89 / 116
第七章
第八十八話 再開
しおりを挟む
日も落ちて辺りが暗くなったころ、俺は大岩の陰からそっと森のようすを窺っていた。
見えるのは大量の土の騎士だ。森の奥からどんどん出てくる。すでに誘導作戦ははじまっているというのに、一向に数が減るようすがない。
セリューズさんたちによる誘導がはじまって一時間はたつ。ときおり中央が薄くなることもあった。しかしすぐに数が戻り、陣形の厚みは戻ってしまう。飛び出せば見つかってしまう状況であり、俺たちは動けずにいた。
幸い土の騎士は数こそ多いものの強くはない。おかげでセリューズさんたちも苦戦はしておらず、むしろ余裕があるとの連絡を受けている。ただし、隊長格らしき鉄の騎士だけは別らしい。倒せはするが、師団長以上の実力がないと危ないとのことだった。
今はまだ怪我人も出ていない。けど、それも時間の問題だろう。みんなが疲弊する前に何とかしないと……
「ツカサ様、通信が来ました。再生します」
アリシアの言葉で大岩から出していた頭を引っ込める。
定時連絡はさっき来たばかりだ。つまり、これは緊急のものということになる。少し嫌な予感がしてきてしまう。
『二人とも急な連絡で済まない。現状は変わっていないので先ほどの位置にいるだろうか? そうだとしたらそのままそこにいてほしい』
セリューズさんの声だ。焦っているようすはない。周りの戦闘音も入っていないことから、苦戦しているわけでもなさそうだ。とりあえず悪い緊急連絡ではないのだろう。
安堵し、息をつきそうになるが、話はまだ終わっていない。引き続き注意して聞いていく。
『簡潔に言おう。そちらに援軍が到着する。場所は先ほどの位置だ。それから、我々誘導部隊は膠着状態から動くことはできそうない。すまないが援軍と力を合わせて上手く潜入してくれ』
援軍? さすがに早すぎないか? いくらシュセットといえども……いや、そういえば休息をとったあとに丸一日走り続けたこともある。しかもそのときは馬車付きだったはず。それを考えれば、元気なときのシュセットならあり得なくはないのかもな。
「援軍の方が来て、今の状況を何とか変えられるといいんですけど……」
「人が増えれば出来ることも増えるはずだから、みんなで考えてみよう。俺たちだけじゃどうしようもない状況だけど、援軍の人は何か良い案とか思いつくかもしれない」
正直、援軍が来てもこの物量差を覆せるとは思っていなかった。
このまま何も思いつかなかった場合、土の騎士が少なくなったタイミングで駆け抜けるしかない。そのときはアリシアに巨大な閃光で目くらましをしてもらい、その隙に独自魔法で移動して森に入る予定だ。
アリシアには反対される方法だとは思う。俺一人しか森に入れないうえ、アリシアと援軍の人を残すことになる。だが、他に方法がなければ仕方ない。アリシアもきっとわかってくれるだろう。
「あ! 誰か来ます。たぶん二人です」
アリシアが指さしたほうを見るが俺には見えない。この異世界で身体能力は上がったが、視力はあまり変わっていないせいだろう。もしくは単にアリシアの夜目が効くだけかもしれないが。
隠れたままで援軍の到着を待つ。
今、俺たちがいる大岩は森に行くまでに隠れられる唯一の場所である。だから目印として事前にセリューズさんたちにも報告をしていた。本当はこの場所に長くいるつもりはなかったのだが、潜入の隙が無く留まっていたのだ。
足踏み状態ではあったが合流にはちょうど良い場所であり、結果的によかったかもしれない。この大岩なら暗くても援軍の人たちからも見えているはずだ。
しばらくすると大岩の陰、森からは死角になるように歩いてくる二人の人影が俺の目にも見えるようになってきた。
目を凝らして見るが、シュセットの姿はない。さすがに目立つと考えたのだろう。シュセットが来ても岩に隠れられないこともない。ただそうなったらだいぶ窮屈になってしまいそうではあった。
援軍の人たちが近づくにつれ、その輪郭もはっきりしてくる。一人は華奢で、もう一人はかなり体格が良い。それでいて何かを背負っているようにも見える。
