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二度目の結婚式
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大広間に入ると、丁度マーリットとオリヴァルが踊り終えたところであった。観客からは大きな拍手が送られており、どうやらダンスは大成功だったようだ。
よく見ると、何故だかマーリットの格好は先程と少し変わっていた。肩を隠すように白のストールを巻いており、アップになっていた髪は下ろされていたのである。
不思議に思いながらも、私はウェンデと共に広間の真ん中へと進んだ。当然、観客席からは驚きと困惑の声が聞こえてきた。
「ルイーセ王女はラーシュ王太子殿下と踊るはずでは?」
「騎士団長がどうしてここに? 警備はどうしたんだ?」
「一体どういうことだ?」
決して歓迎されているとは言い難い反応。向かい合って目を合わせると、やはりウェンデは少しだけ辛そうな顔をしていた。
しかし、彼の心に芽生えたであろう不安を掻き消すように、私はウェンデに笑いかけた。
私の中で、もう迷いは無かった。
「始めましょう、ウェンデ様」
「……ルイーセ」
そして私達は、ゆっくりとしたステップでダンスを始めた。楽団の演奏が始まると、人々のざわつきは少しずつ収まり始めたのだった。
それを見計らって、私はウェンデだけに聞こえるように囁いた。
「ウェンデ様。私が結婚式の時に着ていたウェディングドレス、覚えてますか?」
「ああ、小さい花柄のドレスだろう? 良く似合ってたから覚えてる」
「ふふっ、実は今日も、同じお花のドレスにしてみたんです」
そう。私はウェディングドレスと同じ、カスミソウの刺繍が施されたドレスを敢えて選んだのだ。
ラーシュと踊るにしても、私がウェンデの妻であることに変わりは無い。それを示すための、私なりの意思表示であった。
「……どうでしょうか?」
「ああ、とても似合ってる」
「あら、嬉しい」
スカートに散らばる花の刺繍を視線でなぞってから、ウェンデは穏やかに笑ってくれた。
観客がいるからといって、派手なパフォーマンスをするつもりは最初から無かった。ただただ私は、彼に思いを伝えることだけを考えていたのである。
けれども、私達を取り囲むような観客のヒソヒソ声は消えることは無かった。それを気にしてか、ウェンデの表情はまた曇ってしまったのである。
「私がついてますから、心配なさらないでください」
結婚式の時に彼が私に言ってくれたように、私はキッパリと言った。
何故なら、彼を結婚相手として選んだのも、守るのも私なのだから。
私の一言に、ウェンデは驚いたのか言葉を失っていた。
「っ、ルイーセ」
「ふふっ……って、きゃ!?」
ダンスも終盤となり、走り疲れたせいか足元がフラついて、私はいきなり大きくバランスを崩してしまったのである。
「おっと、危ない」
すると、ウェンデはすんでのところで私を支えてくれたのだった。
「あ、ご、ごめんなさい」
「何だか、二度目の結婚式をやってるみたいだな」
「っ!? ウェンデ様ってば!!」
私がバージンロードで転けかけたことを、ウェンデも思い出したのだろう。彼はからかう様な笑みを浮かべていた。
しかし、その表情からは不安はすっかり消え去っていたのである。
私達夫婦のことが観客にどう見えているかは分からない。けれども、彼に十分気持ちを伝えることは出来たのだと私は直感したのだった。
そして私達は、無事ダンスを踊りきったのである。
すると、ヒソヒソ声は消えており、観客席からは盛大な拍手が聞こえてきた。皆席から立ち上がり、惜しみ無い拍手を送ってくれていたのである。
それは、ウェンデと私の関係が皆から認められた瞬間だった。
「ウェンデ様。私、とっても幸せです」
嬉しさのあまり抱きつきたいのを抑えつつ、私は彼にそう言った。するとウェンデも、私にこう囁いてくれたのだった。
「ああ、私もだよ。ルイーセ」
こうして、舞踏会は幕を閉じたのである。
よく見ると、何故だかマーリットの格好は先程と少し変わっていた。肩を隠すように白のストールを巻いており、アップになっていた髪は下ろされていたのである。
不思議に思いながらも、私はウェンデと共に広間の真ん中へと進んだ。当然、観客席からは驚きと困惑の声が聞こえてきた。
「ルイーセ王女はラーシュ王太子殿下と踊るはずでは?」
「騎士団長がどうしてここに? 警備はどうしたんだ?」
「一体どういうことだ?」
決して歓迎されているとは言い難い反応。向かい合って目を合わせると、やはりウェンデは少しだけ辛そうな顔をしていた。
しかし、彼の心に芽生えたであろう不安を掻き消すように、私はウェンデに笑いかけた。
私の中で、もう迷いは無かった。
「始めましょう、ウェンデ様」
「……ルイーセ」
そして私達は、ゆっくりとしたステップでダンスを始めた。楽団の演奏が始まると、人々のざわつきは少しずつ収まり始めたのだった。
それを見計らって、私はウェンデだけに聞こえるように囁いた。
「ウェンデ様。私が結婚式の時に着ていたウェディングドレス、覚えてますか?」
「ああ、小さい花柄のドレスだろう? 良く似合ってたから覚えてる」
「ふふっ、実は今日も、同じお花のドレスにしてみたんです」
そう。私はウェディングドレスと同じ、カスミソウの刺繍が施されたドレスを敢えて選んだのだ。
ラーシュと踊るにしても、私がウェンデの妻であることに変わりは無い。それを示すための、私なりの意思表示であった。
「……どうでしょうか?」
「ああ、とても似合ってる」
「あら、嬉しい」
スカートに散らばる花の刺繍を視線でなぞってから、ウェンデは穏やかに笑ってくれた。
観客がいるからといって、派手なパフォーマンスをするつもりは最初から無かった。ただただ私は、彼に思いを伝えることだけを考えていたのである。
けれども、私達を取り囲むような観客のヒソヒソ声は消えることは無かった。それを気にしてか、ウェンデの表情はまた曇ってしまったのである。
「私がついてますから、心配なさらないでください」
結婚式の時に彼が私に言ってくれたように、私はキッパリと言った。
何故なら、彼を結婚相手として選んだのも、守るのも私なのだから。
私の一言に、ウェンデは驚いたのか言葉を失っていた。
「っ、ルイーセ」
「ふふっ……って、きゃ!?」
ダンスも終盤となり、走り疲れたせいか足元がフラついて、私はいきなり大きくバランスを崩してしまったのである。
「おっと、危ない」
すると、ウェンデはすんでのところで私を支えてくれたのだった。
「あ、ご、ごめんなさい」
「何だか、二度目の結婚式をやってるみたいだな」
「っ!? ウェンデ様ってば!!」
私がバージンロードで転けかけたことを、ウェンデも思い出したのだろう。彼はからかう様な笑みを浮かべていた。
しかし、その表情からは不安はすっかり消え去っていたのである。
私達夫婦のことが観客にどう見えているかは分からない。けれども、彼に十分気持ちを伝えることは出来たのだと私は直感したのだった。
そして私達は、無事ダンスを踊りきったのである。
すると、ヒソヒソ声は消えており、観客席からは盛大な拍手が聞こえてきた。皆席から立ち上がり、惜しみ無い拍手を送ってくれていたのである。
それは、ウェンデと私の関係が皆から認められた瞬間だった。
「ウェンデ様。私、とっても幸せです」
嬉しさのあまり抱きつきたいのを抑えつつ、私は彼にそう言った。するとウェンデも、私にこう囁いてくれたのだった。
「ああ、私もだよ。ルイーセ」
こうして、舞踏会は幕を閉じたのである。
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