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第6話(4)
しおりを挟む「犯人を見つけるためとはいえ、無差別に毒を仕込みはしません。すぐに解毒したとしても体内に毒が入るため、悪影響はかなりありますからね」
「な、なんだぁ、そうだったんだぁ。心配して損したぁ……」
「あの解毒薬は、サザレを嵌める方便だったのですね。しかし……。でしたら、あの異様な動悸はなんだったのでしょうか……?」
胸を撫で下ろしていたお二人が眉を顰め、顔を向け合います。
「アレ。毒だと信じ込んじゃうくらい、食べた後はドキドキしてたよね?」
「こちらも、それがあって信じてしまった。父上とアシル兄様に異変がないということは、我々のものには何かしらが入っていたということですよね? 一体なにが混ぜ込まれていたのですか?」
「お三方にお出ししたものも、アシル様達と同様のものしか入っていませんよ。ただしヤウヘル様とサザレ様とベルス様のものだけ、濃度を濃くしていました」
説明用に携帯していたトリュフを取り出し、半分だけパクリ。残った断面を、皆さんにお見せします。
「実はこのお菓子は標準で、内部に覚醒作用をもらたす――興奮させる成分が入っているんですよ。とはいえそれは微量で、普通に食べる分には問題ありません」
カナ豆とカチヨ草、そしてオマラ花の粉末の混合物は他国で『カカオ』と呼ばれる食材と酷似しており、そういう不思議な効果をもたらします。
ちなみにとある国ではこの覚醒作用が薬として利用されていて、そういう記憶があったためこの作戦を思いつけました。
「そこで皆さんのものはその成分を濃くし、味は陛下とほぼ同じでありながら異常な興奮状態となるようにしました。先程の動悸や呼吸の乱れ、発汗は、それが理由なのですよ」
「……へぇぇ、そんな食べ物があったんだ……。ソフィア様は、よく知ってたね」
「わたしはかつてフィアナと呼ばれていて、前世の記憶があるのです。ですので処方されていたお薬が単なる粉であることと、サザレ様が仕込んだ毒にも気付けたのですよ」
あの出来事がなければ、わたし達はもう一度悲劇を迎える羽目になっていました。前世からの絆に感謝、ですね。
「な、なんと……。ソフィア君が、あの世界一の薬師……」
「ウソみたいな話だけど、ウソじゃない、よね……。だってこんなこと、優れた薬師じゃないとできないもん……」
「…………くそ……っ。くそが……! こんな、作り話みたいなことがあるなんて……っ」
「サザレ様、残念でしたね。作り話みたいなことが起きたせいで作戦が台無しになり、これからは人生が台無しになります」
国王陛下の合図で扉が開き、あっという間に衛兵さんに拘束されてしまいました。
因果応報。悪事を働いた方は、さようなら、です。
「わたしがずっと愛し続けた人を狙ってくれて、本当にありがとうございました。おかげで記憶が蘇り、貴方を阻止する事が出来ましたよ」
「ちくしょうっ! ちくしょうっっ!! ソフィアっっ! ソフィアアア!!」
連行され始めたサザレ様が、充血した目を剥いて叫びます。
「お前が転生したのなら、俺もいつか転生するっ!! 転生して来世では今度こそっ、今度はお前らをまとめて、殺してやるからなあああああああ!! 覚悟していろろぉおぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「貴方は『約束』をした相手がいないので、不可能だと思いますが――。もしも成功した場合は、はい。お待ちしております。今度も返り討ちにしますので、是非どうぞお越しくださいね」
暴れながら引きずられているサザレ様にお辞儀をして、顔を上げると同時にバタン。憤怒と絶望が入り混じった顔は、扉の向こうへと消えていきました。
7月28日。こうして事件は解決となり、今度こそわたしは愛する人を救うことができたのでした――。
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