「え? もしかして……」
やはりアリシアのほうが目がいいようだ。すでに見えているらしい。驚いているようすから意外な人物だったのだろうか。
「見えた? 知ってる人?」
「知ってるも何も……フルールさんです。フルールさんですよ! あ、あとバルドレッド将軍もいます」
「……え? フルールさん? 目覚めたんだ……よかった」
バルドレッド将軍が来てくれたのにも驚いたが、それ以上に驚いたのはフルールさんのほうだ。完全に予想外だった。来てくれたこともうれしいが、何より無事に目覚めてくれてよかったと思う。
ほどなくして合流し、岩の陰で再会を喜び合う。気づかれないように小さい声ではあるが、嬉しい気持ちは伝わっているはずだ。
挨拶からはじまり近況を伝え、情報を交換していく。重要な会話が終わり、ひと段落したとき、フルールさんが神妙な顔で俺の顔を見つめてきた。
「ツカサ君、遅くなったけど謝らせて頂戴。……ごめんなさい。操られていたとはいえ、私はあなたを傷つけてしまったわ。本当にごめんなさい」
フルールさんが頭を下げている。
俺には一瞬、何のことかわからなかった。呆けた顔をしていたのかもしれない。バルドレッド将軍が少し驚いた表情で、お腹を押さえる動作をしてくれる。それでようやく思い出すことができた。
慌てて、気にしてない旨をフルールさんに伝える。俺の反応がおかしかったせいか、怪訝な表情だ。たが、繰り返し伝えて何とか納得してもらった。
正直、忘れていた。フルールさんが洗脳されたことではなく、お腹の傷についてをだ。
たしかに衝撃的な出来事ではあったのだが、傷自体はすぐに治っている。それに、傷というならもっと酷いのを体験してきているのだ。俺の中では、そういえばそんな傷もあったな、というぐらいの思い出となっていた。
思い出すために急に頭を使ったせいか、少し頭痛がする。
……そういえば、前に頭痛がしてたのはカルミナのせいだったな。念のためにあとで破壊の力を纏っておくか? 思い出せた以上は問題ないと思うが、念には念のためだ。弱い力でなら消費する魔力も大丈夫だろう。
最近ではカルミナのことを信用しはじめていた。とはいえ、それとこれは話が別だ。前科がある以上、怪しければ確かめる。そのほうがお互い後腐れはなくていいはずだ。
「よし、一件落着ということで良いな。あまり時間はないと聞いとるし、森に入る方法についての話に変えるとしよう」
「はい。ただ、俺たちのほうは良い案が思いつかなくて……」
「ふむ……ようは森に入ったあとに居場所がバレなければいいのじゃろう? すでに陽動作戦が始まっている以上、誰かが来ているというのは向こうもわかっとるはずじゃ。であるならば、多少目立ってもわしらの姿が見えなければ問題はあるまい」
たしかにそのとおりだ。俺も似たようなことは考えていた。しかし、全員で土の騎士の目を誤魔化していけるとは思えない。バルドレッド将軍には何か秘策があるのだろうか。
「ツカサ君の話を聞いた限り、敵は森の奥から際限なく出てきているようです。どういった方法をお考えでしょうか?」
「簡単じゃ。魔法ですべて吹き飛ばし、その隙に森へと侵入する。余波で森の中の奴もすぐには出てこれんじゃろうし、隠れる時間はあるはずじゃ」
理解しやすい簡単な方法ではある。しかし、実現できるかは別だ。数が少なくなるタイミングがあるとはいえ、それでも土の騎士の数は百や二百どころではない。かなりの広範囲に展開していることもあり、魔法で倒すにしても一発では無理がある。
……四人で同時に魔法を撃っても一部しか倒せないだろうな。いや、直線上の敵だけ倒して、フルールさんとバルドレッド将軍に煙幕を作ってもらえばいけるのか?
「……すいません。私、前ほど魔力がなくて……それに光属性しか使えないので目立っちゃうかもしれません」
「ん? 問題なかろう。魔法を撃つのはわし一人じゃ」
全員がバルドレッド将軍を見つめ、言葉を失っていた。かくいう俺も開いた口がふさがっていない。
……一人で倒しきれるってことなんだよな……あの数を。本当に?
