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11.皇太后視点
しおりを挟む我がイクシオン公爵家は祖父の代、父の代で王宮の要職に就けず、影響力が弱くなっていった。
そんな現状に我慢出来なかった兄は、この国の貴族や政治への影響力取り戻すため、私を何としても皇后にするよう様々な手段を使った。
その当時はまだ公爵でも無い兄がどうしてそんな事が出来たのか?
それは私が皇太子妃となった後、兄から明かされた。
「月影の木は一本で商会が一年で出すような巨額の利益を生む。何も知らない冒険者や、破落戸を雇って木を伐採させている。資金があれば使える人間も増えるんだ。」
「月影の木は魔女との約定で伐採は禁止されているのでは?呪われるとの噂も在りますわ。」
「実際呪われるのは伐採した本人だ。我々には関係無い。」
「公爵家に影響は無いのですか?」
「無いな。呪われるのは価値の無い屑どもだ。お前が気にする必要は無い。」
そして、その後も伐採は続けられた。
自分に呪いが降りかからないか心配だったが、皇太子の婚約者になるために、ライバルとなる令嬢を襲わせたり、実家を没落させるなどして裏で動いてくれた兄に逆らう事は出来なかった。
ライバルとなる令嬢が居なくなり、私は無事、皇后の座を手に入れた。
皇后となって、男児が生まれ私たちの計画は順調だった。
けれど、私の生んだ子供よりも王家の血の証である黄金の髪と瞳を持つ愛人に産ませた子供を陛下は可愛がった。
「お兄様、力を貸して!あの庶子のアンドリューを陛下は後継者として考えているのよ。許せないわ。」
「分かった。お前は怪しまれないよう一切動くな。」
そしてアンドリューの母親は毒殺された。
実行犯は侍女だったらしいが、私はその件に深く関わらなかった。
ライバル令嬢を蹴落とした時のように全てを兄に任せていた。
「アンドリューを狙う中で、アイツの母親が月影の木の出所を探っているのが判明した。アンドリューも何とかしたいが、護衛が城から逃がしたようだ。行方が掴めない。」
その後アンドリューは王宮へは戻って来ないまま何年もの歳月が流れた。
そして、10年前我が国は瘴気に覆われた。
「お兄様、月影の木の呪いでは?」
「分かっている。けれど、多くの貴族の支援をしてきた今、金は必要だ。今さら止められん。」
兄も魔女の呪いを恐れているのだろう。顔色が悪い。
私自身も魔女の呪いが恐くて眠れない日々を過ごした。
~・~・~・~・~
そしてとうとう陛下と我が子である皇太子が病に冒された。
月影の木の伐採をしたばかりに……
その時初めて兄を止めなかった事を後悔した。けれどそれ以上にアンドリューを憎んだ。
どうして我が子は死んでアンドリューは無事なのか!アンドリューが呪われれば良かったのに………。
アンドリューは王宮に戻って来た。
正統な後継者として。
アンドリューは父である前国王よりも強大な魔力を持ち、魔女の森に自ら赴いた。
そして、魔女の呪いをその身に受け、自慢の黄金の髪と瞳を黒に染めてしまっていた。
「アンドリューが呪いを代わりに受けてくれた。俺たちは助かったんだ!」
兄はそう言って喜んだが、私はそれよりもアンドリューの髪と瞳が黒く染まったことが嬉しかった。
兄は魔女の呪いのことなど忘れたように月影の木の伐採を続けた。
そして
公爵となった兄は再び野望を持った。
アンドリューを傀儡にして政治に介入し権力を握ることを望んだのだ。
アンドリューは長年王宮を出ていて、本を読んで勉強してきただけで、帝王学も受けていない。
思い通りに動かしやすい人物だと思ったようだった。
そして私にも皇太后として、アンドリューへ自分の派閥の妃を宛がうよう命じた。
「アンドリューとハルシャワ伯爵令嬢の婚約はまだ決まらんのか?」
「ええ、アンドリューが頑なに拒否していますわ。」
「薬でも何でも盛ればいいだろう?」
「あの子、抜けているようで存外隙が無いんですの。」
私達の計画は悉く上手く行かなかった。
ーー何かが狂い始めた。
とうとう、アンドリューとアンテーノール侯爵によって、私たちイクシオン公爵家の悪事は白日の元に晒され、私たちは今報いを受けている。
私こそが兄の傀儡だった。
今さら気付いてももう遅い。
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