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第一章 はじまり
お祭り 3
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「わぁ、ゲームがある!」
「ねぇママー! あっちに行きたい!」
はしゃぐ子供達と物珍しそうに催し物を見渡す保護者達。
「見て見て! これあたしが作ったのー!」
「まぁそうなの? へぇ、日中はこんな事をしているのね」
お祭りの一部のブースには子供達が普段の保育時間中に作成した作品達を並べている。
日中離れて過ごす保護者達向けに、普段の子供達の様子を知る場として設置した物だが、思いの外好評のようだ。
うんうん、みんな楽しんでくれているようで良かったわ。
そんな事を思いつつ全体を見回っていると、私を見付けたアルフ義兄様とヘンリー殿下が声を掛けてきた。
「ベル、挨拶お疲れ様。こちらの様子は特にトラブルなく順調だ」
「イザベル嬢、遠巻きで見ていたが素晴らし挨拶だった。それに、アルフと手分けして会場の見回りをしていたが、皆楽しそうに過ごしているよ」
アルフ義兄様のサポートがなければきっとこんなに順調に進まなかったはず。
それにヘンリー殿下もアルフ義兄様同様に忙しいはずなのに、色々と手助けしてくれる。
二人の優しさが、嬉しい。
「アルフ義兄様、ヘンリー殿下、ありがとうございます」
「……ちっ。その笑顔は僕だけが見たかったのに」
「……美しい」
「え? すみません、周りが騒がしくて聞き取れませんでした。お二人とも、何かおっしゃいましたか?」
二人は顔を見合わせるとやれやれと言った顔をした。
あれ? なんか変な事を言ったかしら?
「イザベル嬢、何でもないよ」
「ベル、こちらは大丈夫だからお祭りに参加してたらどう?」
「え、でも……」
「イザベル嬢、こちらの見回りはアルフと二人でするから大丈夫だ。それにイザベル嬢は子供達と過ごすのが好きだろう? 遠慮せずに参加しておいで」
そう。実は前世ではお祭りとかのイベントが好きな方で、子供達を連れて夏祭りとかに参加することもあった。
子供達……そう、実は前世でいたはずの子供達の名前が未だに思い出せないでいる。
そして、たくさんあったはずの子供達との記憶も、転生してからあまり思い出せないのだ。
ただ、さっきのように、こちらの世界の子供達と過ごす時にフラッシュバックのように断片的なシーンが脳裏を過ぎる時がある。
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて参加してきますわ」
なんとも表現し難い感情がじわりと胸奥から湧き上がるような気がしたが、今はお祭りの真っ最中だ。
目の前のイベントに意識を集中させるべく、近くにあった輪投げコーナーに向かった。
「あ、イザベル様! よかったら輪投げをやって行きませんか?」
「あ! 髪のキラキラ貸してくれたおねーちゃんだ! わなげいっしょにやろー!」
あ、保育園の視察にいた時の子だわ。覚えていてくれたんだ、何だか嬉しいな。
ふふ、せっかくだし一緒に輪投げやっていこうかな。
「では、お言葉に甘えて」
手渡された輪投げをえいっと勢い良く投げるも、悉く外れる。
「おねーちゃん、へたくそー」
「あははは、ごめんね。景品が取れなかったわ」
「もう、仕方ないなぁ。あたしの飴あげる!」
「まぁ、貰っていいの?」
「うん! あたし、ちょうじょだもん! だから、わけっこ出来るもん!」
その子はえへんっとドヤ顔になる。
か、かわいすぎる。
なんだこの尊いやり取りは。
思わず頬が緩むのを感じる。
「ふっ、ふふふ。ありがとう」
皆の親切心と、子供達の可愛さに触れ、イザベルは周りに恵まれているなと感じる。
そんな事を感じつつ、貰った飴を眺めながらふと乙女ゲームの事が脳裏を過ぎる。
ゲーム開始まで後一年ちょっと、か。
手のひらに乗った飴をきゅっと握りしめて立ち上がる。
この世界の魔法を持ってしても時間は止めることは出来ない。
そのため、刻々とその時は迫るし、逃げる事も出来ない。
でも、せめて今だけはこの温かい空気に包まれていたい。