「おぬしら、何を驚いとる? ……む? 見てみよ。丁度よい時間のようじゃ」
驚いている俺たちをよそにバルドレッド将軍は森を指し示す。それにつられて視線を動かせば、土の騎士たちが左右に散っていくところが目に入る。
陽動部隊にいる敵が減ったのだろう。今から移動するようだ。それでも数は多いが、バルドレッド将軍は当たり前といった具合で準備を進めている。
「各自、走る準備をしておくのじゃぞ」
その言葉に俺たちは慌てて体勢を整える。俺を先頭にフルールさん、アリシアと並んでいく。
バルドレッド将軍は巨大な斧を持ち、魔力を溜めているようだ。もう敵を倒しきることについて疑っているときではない。それにあれだけ自信があるならきっと大丈夫なのだろう。今は信じて走り切ることだけに集中したほうがいいはずだ。
息を潜め、集中してそのときを待つ。
じっと待っていると、後ろから豪快な破砕音が聞こえてきた。ちらりと横目で見れば振り下ろされた斧で地面が大きく割れている。
轟音と同時に目の前の地面には一本の線が奔っていた。
褐色の光を放ちながら、ひび割れのような線は真っすぐ森へと進んでいく。そして、見えなくなったところで辺りは静寂に包み込まれた。
何も起きず、誰も動けない。
……もしかして失敗した?
そう思ったとき、地面が揺れはじめ、褐色の光が一本の線から周囲に広がっていく。
唐突の起きた揺れは走れるか不安になるほど大きい。光によって見えた地面は大きくひび割れている。その範囲は広く、見えるところはすべてひび割れた大地へと変わっていた。
不意に揺れが収まる。
次の瞬間、耳が爆音によって潰された。褐色の光も見えなくなり、視界は一瞬で土煙に占領されてしまう。
耳からはどろりと流れる感触があったが幸い痛みはない。おかげで何が起きたのか見逃すことはなかった。
起きたのは地面の爆発。それも広範囲で高威力。土煙の上、はるか上空には粉々になった大量の土の騎士たちが微かに見える。目の前で起きた魔法、その光景を見た俺は走ることを忘れて呆然としてしまっていた。
見えるのは大量の土の騎士だ。森の奥からどんどん出てくる。すでに誘導作戦ははじまっているというのに、一向に数が減るようすがない。
セリューズさんたちによる誘導がはじまって一時間はたつ。ときおり中央が薄くなることもあった。しかしすぐに数が戻り、陣形の厚みは戻ってしまう。飛び出せば見つかってしまう状況であり、俺たちは動けずにいた。
幸い土の騎士は数こそ多いものの強くはない。おかげでセリューズさんたちも苦戦はしておらず、むしろ余裕があるとの連絡を受けている。ただし、隊長格らしき鉄の騎士だけは別らしい。倒せはするが、師団長以上の実力がないと危ないとのことだった。
今はまだ怪我人も出ていない。けど、それも時間の問題だろう。みんなが疲弊する前に何とかしないと……
「ツカサ様、通信が来ました。再生します」
アリシアの言葉で大岩から出していた頭を引っ込める。
定時連絡はさっき来たばかりだ。つまり、これは緊急のものということになる。少し嫌な予感がしてきてしまう。
『二人とも急な連絡で済まない。現状は変わっていないので先ほどの位置にいるだろうか? そうだとしたらそのままそこにいてほしい』
セリューズさんの声だ。焦っているようすはない。周りの戦闘音も入っていないことから、苦戦しているわけでもなさそうだ。とりあえず悪い緊急連絡ではないのだろう。
安堵し、息をつきそうになるが、話はまだ終わっていない。引き続き注意して聞いていく。
『簡潔に言おう。そちらに援軍が到着する。場所は先ほどの位置だ。それから、我々誘導部隊は膠着状態から動くことはできそうない。すまないが援軍と力を合わせて上手く潜入してくれ』
援軍? さすがに早すぎないか? いくらシュセットといえども……いや、そういえば休息をとったあとに丸一日走り続けたこともある。しかもそのときは馬車付きだったはず。それを考えれば、元気なときのシュセットならあり得なくはないのかもな。
「援軍の方が来て、今の状況を何とか変えられるといいんですけど……」
