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第135話 修行の間

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さっきよりも大きな木の扉が目の前にある。
扉の向こうには36体の何かがいる。

エルがこっそりと扉を開けて中を覗く。
そこには二足歩行している真っ赤な牛が闊歩していた。そしてその奥に一際大きい牛が鎮座している。
エルはそっと扉を閉める。

『皆んな!〈ミノタウロス〉なの!それも真っ赤なの!!
多分リーダーは〈ミノタウロスキング〉!!
修行には持ってこいの相手なの!!』

『さっきの声は〈試練の間〉って言ってたのに・・・エルにとっては〈修行の間〉なのね・・・』
セルナが項垂れる。

エルは少し考える。
『よーし!〈ミノタウロス〉はセルナ達に任せるの!!護衛に〈シルフ〉を付けてあげる!!
私は〈ミノタウロスキング〉を牽制するから〈ミノタウロス〉が片付いたら倒してね!!』

ダン達の頬に冷たい汗が流れる・・・。
『お、俺達が〈ミノタウロス〉を・・・?
やれるのか・・?』

セルナが檄を飛ばす!!
『やれるかじゃ無くてやるのよ!!強くなる為よ!!こんな機会滅多に無いのよ!!
やってやるわ!!
ジン様と同じ所まで行くの!!そ、そして・・・ふふふふ・・』
セルナの顔が緩んでしまう。

(セルナ・・・心の声が漏れてるの・・・)

『と、とにかく行くの!
おいで〈シルフ〉!!セルナ達を頼むの!!』

『お任せください。ご主人様。』
〈シルフ〉は一礼してふわりとセルナ達の前に立つ。

『さあ!!突撃ぃぃぃぃぃ!!!』

エルが大きな木の扉を開け放つと一斉に〈ミノタウロス〉が振り向く!!

そして男の声が響き渡る!
『よくぞここまで来た!
この試練を乗り越えてみよ!!』

男の声が響き終わると〈ミノタウロス〉達が一斉に襲い掛かる!!

『ぶもぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!』

『皆んな!!冷静に!!勝てない相手じゃ無いの!!』
エルが檄を飛ばす!!

セルナも気合いを入れる!!
『行くわよ!!ダン!レン!ゲン!』

『はっ!!必ず生きて帰る!!!!』

『先手必勝!!!【槍技 乱突き】』
セルナの手元がブレる!!

襲い来る〈ミノタウロス〉達が目にも止まらぬセルナの突きに出鼻を挫かれる!!
その隙にダン達が斬り込む!!

『うおぉぉぉりあぁぁぁぁ!!!』

渾身の力を込めて剣を振り抜くと剣から伝わる筈の感覚が無かった・・・。
驚き顔を上げると目の前の〈ミノタウロス〉の身体が斜めにゆっくりとずれて落ちる。

・・どさぁ・・・

そしてレベルアップの音が鳴り響く!!

ダン達はわなわなと肩を震わす。
『こ、この切れ味は・・・行ける!俺達も確実に強くなっているぞ!!』

すると一瞬の隙を突かれ〈ミノタウロス〉に間合いを詰められ大きな斧が振り下ろされる!!
ダンがしまったと死を覚悟する!!

その瞬間!背後から風の刃が〈ミノタウロス
〉の両腕を切り飛ばす!!

ダンは振り返ると〈シルフ〉がニッコリ笑う。
『前を見て。来ますよ。』

『悪い!助かった!』
ダンは〈シルフ〉に頷くと腕が無くなった〈ミノタウロス〉を両断する!!


『あなたの相手は私なの!!しばらく遊んであげるの!!』

〈ミノタウロスキング〉を巨大な岩の手で鷲掴みにしてセルナ達から遠ざける!
そしてそのまま壁に押し付けて動きを封じる。

『ぶもっ?!ぐもっ?!ぐもももももももっっっっ!!!』

〈ミノタウロスキング〉が必死にもがいているが微塵も動かない。

『ちょっと待っててね!大人しくしててね!』

〈ミノタウロスキング〉に岩の指でデコピン
を放つ!

