完結♡聖女の狙いは私の旦那様!?~褒賞に選ばれた美貌の王子は、溺愛執着モードにチェンジしたようです~

二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中

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聖女の来訪はお断り

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「面倒なこと……と言いますと?」

 ちょうどリシャルドも公務から帰宅したこともあり、彼と義父上を加えてお茶会は仕切り直しとなった。失敗作のクッキーは完食していたので、テーブルの上にはシェフお手製のフィナンシェが並んでいた。

「今日の国王会議でウクラーリフ国王陛下とお会いしたのだが……いわく、クラーラ殿はラフタシュへの外遊をお望みらしい。その際、宿泊先をうちの宮殿にできないかと言われてね」

「あらまあ」

「するにしても警備の手配や調整が必要なので、一旦持ち帰りとさせてはもらったが……彼女の執心ぶりは推してはかるべしと言ったところか」

「……」

「すまない、ユスティア。君を不安がらせたい訳ではないんだ」

「い、いえ……」

 外遊というのは建前であり、それがリシャルドに会うためであるのは明白だった。クラーラがここまで早く行動に出るとは思ってもみなかったので、私はすっかり困惑していた。

 もし、クラーラ様がラフタシュに来ることが決まってしまえば……リシャルド様に何をするか分からない。でも、外遊自体をお断りするのは、ウクラーリフとの関係悪化に繋がりかねないわ。どうしたら……。

 そこまで考えていると、最初に口を開いたのは義母上であった。

「いっそ、外遊自体を断っちゃいましょうか」

「そうだな。理由付けはいくらでもできるはずだ」

 義母上の提案に、義父上も頷いた。あまりの即断即決ぶりに、私は慌てて言った。

「そ、その、ウクラーリフとの今後の関係を考えますと、お断りするのはさすがに……」

「ああ、ティアの言う通りです。自分は相手に何をされてもいくらでもかわせるので、外遊自体は受け入れて数日だけは辛抱して……という方が良いかもしれません。例えば宿泊先は宮殿ではなく離宮にするなど、手立てはいくらでもあるはずです」

 国の利益が関わることなので、リシャルドも外遊自体を断るのには賛成できないようだった。

 正直、クラーラが彼に話しかけてくるのを想像するだけで動悸がする。いくら私がリシャルドの妻だといっても、クラーラの方が彼とお似合いなのは目に見えているからだ。もし何かの間違いで二人が意気投合したならば、凡人である私に付け入る隙はない。

 そう思うと、リシャルドとクラーラをなるべく会わせないようにしたいのが私の本音だ。しかし国益が関わることに、私的な感情を持ち出してはならない。ここは私が、耐えるしかないのだ。

 私たち夫婦がそんな言葉を口にすると、義母上は言った。

「二人共。私からするとね、これを足がかりに“結婚を許すまでウクラーリフに帰らない”とか聖女殿に要求されるのが、一番怖いと思うのよ。そうなってしまえば、 ウクラーリフとの関係は余計にこじれてしまう。そうでしょう?」

「……っ」

「ああ、違いない。一旦検討したが諸般の事情でお断りというのは、どんな外交の場でもよくあることだ。それに、関係が悪化したら困るというのはウクラーリフ側も同じだから、ここで強硬な姿勢は取れないはずだよ。だから、安心なさい」

「……父上」

「リシャルド。今はユスティアを守ることだけ考えてあげて。国のことは心配しなくていいから、大丈夫よ」

 そう言って、義母上は話を締めくくった。そして私とリシャルドは、ようやく頷いたのだった。

「そうと決まれば。楽しい話題に変えようか」

 義父上は、テーブルの上に数枚の資料を出したのだった。

「視察の件、無事にアルラニから許可を得られたよ。アルラニ国王陛下も二人が来るのを楽しみにしていると仰られていた。良かったじゃないか」

「ありがとうございます!」

「せっかくの機会だ。夫婦二人で楽しんできなさい。アルラニは自然に囲まれた国だし、落ち着いて過ごせるはずだ」

 ラフタシュ王室では結婚してから一年目に、友好国に夫婦で視察に行くという伝統がある。そしてそれは、視察と名のついたいわゆる新婚旅行であった。

 リシャルドと話し合った結果、私たちは少し離れた友好国アルラニへの訪問を希望していた。その希望が、無事に通ったようだった。

「日程も、事前に君たちが希望していたあたりで調整可能だそうだ」

「でも……クラーラ様の件が落ち着いてからの方がよろしいのでは?」

「あら、こんな時だからこそ、行くべきなんじゃないかしら?」

 紅茶をひと口飲んでから、義母上は言った。

「二人が夫婦であることを、世間に改めてアピールする良い機会だわ。貴女たちに護衛を付けることも可能だから、ね?」

「……お義母様」

「視察に行く時も、結婚指輪と婚約指輪は忘れずにね」

 クラーラが何をしたとしても、私がリシャルドと夫婦であることには変わらない。義母上の言葉で、私はようやくそう思えたのだった。

「視察で回りたいところを、いくつかピックアップしておくといい。資料にまとめてあるから、また後で二人で話し合いなさい」

「はい、ありがとうございます」

 こうして私たち夫婦は、視察に向けた準備を始めたのだった。 

+23:02にもう1話更新予定です。
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