「人が増えれば出来ることも増えるはずだから、みんなで考えてみよう。俺たちだけじゃどうしようもない状況だけど、援軍の人は何か良い案とか思いつくかもしれない」
正直、援軍が来てもこの物量差を覆せるとは思っていなかった。
このまま何も思いつかなかった場合、土の騎士が少なくなったタイミングで駆け抜けるしかない。そのときはアリシアに巨大な閃光で目くらましをしてもらい、その隙に独自魔法で移動して森に入る予定だ。
アリシアには反対される方法だとは思う。俺一人しか森に入れないうえ、アリシアと援軍の人を残すことになる。だが、他に方法がなければ仕方ない。アリシアもきっとわかってくれるだろう。
「あ! 誰か来ます。たぶん二人です」
アリシアが指さしたほうを見るが俺には見えない。この異世界で身体能力は上がったが、視力はあまり変わっていないせいだろう。もしくは単にアリシアの夜目が効くだけかもしれないが。
隠れたままで援軍の到着を待つ。
今、俺たちがいる大岩は森に行くまでに隠れられる唯一の場所である。だから目印として事前にセリューズさんたちにも報告をしていた。本当はこの場所に長くいるつもりはなかったのだが、潜入の隙が無く留まっていたのだ。
足踏み状態ではあったが合流にはちょうど良い場所であり、結果的によかったかもしれない。この大岩なら暗くても援軍の人たちからも見えているはずだ。
しばらくすると大岩の陰、森からは死角になるように歩いてくる二人の人影が俺の目にも見えるようになってきた。
目を凝らして見るが、シュセットの姿はない。さすがに目立つと考えたのだろう。シュセットが来ても岩に隠れられないこともない。ただそうなったらだいぶ窮屈になってしまいそうではあった。
援軍の人たちが近づくにつれ、その輪郭もはっきりしてくる。一人は華奢で、もう一人はかなり体格が良い。それでいて何かを背負っているようにも見える。
「え? もしかして……」
やはりアリシアのほうが目がいいようだ。すでに見えているらしい。驚いているようすから意外な人物だったのだろうか。
「見えた? 知ってる人?」
「知ってるも何も……フルールさんです。フルールさんですよ! あ、あとバルドレッド将軍もいます」
「……え? フルールさん? 目覚めたんだ……よかった」
バルドレッド将軍が来てくれたのにも驚いたが、それ以上に驚いたのはフルールさんのほうだ。完全に予想外だった。来てくれたこともうれしいが、何より無事に目覚めてくれてよかったと思う。
ほどなくして合流し、岩の陰で再会を喜び合う。気づかれないように小さい声ではあるが、嬉しい気持ちは伝わっているはずだ。
挨拶からはじまり近況を伝え、情報を交換していく。重要な会話が終わり、ひと段落したとき、フルールさんが神妙な顔で俺の顔を見つめてきた。
「ツカサ君、遅くなったけど謝らせて頂戴。……ごめんなさい。操られていたとはいえ、私はあなたを傷つけてしまったわ。本当にごめんなさい」
フルールさんが頭を下げている。
俺には一瞬、何のことかわからなかった。呆けた顔をしていたのかもしれない。バルドレッド将軍が少し驚いた表情で、お腹を押さえる動作をしてくれる。それでようやく思い出すことができた。
慌てて、気にしてない旨をフルールさんに伝える。俺の反応がおかしかったせいか、怪訝な表情だ。たが、繰り返し伝えて何とか納得してもらった。
正直、忘れていた。フルールさんが洗脳されたことではなく、お腹の傷についてをだ。
たしかに衝撃的な出来事ではあったのだが、傷自体はすぐに治っている。それに、傷というならもっと酷いのを体験してきているのだ。俺の中では、そういえばそんな傷もあったな、というぐらいの思い出となっていた。
思い出すために急に頭を使ったせいか、少し頭痛がする。
……そういえば、前に頭痛がしてたのはカルミナのせいだったな。念のためにあとで破壊の力を纏っておくか? 思い出せた以上は問題ないと思うが、念には念のためだ。弱い力でなら消費する魔力も大丈夫だろう。
最近ではカルミナのことを信用しはじめていた。とはいえ、それとこれは話が別だ。前科がある以上、怪しければ確かめる。そのほうがお互い後腐れはなくていいはずだ。
