完結♡聖女の狙いは私の旦那様!?~褒賞に選ばれた美貌の王子は、溺愛執着モードにチェンジしたようです~

二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中

文字の大きさ
8 / 50

夫婦で始める、いい男探し

しおりを挟む
 私の父上がラフタシュの宮殿を訪ねてきたのは、アルラニへの視察をちょうど半月前に控えた日であった。

「お父様、お久しぶりです」

「ああ。元気そうだな、ユスティア。宮殿での生活にはもう慣れたかい?」

「ふふっ、お陰様で。皆様お優しいので、毎日楽しく過ごしておりますわ」

「そうか、それは良かった」

 良かったと言いつつも、父上の表情は暗いものとなっていた。てっきり父上が私を訪ねてきたのは、近況報告ぐらいのことだろうと思っていたので、その反応は想定外であった。

 どうやら何か、重要な話があるらしい。そう思った途端、私は自然と背筋を伸ばしていた。そして何も言わず、父上の言葉を待ったのだった。

「ユスティア。クラーラ殿の件について、私の方でも話は聞いている。私が今日お前に会いに来たのは、他でもなくそのことについてだ」

 クラーラの名前を聞いて、心臓がバクバクとうるさく音を鳴らす。外遊を断ってから一度も彼女と会っていないため、その名前を聞くとは思わなかったのだ。

「国王陛下がクラーラ殿のラフタシュ訪問をお断りされたようだが……どうやら、彼女はそれに納得していないようなんだ」

「……ええ」

「それだけではない。噂に聞いたところ、どうやらウクラーリフ国王は、クラーラ殿の望みを叶える形で動いているようなんだ」

 クラーラの希望を叶える。それは、私も初耳のことであった。あまりのことで驚きを隠せず、知らぬ間に私は、応接間のテーブルに身を乗り出していた。

「っ、お父様、それは一体、どういう意味ですの!? そんなお話、私は聞いておりませんわ!」

「そうだろうな。私も、ターニャから聞いて驚いたよ。しかし、あの子が侯爵閣下から聞いたと言うのだから、間違いなく事実なのだろう」

 私の姉のターニャは、ウクラーリフの侯爵家に嫁いでいた。侯爵はウクラーリフ宮殿に頻繁に訪れているため、どうやら偶然その話を耳にしたらしい。

「現状、ラフタシュでは側妃を持つことは認められていない。そのため、ラフタシュではなくウクラーリフで婚姻関係を結ぶことを、クラーラ殿は狙っているようなんだ」

 父上いわく、聖女は以下のように考えているらしい。

 ラフタシュの国内でリシャルドの妻となれるのは一人であり、私はその座についている。しかし、私を退かせるのは厳しいことである。

 ならば、リシャルドにウクラーリフの爵位と領地を与えて、ラフタシュの王子ではなく“ウクラーリフの”貴族としての立場を与えた上で、ウクラーリフ国内で結婚する。どうやらクラーラは、そんなことを目論んでいるようだった。

「噂によると……リシャルド王子殿下に公爵の位を与えることや、どこの領地を与えるかについても、具体的に決まっているようだ」

「そんな……了承もなしに、あんまりですわ」

「そうだな。お前の気持ちは十分に分かるよ。だがな……しがない地方貴族に過ぎない我が家には、どうもできないんだ」

「……っ」

 そう。私の実家は田舎の伯爵家であり、大した家柄でもない。国へ多大なる貢献をして来た聖女と、ただの田舎貴族の出であり大した功績もない私の立場が対等であるはずがないのだ。

「ユスティア。私も本当は、娘にこんなことを言いたくはない。しかし、こればかりは致し方ないことだ」

「……」

「お前が王子殿下と仲睦まじく過ごしているという話はよく耳にするよ。でも……いつ起きるか分からない“もしものこと”は、どうか覚悟していてほしい」

 相手が国を担う聖女である以上、父上の力ではどうにもならないことだ。無論、父上を責めることはできない。

 そして私は、しがない貴族の娘らしく、ことを受け入れるしかないのである。

「……はい。承知しました」

 暖かい季節だというのに、胸の奥はとても冷たい。私は目の前の景色がくすんだ色に見え始めるのを感じながら、父上を見送ったのだった。

+

 父上が帰ったあと、私は書斎でアルラニに関する本を読んで時間を過ごしていた。

 もしリシャルドがウクラーリフの爵位を得てクラーラと結ばれるならば、彼と二人で過ごせる時間も、きっと少なくなってしまう。アルラニへの視察が、夫婦最後の旅行になるかもしれない。だからせめて、視察を有意義なものにするため、万全な準備をしておきたかったのだ。

 しかしいくらページを捲っても、内容が一切頭に入ってこない。私はため息を吐いて、本の表紙を閉じたのだった。

「ティア、ここにいたんだ」

 冷めきった紅茶を飲んでいると、リシャルドが公務から帰ってきた。そして彼は、なぜか大量の書類を抱えていたのだった。

「お、お帰りなさいませ……リシャルド様」

「ただいま。メイドから聞いたけど、さっきまで伯爵閣下がいらしていたんだって? お元気そうだったかい?」

「は、はい」

 正直、リシャルドの顔を見るだけで私は泣きそうな気分であった。この結婚自体が身分不相応とは分かっていても、やはり私は彼と離れたくないのだ。

 しかし、父上から聞いた話はウクラーリフの機密情報だ。ここでリシャルドに言ってしまえば、父上や姉上、そして姉上の婚家にまで迷惑がかかってしまう。

 私はテーブルの下で拳を握りながら、必死に愛想笑いを浮かべた。

「公務がもう少し早く終われば俺も顔見せできたのに、残念だったな。また今度の機会に、きちんとさせてもらうよ」

「お気遣い、ありがとうございます。ところで……」

 私は机に置かれた資料の束に、ちらりと目を向けた。

「リシャルド様、こちらは……?」

「ああ、帰りに騎士団本部に寄って、うちの騎士たちの絵姿付きの団員録を借りてきたんだ。視察に連れていく騎士を選ぶためにね」

 通常、視察などで警備を行う騎士は、騎士団側が選ぶものだ。リシャルドが直接指名することは異例のことであり、私は内心首を傾げた。

「それで、ティアにも選ぶのを手伝ってほしいんだ。聖女様が気に入りそうな、とびっきりのいい男探しに」

 そう言ってリシャルドは、団員録のうちの一冊を私に差し出したのだった。

+明日は朝から投稿予定。お楽しみに♡
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

公爵夫人は愛されている事に気が付かない

山葵
恋愛
「あら?侯爵夫人ご覧になって…」 「あれはクライマス公爵…いつ見ても惚れ惚れしてしまいますわねぇ~♡」 「本当に女性が見ても羨ましいくらいの美形ですわねぇ~♡…それなのに…」 「本当にクライマス公爵が可哀想でならないわ…いくら王命だからと言ってもねぇ…」 社交パーティーに参加すれば、いつも聞こえてくる私への陰口…。 貴女達が言わなくても、私が1番、分かっている。 夫の隣に私は相応しくないのだと…。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています

22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」 そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。 理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。 (まあ、そんな気はしてました) 社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。 未練もないし、王宮に居続ける理由もない。 だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。 これからは自由に静かに暮らそう! そう思っていたのに―― 「……なぜ、殿下がここに?」 「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」 婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!? さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。 「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」 「いいや、俺の妻になるべきだろう?」 「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに

reva
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。 選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。 地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。 失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。 「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」 彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。 そして、私は彼の正妃として王都へ……

処理中です...