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第六章
第七十七話 訪問者
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大きな音が耳に入り、目が覚める。
緩慢な動作で、瞼をこすっていると話し声が聞こえてきた。片方はアリシア、もう一人のほうは知らない声だ。
ようすを見に行くためにかけられていた布団代わりの布を捲る。そして、そこでようやく普通に腕が動いていることに気づいた。
左腕は折れ、右腕はひしゃげていたはずだ。左の手の甲においては深く切り裂かれてもいた。しかし今はもう動きに違和感はない。魔法をかけたうえで回復薬も使ってくれたのだろう。魔力以外は万全の状態となっていた。
立ち上がり、近くにあった剣をとる。
俺がいる場所はドルミールさんの壊れかかった家の中だ。そして、向かうのは壊れた壁の先。アリシアがいるであろう外を目指す。
外は明るい。眠る前は夕方だったことを考えるとだいぶ寝ていたようだ。
少し歩くとアリシアの背中が見えてきた。遠くには倒れている騎士の人形がそのまま残されている。そしてもう一人、知らない人物がそこにはいた。まるで執事のような恰好をした男の人だ。
男の人は白髪ではあるが背筋は伸びている。お爺さんというほど年は取っていないだろう。ただ腰にある剣にはかなりの年季があるように見えた。飾りというわけではなさそうだ。無表情であり、何を考えているのかわからない。ただし、その目は赤く、魔族であることは一目でわかった。
敵だ。そう認識した瞬間、剣を持つ手に力が入る。魔力こそ心ともないが、いつ戦闘になってもいいように覚悟だけはしておく。
家の外に出ると魔族の男と目が合った。すると何故か一礼されてしまう。戸惑いながらも会釈し、アリシアの隣へと並ぶ。
「……どういう状況?」
「それが、あの男の人が突然空から降って来たんです。話してはみたんですけど、この森には二度と近づかないようにって言われるばっかりで……」
「お連れの方も目覚めたようですね。それならばもう移動にも支障はないかと。今すぐこの森からの立ち去りをお願いしてもよろしいでしょうか? 幸い大きな馬もいるようですし、今からなら日が暮れる前には森から出れるはずです」
白髪の魔族の口調は丁寧だった。しかし、その言葉にはどことなく圧力を感じる。
いつの間にか戻ってきていたシュセットに怪我はない。たしかに走れるだろう。けれど、ここまで来て戻る気はなかった。
「……立ち去る気はない、ということですかな? ここで引いて頂かないと私と戦うことになります。あなた方はドルミール様の人形と戦ったばかりでしょう? 連戦は避けたほうがよろしいのでは?」
「お気遣いどうも。でも、充分休んで回復してる。戦闘は問題ないのでご心配なく」
「そうですか……では、まず――」
来る!
そう思い身構えたものの、白髪の魔族が向かう先は俺たちではなかった。なぜか騎士の人形へと向かうと、しゃがみ込んで何かをしている。
「あれ? ツカサ様、あの人が持ってる球ってドルミールさんが埋め込んだやつですよね。壊れてるみたいですけど」
アリシアの言うとおり、白髪の魔族は騎士の人形から動力だと思われる球を取り出していた。
球は原形こそ保っているが、大きくひび割れている。あれではもう使い物にはならないだろう。
「ふむ。派手に壊れておりますな。まぁ、これで一つ目の任務は達成です。良しとしましょう」
白髪の魔族は球を懐にしまうとこちらへと向きを変える。半身となり構えてはいるが、腰の剣は抜いていない。
「やりすぎてしまう恐れがありますので、戦うというならそちらからどうぞ」
舐められているのだろうか? だとしたら油断してるうちに倒したいところだ。
「アリシア、下がって」
「はい……でも、今度は援護させてください」
「無理しなくていい。魔力だってないだ――」
「大丈夫です! 活性薬で回復してますから」
「……わかった。ただし、無理だけはしないで」
アリシアが下がり、白髪の魔族と対峙する。話をしている間も仕掛けてこなかった。舐められているか、実力に相当な自信があるのだろう。