「よし、一件落着ということで良いな。あまり時間はないと聞いとるし、森に入る方法についての話に変えるとしよう」
「はい。ただ、俺たちのほうは良い案が思いつかなくて……」
「ふむ……ようは森に入ったあとに居場所がバレなければいいのじゃろう? すでに陽動作戦が始まっている以上、誰かが来ているというのは向こうもわかっとるはずじゃ。であるならば、多少目立ってもわしらの姿が見えなければ問題はあるまい」
たしかにそのとおりだ。俺も似たようなことは考えていた。しかし、全員で土の騎士の目を誤魔化していけるとは思えない。バルドレッド将軍には何か秘策があるのだろうか。
「ツカサ君の話を聞いた限り、敵は森の奥から際限なく出てきているようです。どういった方法をお考えでしょうか?」
「簡単じゃ。魔法ですべて吹き飛ばし、その隙に森へと侵入する。余波で森の中の奴もすぐには出てこれんじゃろうし、隠れる時間はあるはずじゃ」
理解しやすい簡単な方法ではある。しかし、実現できるかは別だ。数が少なくなるタイミングがあるとはいえ、それでも土の騎士の数は百や二百どころではない。かなりの広範囲に展開していることもあり、魔法で倒すにしても一発では無理がある。
……四人で同時に魔法を撃っても一部しか倒せないだろうな。いや、直線上の敵だけ倒して、フルールさんとバルドレッド将軍に煙幕を作ってもらえばいけるのか?
「……すいません。私、前ほど魔力がなくて……それに光属性しか使えないので目立っちゃうかもしれません」
「ん? 問題なかろう。魔法を撃つのはわし一人じゃ」
全員がバルドレッド将軍を見つめ、言葉を失っていた。かくいう俺も開いた口がふさがっていない。
……一人で倒しきれるってことなんだよな……あの数を。本当に?
「おぬしら、何を驚いとる? ……む? 見てみよ。丁度よい時間のようじゃ」
驚いている俺たちをよそにバルドレッド将軍は森を指し示す。それにつられて視線を動かせば、土の騎士たちが左右に散っていくところが目に入る。
陽動部隊にいる敵が減ったのだろう。今から移動するようだ。それでも数は多いが、バルドレッド将軍は当たり前といった具合で準備を進めている。
「各自、走る準備をしておくのじゃぞ」
その言葉に俺たちは慌てて体勢を整える。俺を先頭にフルールさん、アリシアと並んでいく。
バルドレッド将軍は巨大な斧を持ち、魔力を溜めているようだ。もう敵を倒しきることについて疑っているときではない。それにあれだけ自信があるならきっと大丈夫なのだろう。今は信じて走り切ることだけに集中したほうがいいはずだ。
息を潜め、集中してそのときを待つ。
じっと待っていると、後ろから豪快な破砕音が聞こえてきた。ちらりと横目で見れば振り下ろされた斧で地面が大きく割れている。
轟音と同時に目の前の地面には一本の線が奔っていた。
褐色の光を放ちながら、ひび割れのような線は真っすぐ森へと進んでいく。そして、見えなくなったところで辺りは静寂に包み込まれた。
何も起きず、誰も動けない。
……もしかして失敗した?
そう思ったとき、地面が揺れはじめ、褐色の光が一本の線から周囲に広がっていく。
唐突の起きた揺れは走れるか不安になるほど大きい。光によって見えた地面は大きくひび割れている。その範囲は広く、見えるところはすべてひび割れた大地へと変わっていた。
不意に揺れが収まる。
次の瞬間、耳が爆音によって潰された。褐色の光も見えなくなり、視界は一瞬で土煙に占領されてしまう。
耳からはどろりと流れる感触があったが幸い痛みはない。おかげで何が起きたのか見逃すことはなかった。
起きたのは地面の爆発。それも広範囲で高威力。土煙の上、はるか上空には粉々になった大量の土の騎士たちが微かに見える。目の前で起きた魔法、その光景を見た俺は走ることを忘れて呆然としてしまっていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
75
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる