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第48話 提案

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「ま、魔力がなくてもこの学園に残れる理由……?」

 明らかに動揺しているニコール。
 まったくもって想定していなかった事態に、彼女は二の句を告げることができずその場に立ち尽くす。
 やはり、本音ではまだこの学園を去りたくないのだろう。魔力がないからと自分に言い聞かせてはいるものの、まだすがれる藁が残っているのなら全力でそれを掴みに行きたい――そんな彼女の本心が見え隠れするリアクションだった。

「あきらめるにはまだ早い。君の資質を生かせる道が必ずあるはずだ」
「……無理だよ」

 俯き、力なく言葉を吐きだす。

「私はずっと……教会のみんなや励ましてくれた人たちのためになることをしようって考えていたのに……それが叶わないなんて……」

 ボロボロと大粒の涙をこぼしながらも――ニコールはついに本心を口にした。
 教会というのは、彼女が世話になっていた施設のことだろう。親の育児放棄や不慮の事故で親を亡くすなど、さまざまな理由でひとりになってしまった子どもたちを救済するための場所が王都に存在しているという話は聞いたことがある。

 ニコールはそこの出身……となると、ここまで来るのはめちゃくちゃ大変だったろうし、周りからの期待も大きかったことがうかがえる。それがこういう形で裏切られるとは……本人としてもやるせないだろう。

 ――だが、絶望するにはまだ早い。

「君は知らないかもしれないが、俺はかつてとあるパーティーに所属していた冒険者で、そこの若手育成に携わっていた。君と同じように悩みを抱える若い子たちもよく見てきたよ」

 そう語りかけると、突っ張っていたニコールの肩がスッと脱力し、ゆっくりと顔を上げる。

「あたし……まだ学園にいられる?」
「確証はない。――けど、君がその気になればきっと活路はあるはずだ」

 必死に訴えると、ニコールは静かに頷いた。
 どうやら、分かってくれたみたいだけど……本当に大変なのはここからだな。
 詳しく話を聞こうとしたが、ちょうどそのタイミングで授業の終了を告げる時計塔の鐘が鳴り響く。

「もうこんな時間になっていたか……」

 今日のところはニコールを女子寮へと帰したのだが……問題はこの先だ。魔力を持たない彼女がこの学園で活躍する方法を考えなくては。

「飄々としているように見えたけど、内心いろいろと溜め込んでいたみたいにゃ……」

 さすがのラドルフも心配しているようだな。
 確かに、初めて会った時は不真面目な生徒かと思ったけど、実は真面目でアツい性格をしていたんだな。
 ああいうタイプは伸びる。
 だからこそ、魔力がないという点は悩ましいが……そこをなんとかしてこその育成スキルだと俺は考える。
 ただ、こちらで勝手にいろいろと進めるのは何かとまずそうだ。
 まずは一度、学園の関係者と話をしてみるか。

「この手の話を一番持っていきやすいのは……やっぱりサラかな」

 受け持つ学年は違うが、彼女の性格を考慮するときっとニコールについても気にかけているのではないか――まあ、二年生の方はアデレートという扱いに困っていた生徒がいたから、現一年生の状況をどこまで把握しているかは分からないけどね。

 ともかく、相談はしてみようと思う。

「今から飲みに誘っても大丈夫かな?」

 そんな心配をしつつ、俺は職員室のある中央校舎へと向かうのだった。
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