剣を抜き、走り出す。
話をしながらも剣と両足には魔力を溜めていた。相手はいまだ動いていない。それなら――
「ファイアオーラ・バースト!」
左足の魔法を発動させ、一気に加速し飛んでいく。
剣は地面と水平に、その先端は弧を描きながら白髪の魔族の手首へと進む。
白髪の魔族は大きく後ろへ引いて俺の剣を躱す。そして、すぐさま踏み込んでくるようすも見えた。その拳は振り上げられ、俺の顔面を狙っているようだ。
飛んだ勢い、剣を振りぬいた影響もあり、今の俺では躱せないだろう。しかし、問題はない。俺の攻撃はまだ終わってないのだから。
「エタンセル!」
魔剣を発動させる。普段とは違い、剣の内側で爆発を起こすように意識した。その結果、爆発の衝撃と振り抜いた勢いが合わさり、体が一気に回転していく。
伸びた腕を振り抜く前の状態に戻すため、回転に合わせて体を捻る。視界がぐるりと回転し、ほんの一瞬、白髪の魔族を見失う。
目を離したのは微かな時間だった。だが、再び白髪の魔族を視界に入れたとき、その姿はすでに目の前にあった。
剣と拳が交差する。
俺の剣がわずかに速度で上回り、先に白髪の魔族の体を斬りつけていく。ただ、手ごたえは硬く、剣は岩の表面を削るかのような音を立てている。
刹那の間をおいて、拳のほうも俺の右頬を捉えた。頬は鈍い音を奏で、衝撃で互いの距離が開く。
意識が飛びそうになりながらも、白髪の魔族へ顔を向ける。
開いたはずの距離はなくなっていた。それどころか再び顔面に拳が迫ってきている。
防御は間に合わない。見た瞬間にそう判断し、念のために残しておいた右足の魔法を即座に発動させる。
バランスを崩した状態で発動した魔法は、回避こそ成功させたものの、着地には失敗してしまう。俺は受け身も取れずに地面を転がっていく。
駆けてくる音が耳に入る。
――まずい!
体を起こし、姿を確認したときにはすべてが遅かった。
腹部に衝撃が奔り、体が宙に浮く。
白髪の魔族と視線が合う。
「これで終わりです」
その言葉とともに、白髪の魔族の手に炎の球が現れる。だが、何故かあらぬ方向を向くと、その場を飛び退いていく。
直後、横から来た光の矢が炎の球を貫き、爆発を起こした。
再び地面を転がるが、今度はすぐに起き上がる。爆発は近かったが、直撃ではなかったことが幸いした。受け身も取ることができ、今の爆発でのダメージはあまりない。
「ツカサ様!」
「アリシア、ごめん。ありがとう」
「いえ、攻撃をはさむ機会が見つからなくて、援護が遅れてしまいました。すみません。傷は……すぐに治します。少しだけ動かないでください」
駆け寄ってきたアリシアが回復魔法をかけてくれる。少なからず受けていたダメージが癒えていく。
一方、爆炎が晴れた向こう側、白髪の魔族に動きはない。構えもとらずにこちらを見ている。
「なかなかの反応速度でした。そちらのお嬢さんも見事な援護です。ですが、今のが限界なら私に勝つのは難しいでしょう。二度と我々の前に姿を見せない。そう誓うなら見逃しますが……いかがでしょうか?」
この期に及んでまだ撤退を促してくるなんて……戦いたくない理由でもあるのか? だとしても俺たちには関係ない。魔法陣の破壊のためにも引くことはできないのだから。
アリシアと目配せし、剣を構える。
「……やはり、聞き入れてはもらえませんか。手加減は不得意なため退いてほしかったのですが……仕方ありませんね」
アリシアの姿を隠すように走り出す。
今回は剣にだけ魔力を溜めている。足に溜めないのは出し惜しみをしているわけではなく、魔力があまり残っていないからだ。もともと回復しきってなかったせいもあるが、普通の魔法はあと二、三発程度、破壊の魔法なら一発が限界だろう。とはいえ破壊の魔法は全力で使ったばかりだ。体の負担を考えるとあまり使いたくはない。
白髪の魔族が構えをとる。ただ相変わらず剣は抜いていない。あくまで素手で戦うつもりのようだ。
……独自魔法を使うべきか? いや、それも魔力が怪しいかもしれない。
カルミナの強化魔法がない今、本当は独自魔法を使った方がいいのだろう。使えば一気に有利になり、そのまま勝てる可能性もある。ただ同時に不安も感じていた。