そんな思いを胸に抱きつつ、私は子供達に混じってお祭りを楽しんだ。
「ねぇママー! あっちに行きたい!」
はしゃぐ子供達と物珍しそうに催し物を見渡す保護者達。
「見て見て! これあたしが作ったのー!」
「まぁそうなの? へぇ、日中はこんな事をしているのね」
お祭りの一部のブースには子供達が普段の保育時間中に作成した作品達を並べている。
日中離れて過ごす保護者達向けに、普段の子供達の様子を知る場として設置した物だが、思いの外好評のようだ。
うんうん、みんな楽しんでくれているようで良かったわ。
そんな事を思いつつ全体を見回っていると、私を見付けたアルフ義兄様とヘンリー殿下が声を掛けてきた。
「ベル、挨拶お疲れ様。こちらの様子は特にトラブルなく順調だ」
「イザベル嬢、遠巻きで見ていたが素晴らし挨拶だった。それに、アルフと手分けして会場の見回りをしていたが、皆楽しそうに過ごしているよ」
アルフ義兄様のサポートがなければきっとこんなに順調に進まなかったはず。
それにヘンリー殿下もアルフ義兄様同様に忙しいはずなのに、色々と手助けしてくれる。
二人の優しさが、嬉しい。
「アルフ義兄様、ヘンリー殿下、ありがとうございます」
「……ちっ。その笑顔は僕だけが見たかったのに」
「……美しい」
「え? すみません、周りが騒がしくて聞き取れませんでした。お二人とも、何かおっしゃいましたか?」
二人は顔を見合わせるとやれやれと言った顔をした。
あれ? なんか変な事を言ったかしら?
「イザベル嬢、何でもないよ」
「ベル、こちらは大丈夫だからお祭りに参加してたらどう?」
「え、でも……」
「イザベル嬢、こちらの見回りはアルフと二人でするから大丈夫だ。それにイザベル嬢は子供達と過ごすのが好きだろう? 遠慮せずに参加しておいで」
そう。実は前世ではお祭りとかのイベントが好きな方で、子供達を連れて夏祭りとかに参加することもあった。
子供達……そう、実は前世でいたはずの子供達の名前が未だに思い出せないでいる。
そして、たくさんあったはずの子供達との記憶も、転生してからあまり思い出せないのだ。
ただ、さっきのように、こちらの世界の子供達と過ごす時にフラッシュバックのように断片的なシーンが脳裏を過ぎる時がある。
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて参加してきますわ」
なんとも表現し難い感情がじわりと胸奥から湧き上がるような気がしたが、今はお祭りの真っ最中だ。
目の前のイベントに意識を集中させるべく、近くにあった輪投げコーナーに向かった。
「あ、イザベル様! よかったら輪投げをやって行きませんか?」
「あ! 髪のキラキラ貸してくれたおねーちゃんだ! わなげいっしょにやろー!」
あ、保育園の視察にいた時の子だわ。覚えていてくれたんだ、何だか嬉しいな。
ふふ、せっかくだし一緒に輪投げやっていこうかな。
「では、お言葉に甘えて」
手渡された輪投げをえいっと勢い良く投げるも、悉く外れる。
「おねーちゃん、へたくそー」
「あははは、ごめんね。景品が取れなかったわ」
「もう、仕方ないなぁ。あたしの飴あげる!」
「まぁ、貰っていいの?」
「うん! あたし、ちょうじょだもん! だから、わけっこ出来るもん!」
その子はえへんっとドヤ顔になる。
か、かわいすぎる。
なんだこの尊いやり取りは。
思わず頬が緩むのを感じる。
「ふっ、ふふふ。ありがとう」
皆の親切心と、子供達の可愛さに触れ、イザベルは周りに恵まれているなと感じる。
そんな事を感じつつ、貰った飴を眺めながらふと乙女ゲームの事が脳裏を過ぎる。
ゲーム開始まで後一年ちょっと、か。
手のひらに乗った飴をきゅっと握りしめて立ち上がる。
この世界の魔法を持ってしても時間は止めることは出来ない。
そのため、刻々とその時は迫るし、逃げる事も出来ない。
でも、せめて今だけはこの温かい空気に包まれていたい。
そんな思いを胸に抱きつつ、私は子供達に混じってお祭りを楽しんだ。
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