ごごんっっ!!!!
『ぷぎゃ!!!!』
〈ミノタウロスキング〉が力無く項垂れる。

『ね、ねぇ、〈ミノタウロスキング〉ってあんなに弱いの?!』

女の子がデコピンで気絶した〈ミノタウロスキング〉を指差す。

『ふふっ!娘よ!〈ミノタウロスキング〉が弱いのでは無い!我が主人が強過ぎるのだ!
我々精霊は主人の強さに比例して強さが増すのだ!
〈ミノタウロスキング〉はレベル2000は越えているだろうが、我が主人はレベル3000を越えてレベル4000に届こうとしているのだ!当然の結果だ!!
・・だが・・・我が主人を凌ぐ者がのも事実・・・』
〈ヴァルキリー〉が複雑な表情で女の子の顔を見る。

『す、凄い・・私にも可能性があるの?強くなる可能性があるの?
私には職業が無いの。皆んなに馬鹿にされて来た私にも可能性が?!』

女の子が〈ヴァルキリー〉を見上げて答えを待つ。

『もちろんだ!全ての者に等しく可能性はあるのだ!
おまえの職業は無いのではない!お前自身が無意識に自分の力に蓋をしているのだ!
お前の望む事は何だ?!お前自身はどうしたいのだ?!
思うままに口に出して解放してみよ!!』

〈ヴァルキリー〉の檄に女の子の目に火が灯る。

『わ、私はぁぁぁぁ!!!正しい事を正しいと言える力が欲しい!!!!
強い者が正しいんじゃ無い!!!正しい事が正しいの!!!!
弱い者ばかり泣くのはもう嫌!!!
弱い者を救う力を!!正しい事を貫く力を私に頂戴ぃぃぃぃぃ!!!!!』

心に溜め込んだ想いを心の底から吐き出すと
全身から魔力が溢れ出す!!
空白だった職業に文字が浮かぶ・・・〈精霊使い〉

女の子が自分の変化に戸惑う。
『何?!この溢れる力は・・・私はどうなったの?!』

ミラドは腰を抜かす。
『ミ、ミリヤ・・大丈夫か?』

〈ヴァルキリー〉が微笑む。
『お前の職業が解放されたのだ。
お前は〈精霊使い〉我が主人と同じだ!』

『わ、私の職業・・・〈精霊使い〉・・』

『まだ名前を聞いて無かったよね?』
驚いて顔を上げるといつの間にかそこに居たエルと目が合う。

『ミ、ミリア。ミリア・ランバートです。』

エルはミリアを見据える。

『私は〈英雄ハヤト〉の弟子が1人〈精霊王のエル〉なの!
ミリアの心の叫びを確かに受け止めたの!!
正に〈英雄ハヤト〉の理想そのもの!!
ミリアが私と会ったのは運命なの!!
あなたの願いは私が叶える!!
さあ!これを使うの!!』

エルはアイテムボックスから杖を取り出す。
先端に真っ赤で大きな魔石が嵌め込まれたシンプルな杖である。

エルが杖をミリアの前に突き出す!

『これは私の弟子ある証なの!!これを持った瞬間からあなたは生まれ変わるの!
貴族だろうが王族だろが正義を捻じ曲げて理不尽を振りまく奴らをぶっ飛ばすの!』

ミリアはエルの目を真っ直ぐ見る!
『師匠!!私やります!!よろしくお願いします!!』

ミリアが杖を両手で掴んだ瞬間!!
膨大な経験値が流れ込みレベルアップの音が鳴り響く!!!

『な、何?!レ、レベルアップの音が!!止まらない!!!どこまで行くの?!』

エルはニンマリ笑い弟子ができた事を喜ぶのであった。
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