悔しいことに白髪の魔族は手加減をしている。本来の強さは見当もつかない。そのうえ俺は魔力不足だ。おそらく今の状態だと独自魔法は二、三秒しかもたないだろう。正直なところ、勝てる可能性より不安のほうが大きい。なにせ最悪の場合、一撃も当てられず、ただ魔力を消費するという結果になりかねないのだ。そして魔力が切れて独自魔法が解除されれば俺は動けなくなる。そうなったら、ただの自滅でしかなかった。
最悪を想定し、余力を残すのが正解かはわからない。実力で劣っているのが現状だ。このまま戦っても勝ち目はないかもしれない。ただし、それは俺が一人だった場合だ。
間合いに入る直前で剣を地面に叩きつけ――
「エタンセル!」
「ぬっ!?」
爆発により土煙を上げ、簡易的な煙幕を作る。目的は目くらまし。ただ、この隙に攻めることはしない。俺のやることはもう一度剣に魔力を集めることであり、攻めの役割を担うのはアリシアの魔法だ
幾筋もの光の矢が俺を追い抜いていく。光は緩やかな弧を描き、白髪の魔族が見えていた地点へと進む。それは俺の後ろから、敵の姿が見えない状態で撃ったとは思えないほど正確であり、技術の高さが分かる魔法だった。
光の矢は土煙の中で次々と爆発を起こしていく。そして、それを確認すると同時に俺は走り出していた。
白髪の魔族は強い。それは先ほどのやり取りからでもわかっている。だからこそアリシアの魔法は防がれているだろうとも思う。だた、予想外の攻撃ではあったはずだ。
回避はできていない。
そう判断した俺は土煙の中、爆発の起きている場所へと全力で剣を振り下ろすのであった。
緩慢な動作で、瞼をこすっていると話し声が聞こえてきた。片方はアリシア、もう一人のほうは知らない声だ。
ようすを見に行くためにかけられていた布団代わりの布を捲る。そして、そこでようやく普通に腕が動いていることに気づいた。
左腕は折れ、右腕はひしゃげていたはずだ。左の手の甲においては深く切り裂かれてもいた。しかし今はもう動きに違和感はない。魔法をかけたうえで回復薬も使ってくれたのだろう。魔力以外は万全の状態となっていた。
立ち上がり、近くにあった剣をとる。
俺がいる場所はドルミールさんの壊れかかった家の中だ。そして、向かうのは壊れた壁の先。アリシアがいるであろう外を目指す。
外は明るい。眠る前は夕方だったことを考えるとだいぶ寝ていたようだ。
少し歩くとアリシアの背中が見えてきた。遠くには倒れている騎士の人形がそのまま残されている。そしてもう一人、知らない人物がそこにはいた。まるで執事のような恰好をした男の人だ。
男の人は白髪ではあるが背筋は伸びている。お爺さんというほど年は取っていないだろう。ただ腰にある剣にはかなりの年季があるように見えた。飾りというわけではなさそうだ。無表情であり、何を考えているのかわからない。ただし、その目は赤く、魔族であることは一目でわかった。
敵だ。そう認識した瞬間、剣を持つ手に力が入る。魔力こそ心ともないが、いつ戦闘になってもいいように覚悟だけはしておく。
家の外に出ると魔族の男と目が合った。すると何故か一礼されてしまう。戸惑いながらも会釈し、アリシアの隣へと並ぶ。
「……どういう状況?」
「それが、あの男の人が突然空から降って来たんです。話してはみたんですけど、この森には二度と近づかないようにって言われるばっかりで……」
「お連れの方も目覚めたようですね。それならばもう移動にも支障はないかと。今すぐこの森からの立ち去りをお願いしてもよろしいでしょうか? 幸い大きな馬もいるようですし、今からなら日が暮れる前には森から出れるはずです」
白髪の魔族の口調は丁寧だった。しかし、その言葉にはどことなく圧力を感じる。
いつの間にか戻ってきていたシュセットに怪我はない。たしかに走れるだろう。けれど、ここまで来て戻る気はなかった。
「……立ち去る気はない、ということですかな? ここで引いて頂かないと私と戦うことになります。あなた方はドルミール様の人形と戦ったばかりでしょう? 連戦は避けたほうがよろしいのでは?」
「お気遣いどうも。でも、充分休んで回復してる。戦闘は問題ないのでご心配なく」
「そうですか……では、まず――」
来る!
