雄弁に彼の気持ちを表している。
こうやって彼に触れる時間が増え、私は彼に触れられるのが心地よいと感じるようになっていた。
☆★☆ユーリード視点☆★☆
今日はアリセントの剣の訓練に付き合っており、今は休憩中だ。
アリセントが他の騎士の模擬戦を眺めながら世間話のように切り出してきた。
「ユーリー、貴族令嬢の間で君が女嫌いを克服したと話題になっている。」
「はっ?」
「そんな顔するなよ。婚約者候補を家に滞在させて花嫁修業をさせている事は皆が知っている。女嫌いを克服したと思われるのは当然の流れだろう?」
盛大に顔を顰める。
「あの着飾ったきつい匂いをさせた女達は嫌いだ。」
「まぁ、そう言うな。これからお前やサラルーリー嬢にちょっかいを掛けてくる輩も居るだろうから、対抗策を準備しておけ。一応リリィにも頼んでおいた。」
「助かる。お前のリリィは女性の世界に於いては無敵だ。他にも味方が見つかると良いけど。」
「ああ、僕のリリィは最高さ。他にも味方か……考えておこう。社交界は数も大きな武器だからねぇ。」
ユーリーはどう切り出したらいいか逡巡していたが、意を決して話し出した。
「私には誘拐され、奴隷として売られた過去がある。それがその時の物だ。」彼が胸を開襟してシャツを引っ張るとそこには焼き印が。
「7歳の時に公爵家を恨む者に拐われ売られた。そこでの生活は酷いものだった。4年間、男娼の下働きをしていた。男を買う貴婦人を見てきた。そのせいで女性が苦手で…。父に発見されてから貴族教育をやり直してここまでになった。」
彼にそんな壮絶な過去があるなんて思わなかった。私は呆然としたまま話を聞いていた。
「その…今でも貴族女性は苦手だ。でも、孤児院の子供達に接する…サラを見て…好ましく………思った」
相変わらず無表情で視線は合わないが耳は真っ赤だ。
「…その…このような奴隷としての痕の残る私は……嫌…だろうか…。」
「そんな事ちっとも気にならないわ。」
私がそう返事すると彼はほんの少し私の方を向いてくれた。
「はじめは、守りの指輪を持つサラを保護することが目的だった。」
なるべく目を見ようとしてくれているのだろうが、時々視線を反らしながら落ち着かない様子で言葉を選びながら話を続ける。
「サラのコロコロ変わる表情を……。…可愛いと思った。町で少年に声を掛けた事があっただろう?その……いいと思った」
髪を掻き毟る。
「あーもう、上手く話せないが、あの少年が奴隷時代の自分と重なって………一人でもあんな風に助けてくれたなら……と思った。」
不器用ながらも必死に言葉を紡ぐ彼がなんだかいとおしい。
「婚約者を演じるという約束だったが…本物の夫婦になって欲しい……。」
そう言った後、素早く立ち上がると
「…こんな告白しか出来なくて…すまない。…返事はまだいい。」と言ってさっさと部屋を出ていった。後ろ姿でも彼の耳は赤く照れているのが分かる。
彼が恥ずかしがるものだから、私も顔が紅潮するのが分かる。
私は暫く動けずその場に立ち尽くしていた。
その日の夜は二人とも無言でカトラリーの僅かな音だけが響く晩餐となった。
そして使用人の皆は私達に何があったか知っているような生温かい視線を向けていた。
翌日からユーリーは暇を見付けてはダンスの練習に付き合ってくれた。
「いつもありがとう、忙しいのに悪いわ。」
「いや、サラが他の男と踊るのは…あんまり…………。避けたい……。重いか?」
無表情の中でもシュンと耳が垂れるのが分かる。
私はユーリーに柔らかく見えるように微笑むと
「私もユーリーが他の人と踊るのを見るのは嫌よ。」
と言ってみた。耳が途端に赤くなり、その表情より雄弁に彼の気持ちを表している。
こうやって彼に触れる時間が増え、私は彼に触れられるのが心地よいと感じるようになっていた。
☆★☆ユーリード視点☆★☆
今日はアリセントの剣の訓練に付き合っており、今は休憩中だ。
アリセントが他の騎士の模擬戦を眺めながら世間話のように切り出してきた。
「ユーリー、貴族令嬢の間で君が女嫌いを克服したと話題になっている。」
「はっ?」
「そんな顔するなよ。婚約者候補を家に滞在させて花嫁修業をさせている事は皆が知っている。女嫌いを克服したと思われるのは当然の流れだろう?」
盛大に顔を顰める。
「あの着飾ったきつい匂いをさせた女達は嫌いだ。」
「まぁ、そう言うな。これからお前やサラルーリー嬢にちょっかいを掛けてくる輩も居るだろうから、対抗策を準備しておけ。一応リリィにも頼んでおいた。」
「助かる。お前のリリィは女性の世界に於いては無敵だ。他にも味方が見つかると良いけど。」
「ああ、僕のリリィは最高さ。他にも味方か……考えておこう。社交界は数も大きな武器だからねぇ。」
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