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第3章 神の使命と追跡者

3-16 教団地獄の火

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「おっ! ナオトの兄ちゃん! 目が覚めたか!」

 ラリットさんたちが偵察から帰って来た。
 長身レイアとネコ獣人カレンも一緒だ。

「ナオト! テメー心配したぜ!」

「ニャ! 起きたニャ! 体を揺すっても起きないから、心配したニャ!」

「ごめん。もう大丈夫だよ。ラリットさん、すいません」

「いや、気にしなくて良い。具合はどうだ?」

「そうですね……寝起きは体が冷えきって動かなかったです。スープを飲んだら大分良いです。行けそうです」

「そうか。そいつは良かったぜ」

 ラリットさんは、本当に心配してくれていたみたいだ。
 ありがたいな。

「それでダンジョンの様子は?」

「うむ。この近くを一回りして来たが、異常はねえな。出て来る魔物はいつもと同じ。ざっと見た限りだが、通路も地図から変わってねえな」

「そうですか。それはプラス材料ですね」

「ああ。十階層まで行けそうな感じだ」

 ラリットさんは、楽観している。
 けれど俺は神様から話を聞いているから、あまり楽観できない。

 どうしよう……。
 ラリットさんに話すか悩む。

 この閉じ込められたダンジョンで頼れるのは、ここにいる人たちだけだ。
 お互いに協力しなければ、無事に地上に戻れるかわからない。

 アリーをチラリと見ると目が合った。
 アリーがコクリと肯く。
 神様から聞いた事を話せって事か。

 そうだな。
 協力する事にしたのだから、神様から聞いた話しをちゃんと伝えよう。

「ラリットさん……。実は――」

 俺はラリットさんとその仲間、レイアとカレンに神様から聞いた話を伝えた。

 魔王が復活する事。
 魔王の復活を望む者がいる事。
 魔王復活を望む者が、ダンジョンに魔力を流し込み異常事態を引き起こしている事。

 ただし、神のルーレットの事は伏せた。
 さすがに神のルーレットについては、話せない。
 アリーたちにも口止めをしているし、神のルーレットはパーティーメンバーだけの秘密だ。

 俺が話し終わると、重苦しい空気になってしまった。
 みんな無言。

 やがて、ラリットさんの所の新人剣士が口を開いた。

「なあ、ナオト君。その話は本当なのか? いや、君が嘘をついているとは言わないけれど、たまたまそう言う夢をみただけって事もあるだろう?」

 彼は俺の言った事を信じていない。
 無理もない。
 俺は十三才で、この異世界でもまだ子供の部類に入る。
 子供が夢で見た話を、もっともらしく語っているだけだと思ったのだろう。

「いえ。神様とは以前も話をしています。夢枕に立つと言うか……。夢の中で話しかけて来るんです。この話は本当ですよ」

「けどなあ。そんな事を言われても……」

 ダメだな。
 信じてもらえない。
 困ったな。

 今、俺たちのいるダンジョンはリスクが高くなっているって事だけでも理解してもらいたいのだけれど……。

「ナオトの兄ちゃんが言う事は、本当かもしれんねえぞ」

「ラリットさん……」

「少なくともだ。普段より強いボス魔物が現れ、俺たちが地上へ帰れなくなった説明はつく」

「「「「「うーん……」」」」」

 ラリットさんのパーティーメンバーは、半信半疑って所かな。

 レイアとカレンは、信じてくれている。
 レイアは腕を組んでむっつりと黙り込んでいるし、カレンは珍しく眉根にシワを寄せて俯いている。
 二人のこんな重苦しい表情は初めて見た。

 このまま俺の話しが本当だと言い張っても進展はなさそうだ。
 俺は少し話の方向性を変えてみる事にした。

「あの……魔王の復活を望む人なんているんですかね?」

「そうだな……心当りは無くもないな……」

 ラリットさんは俺が話を変えるとのってきた。
 しかし、いるのか!
 魔王復活を望む人なんて!

「その心当りって言うのは?」

 ラリットさんは大きく息を吐きだして、心当たりの名前をあげた。

「ふう~ロクな連中じゃねえよ……。まあ、魔王復活を望む連中……。俺の知っている限りじゃ『教団地獄の火』だな」

「「「「地獄の火?」」」」

 初めて聞くおどろおどろしい名前に、俺、レイア、カレン、アリーが思わず聞き返した。
 ちびっ子魔法使いエマは、イヤそうに横を向いている。
 エマは『教団地獄の火』ってのを、知っているのかな?

「ナオトの兄ちゃんは知らねえか? 聞いた事ねえか?」

「初めて聞く名です。教団……宗教ですか?」

「宗教と言うよりは秘密結社だな」

 ラリットさんは、イヤそうに吐き捨てた。
 秘密結社……嫌な予感しかしない。

「わらわも聞いた事がないのう」

「俺も初めて聞くぜ」

「ニャ! 私もニャ! 地獄の火って、なんか怖い名前だニャ……」

「あー、エルフの嬢ちゃんや猫の嬢ちゃんが知らないのも無理ねえな。えーと、デカイ姉ちゃんは、エルフ……じゃあねえよな?」

 まあ、レイアは長身の上に胸は非常に大きい。
 一方でエルフのアリーはスリムだ。非常に。

「俺はティターン族だ」

「なるほどティターンか。巨人族だな。あー、なら知らねえよな……」

「おい! オッサン! なんだよ、歯切れが悪いな! その地獄の火とか言う連中について話せよ! こっから先に進めば、その連中にかち合うかも知れねえだろ!」

 確かにレイアの言う通りだ。
 神様の目を欺くために、ダンジョンに魔力を流し込んでいるヤツがいると、神様は話していた。
 それなら、このダンジョンのどこかに、魔力を流し込んでいるヤツがいるかもしれない。

 俺たちが地上へ戻る為には……そいつらは敵になるのか?
 ラリットさんは、本当に話し辛そうにしているが、敵になるかもしれないヤツらの情報は欲しい。

「ラリットさん。情報提供をお願いします。その教団が犯人かもしれないですよね? だったら何者か知っておきたいです」

「おう! そうだよ!」

「ニャ! ニャ!」

「わかった! わかった! 話すよ! 怒らねえで聞いてくれよ……」

 ラリットさんは、また深く息を吐いた。

「はあ~。教団地獄の火って連中はだな。まあ、一言で言うと亜人差別をこじらせて魔王崇拝に走った連中だ」
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