そう思い身構えたものの、白髪の魔族が向かう先は俺たちではなかった。なぜか騎士の人形へと向かうと、しゃがみ込んで何かをしている。
「あれ? ツカサ様、あの人が持ってる球ってドルミールさんが埋め込んだやつですよね。壊れてるみたいですけど」
アリシアの言うとおり、白髪の魔族は騎士の人形から動力だと思われる球を取り出していた。
球は原形こそ保っているが、大きくひび割れている。あれではもう使い物にはならないだろう。
「ふむ。派手に壊れておりますな。まぁ、これで一つ目の任務は達成です。良しとしましょう」
白髪の魔族は球を懐にしまうとこちらへと向きを変える。半身となり構えてはいるが、腰の剣は抜いていない。
「やりすぎてしまう恐れがありますので、戦うというならそちらからどうぞ」
舐められているのだろうか? だとしたら油断してるうちに倒したいところだ。
「アリシア、下がって」
「はい……でも、今度は援護させてください」
「無理しなくていい。魔力だってないだ――」
「大丈夫です! 活性薬で回復してますから」
「……わかった。ただし、無理だけはしないで」
アリシアが下がり、白髪の魔族と対峙する。話をしている間も仕掛けてこなかった。舐められているか、実力に相当な自信があるのだろう。
剣を抜き、走り出す。
話をしながらも剣と両足には魔力を溜めていた。相手はいまだ動いていない。それなら――
「ファイアオーラ・バースト!」
左足の魔法を発動させ、一気に加速し飛んでいく。
剣は地面と水平に、その先端は弧を描きながら白髪の魔族の手首へと進む。
白髪の魔族は大きく後ろへ引いて俺の剣を躱す。そして、すぐさま踏み込んでくるようすも見えた。その拳は振り上げられ、俺の顔面を狙っているようだ。
飛んだ勢い、剣を振りぬいた影響もあり、今の俺では躱せないだろう。しかし、問題はない。俺の攻撃はまだ終わってないのだから。
「エタンセル!」
魔剣を発動させる。普段とは違い、剣の内側で爆発を起こすように意識した。その結果、爆発の衝撃と振り抜いた勢いが合わさり、体が一気に回転していく。
伸びた腕を振り抜く前の状態に戻すため、回転に合わせて体を捻る。視界がぐるりと回転し、ほんの一瞬、白髪の魔族を見失う。
目を離したのは微かな時間だった。だが、再び白髪の魔族を視界に入れたとき、その姿はすでに目の前にあった。
剣と拳が交差する。
俺の剣がわずかに速度で上回り、先に白髪の魔族の体を斬りつけていく。ただ、手ごたえは硬く、剣は岩の表面を削るかのような音を立てている。
刹那の間をおいて、拳のほうも俺の右頬を捉えた。頬は鈍い音を奏で、衝撃で互いの距離が開く。
意識が飛びそうになりながらも、白髪の魔族へ顔を向ける。
開いたはずの距離はなくなっていた。それどころか再び顔面に拳が迫ってきている。
防御は間に合わない。見た瞬間にそう判断し、念のために残しておいた右足の魔法を即座に発動させる。
バランスを崩した状態で発動した魔法は、回避こそ成功させたものの、着地には失敗してしまう。俺は受け身も取れずに地面を転がっていく。
駆けてくる音が耳に入る。
――まずい!
体を起こし、姿を確認したときにはすべてが遅かった。
腹部に衝撃が奔り、体が宙に浮く。
白髪の魔族と視線が合う。
「これで終わりです」
その言葉とともに、白髪の魔族の手に炎の球が現れる。だが、何故かあらぬ方向を向くと、その場を飛び退いていく。
直後、横から来た光の矢が炎の球を貫き、爆発を起こした。
再び地面を転がるが、今度はすぐに起き上がる。爆発は近かったが、直撃ではなかったことが幸いした。受け身も取ることができ、今の爆発でのダメージはあまりない。
「ツカサ様!」
「アリシア、ごめん。ありがとう」
「いえ、攻撃をはさむ機会が見つからなくて、援護が遅れてしまいました。すみません。傷は……すぐに治します。少しだけ動かないでください」
駆け寄ってきたアリシアが回復魔法をかけてくれる。少なからず受けていたダメージが癒えていく。
一方、爆炎が晴れた向こう側、白髪の魔族に動きはない。構えもとらずにこちらを見ている。
「なかなかの反応速度でした。そちらのお嬢さんも見事な援護です。ですが、今のが限界なら私に勝つのは難しいでしょう。二度と我々の前に姿を見せない。そう誓うなら見逃しますが……いかがでしょうか?」
この期に及んでまだ撤退を促してくるなんて……戦いたくない理由でもあるのか? だとしても俺たちには関係ない。魔法陣の破壊のためにも引くことはできないのだから。
アリシアと目配せし、剣を構える。
「……やはり、聞き入れてはもらえませんか。手加減は不得意なため退いてほしかったのですが……仕方ありませんね」
アリシアの姿を隠すように走り出す。
今回は剣にだけ魔力を溜めている。足に溜めないのは出し惜しみをしているわけではなく、魔力があまり残っていないからだ。もともと回復しきってなかったせいもあるが、普通の魔法はあと二、三発程度、破壊の魔法なら一発が限界だろう。とはいえ破壊の魔法は全力で使ったばかりだ。体の負担を考えるとあまり使いたくはない。
白髪の魔族が構えをとる。ただ相変わらず剣は抜いていない。あくまで素手で戦うつもりのようだ。
……独自魔法を使うべきか? いや、それも魔力が怪しいかもしれない。
カルミナの強化魔法がない今、本当は独自魔法を使った方がいいのだろう。使えば一気に有利になり、そのまま勝てる可能性もある。ただ同時に不安も感じていた。
悔しいことに白髪の魔族は手加減をしている。本来の強さは見当もつかない。そのうえ俺は魔力不足だ。おそらく今の状態だと独自魔法は二、三秒しかもたないだろう。正直なところ、勝てる可能性より不安のほうが大きい。なにせ最悪の場合、一撃も当てられず、ただ魔力を消費するという結果になりかねないのだ。そして魔力が切れて独自魔法が解除されれば俺は動けなくなる。そうなったら、ただの自滅でしかなかった。
最悪を想定し、余力を残すのが正解かはわからない。実力で劣っているのが現状だ。このまま戦っても勝ち目はないかもしれない。ただし、それは俺が一人だった場合だ。
間合いに入る直前で剣を地面に叩きつけ――
「エタンセル!」
「ぬっ!?」
爆発により土煙を上げ、簡易的な煙幕を作る。目的は目くらまし。ただ、この隙に攻めることはしない。俺のやることはもう一度剣に魔力を集めることであり、攻めの役割を担うのはアリシアの魔法だ
幾筋もの光の矢が俺を追い抜いていく。光は緩やかな弧を描き、白髪の魔族が見えていた地点へと進む。それは俺の後ろから、敵の姿が見えない状態で撃ったとは思えないほど正確であり、技術の高さが分かる魔法だった。
光の矢は土煙の中で次々と爆発を起こしていく。そして、それを確認すると同時に俺は走り出していた。
白髪の魔族は強い。それは先ほどのやり取りからでもわかっている。だからこそアリシアの魔法は防がれているだろうとも思う。だた、予想外の攻撃ではあったはずだ。
回避はできていない。
そう判断した俺は土煙の中、爆発の起きている場所へと全力で剣を振り下ろすのであった。
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