上 下
202 / 208
番外編

過保護な彼

しおりを挟む
 男性オメガは特に悪阻が酷いと聞いていた。
 それなのに俺は時たま吐き気がするくらいで、寝込むこともない。


「真樹、何かお腹に入れない? お腹すいたんだ。食べたいものある?」
「んー……トマト食べたい」
「わかった。それと炭酸水好きだよね。それ飲んでいいからね」
「うん。ありがとう」


 最近は一日の間に何度か刻んで食べるようになった。
 というのも、彼がお腹が空いたからとか喉が渇いたとか、そう言って俺の分も用意してくれるから。

 スライスしたトマトを持って隣に座った彼は、ニコニコ笑顔でフォークに刺したトマトを口元まで運んでくれる。



「ん、甘い、美味しい!」
「よかった。前にクラッカーも買ったんだ。クリームチーズもあるし、合わせたら食べる?」
「何それ美味しそう……。あとで小腹が空いた時に食べたいかも……」
「今はトマトだけでいい?」
「うん。ありがとう」


 トマトを食べて、彼にもたれ掛かる。
 そうしていると異様に眠たくなってきた。


「ねむ……」
「寝ていいよ。横になって……体勢辛くない?」
「大丈夫」


 膝枕をしてもらい、目を閉じる。
 凪さんが俺の手をとってキュッと握った。
 その手からじんわりと彼の体温が移って温かい。

 そんな日々を送っている間、凪さんは在宅で仕事をしていた。
 どうやらアルファは番が妊娠すると、普段以上に離れたくなくなるらしい。

 それが今日、どうしても会社に行かなければならないらしく、渋々家を出ていった。
 昼には帰ってくると言っていたけれど……本当、くっつき虫の如く離れなくて大変だった。



 朝ご飯を食べ暫く。
 いきなり吐き気がしてトイレに走る。


「うぇ……っ」


 全部出したあと、ゲホゲホ噎せてリビングに戻り置いてあった炭酸水を飲む。

 気持ち悪いのと、なんだか無性に寂しくなったのと、それを少しでも解消できるように寝室に行きクローゼットから凪さんの服を取って着た。


 そのままベッドに倒れて目を閉じる。
 起きたら彼がいますようにと願いながら眠りに落ちた。


 ■


「──まき、真樹!」
「……ン」


 肩をトントン叩かれる。
 うっすらと目を開けると焦った様子の凪さんがいた。


「凪さん……? おかえり……」
「そんなことより! 体調……よくないよね。顔色悪いし、ご飯は食べてない?」
「……今何時?」
「もう二時になるよ」
「えぇ……起きなきゃ」


 起き上がろうとして、凪さんに支えられる。
 起きてからも気持ち悪くて顔を歪めると、すかさず凪さんがビスケットをくれた。


「食べて。飲み物も飲んで」
「……気持ち悪い」
「うん。これ食べたら治まるかもしれないから。ね、お願い。」
「……うん」


 飲み物を持ってきた彼が隣に座り、そっと肩を撫でられる。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

溺愛パパは勇者!〜悪役令嬢の私のパパが勇者だった件〜

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:3,291

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:16,438pt お気に入り:3,115

言いたいことはそれだけですか。では始めましょう

恋愛 / 完結 24h.ポイント:4,146pt お気に入り:3,569

初恋の王子に嫁いだら既に側室がいたんだけど

ivy
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:497pt お気に入り:514

悪役令嬢になったようなので、婚約者の為に身を引きます!!!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,428pt お気に入り:3,276

憧れのテイマーになれたけど、何で神獣ばっかりなの⁉

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:589pt お気に入り:134

処理中です...