悪徳商人の無自覚英雄譚 ~悪行を善行と勘違いされる大商会の御曹司、気づけば世界を救う?~

鈴木竜一

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第2話 この世界で生き抜くために

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 この世界に存在する者は大きくふたつに分類される。

「利用する者」と「利用される者」の二種類だ。

 どちらになるのかと選択を迫られたら、俺は迷わず「利用する者」として生きる道に進みたいと答えるだろう。

 幸いにも、俺の生まれ育ったギャラード家は貴族ではなかったものの、国内屈指の大商会を営むいわば超金持ち。

何かと黒い噂もチラホラ耳にするが、そこは気にしない。
俺もその黒い噂を巻き起こす存在となるのだからな。

大体、この手の業界にはそんな話のひとつやふたつは付き物だが、俺にとってはむしろそちらの方が好都合だ。

 おかげで幼い頃から「利用する者」としての人生を謳歌するのに必要な教育をみっちり受けることができた。

 そんな俺の夢は――楽をして一生を遊んで過ごすことだ。

 働くのは「利用される者」がすればいい。
 
俺は「利用する者」として彼らの働きの上に胡坐をかいで座る。
そんな国王のような人生を謳歌したいという野望を抱いていた。

 すべては――俺の怠惰で絢爛な日々はここから始まるのだ。

 ◇◇◇

転生してから四年が経った。

俺は父ロベルト・ギャラードからこの世界についてさまざまなことを学んだ。

 政治や経済はもちろん、国内の貴族同士の関係性やら諸々の黒い噂など、とにかく商人として大成するために必要な情報を叩き込まれる。

 それだけではなく、剣術や魔法ついても学んだ。

 父上には護身の一環という名目で家庭教師をつけてもらったが、これについては単純に俺の興味関心から来るものが一番の理由だった。

 だって、せっかく剣と魔法の世界に生まれたのだ。
 それを身につけずにはいられないというのが人情だろう。

 だが、残念ながら魔法に関しては魔力量が平均値に満たないという理由でほとんど使えないことが発覚。

 とりあえず、剣術の方は順調にマスターしていき、家庭教師を務める男からこんな言葉を贈られた。

「実に素晴らしい! 感服いたしました!」
「世辞はいらないよ」
「とんでもない! これは純粋な感想でございます! レーク坊ちゃまでしたら王立学園へ通われてもトップの成績を残されるでしょうなぁ!」
「王立学園?」

 そういえば、父上がそんな話をしていたな。
 異世界の学園、か……ふむ。

 興味深い。
 ぜひ通ってみたいが、ギャラード家では学園に通う年頃になると現代表――つまり父上について世界中を旅しながら商人としての見聞を広めるという役目がある。

 それも確かに大事なのだろうが、俺としては限られた年齢でしか通えない王立学園に魅力を感じている。

 ……まあ、両親を言いくるめる理由については思いついた。
 早速今夜にでも実行するか。


 その日の夕食後。
 俺は両親に大事な話があると告げ、食後の果実ジュースを飲みながらある提案をする。

「王立学園に通おうと思っています」

 シンプルに目的を話すと、父上は怪訝な表情を浮かべた。
 一方、母上はそんな父上とは対照的になんだか嬉しそうだ。

「何か理由があるのでしょう?」
「もちろんです」
 
 母上の口から飛び出した当然の質問に対し、俺は事前に用意しておいた回答を述べた。

「王立学園にはたくさんの貴族の方々が通われています。そんな彼らと親しくなり、深い関係を構築することで、卒業後の商売に多大なプラス効果が得られるはずです」
「おまえにそれができるのか?」
「必ずや成功させてみせます」

 迷いなく言い切ったことで、父上は面食らった様子。
 まさかここまで断言してくるとは思ってもみなかったようだ。

 そんな俺の態度を目の当たりにした母上は納得したように何度も頷いていた。

「まだ四歳という身でありながらそこまで考えているとは驚きです。やはり、あなたはこの商会の次期代表に相応しい」
「ありがとうございます、母上」
「ですが、ひとつ問題があります」
「問題?」

 完璧な計画に思えたが、どうも母上には不安な要素があるらしい。
 それは――

「貴族であれば学園への入学は難しくありません。しかし、私たちは立場上、平民として入学するため、試験に挑まなければなりません」

 そうなのだ。
 貴族ならば無条件で入学できるものの、いくら裕福とはいえこのギャラード家は爵位を持たぬ商人の一族。

 学園入学のためには厳しい試験を突破しなければならない。
 
 ――だが、それについてはすでに家庭教師から情報を入手済み。

「もちろん分かっております。入学できる年齢になるまでまだ数年ありますので、それまでに剣術も魔法もさらに上達し、勉強にも励み、必ずや試験を突破してみせましょう」
「でしたら何も問題はありません」
「そうだな。しっかり励むんだぞ、レーク」
「はい」

 両親は俺の学園入学を「試験を突破できたら」という条件付きで了承してくれた。
 
 入学試験が受けられるのは十四歳から。
 それまでにいろいろと力をつけておかないとな。


 ――そして十年という時が流れた。
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