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13 馬車の旅路1 色恋沙汰?

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 馬車の準備が出来ましたので、必要な物を順番に運び入れています。
 聖都方面の最初の街は馬車で2日。明日の朝出れば、明後日の昼過ぎには到着するでしょう。
 なのでそれに合わせて食料などを買いそろえ、依頼も丁度良いものがあればよいのですが。

「なーフラン、王子様が連れ戻しに来てたけど、フランって偉い人なのか?」

「そーそー。普通は両親とかだよね~」

「コラ! 人の事情に入り込んだらダメじゃないか!」

 マットとケイがわたくしの素性を気にし始めていますね。
 無理もありません。王子が連れ戻しに来て、さらにこの国の王子と普通に会話をしたのですから。
 ロビーは気を遣ってくれていますが、気にしている事でしょう。

「そうですね……いずれ分かる事ですので、しっかり話をした方が良いでしょう」

 宿の部屋に戻り、昼食を食べながら話をしました。
 わたくしの聖女の力である先見の明が、魔の物の力だとして犯罪者扱いされ、処刑されたくなくて国から逃げた事。国では指名手配されているであろうこと。
 しかし聖女であることが知れ渡り、手のひら返しで国から迎えが来たこと。

 わたくしが公爵令嬢である事。
 
「ふ~ん。思ったより大した事なかったな」

「マット! 大した事ないって、国から命からがら逃げてきたんだぞ!? しかも王太子との婚約まで破棄されて、傷ついてないわけ無いだろう!」

「フランって公爵令嬢だったんだ~。どうりで上品だと思った~」

 ……もっと否定的な意見が出てくると思っていましたが、どうでも良さそうですね。
 犯罪者の疑いは晴れましたし、指名手配も解除されて無罪放免ですが、貴族だったことを黙っていて、それを快く思わないかもしれない、と思ったのですが。

「その、大丈夫なのですか? このままわたくしと冒険を続けても」

 3人が顔を見合わせ、声を揃えて言いました。

「「「なんで?」」」

「だって聖女だったんだぜ? あのバカ王子、今頃悔しくって泣いてるぜ!」

「バカ王子が勘違いしてフランが被害を受けただけさ」

「ねーねー、貴族の作法ってどんなの~?」

 ……普通でした。3人の態度はいつも通り、普通に接してくれました。
 わたくしは、良い仲間と巡り合えました。

「そうですね。貴族の作法と言いうのは―――」




 翌早朝にダラムの街を出発し、次の街・エイクルドを目指します。
 荷物は万端、依頼も受けました。やり残しは……ありません。

「よーっし! いっくぜぇ!」

「「「おー!」」」

 マットの号令の元、馬車が進み出します。
 御者はロビー、その隣にはマット。荷台にはわたくしとケイが乗っています。
 ここからまた、新しい場所を目指すのですね。
 しかし今回は逃げるのではありません、先へ進めるのです。

 仲間と共に目標を持って進む、なんと胸が高鳴るのでしょうか。




 街を繋ぐ街道は基本的に安全です。
 わたくしが国を跨いでも大丈夫だったように、どの国でも定期的に討伐を行っています。
 なので一番警戒すべきは盗賊の類です。
 とはいえ、街道のキャンプ地は大体場所が決まっており、そこに沢山の人が集まるので、盗賊が襲ってくることは稀です。

 しかし、やはり気を抜くとすぐにトラブルが発生します。

「これは困りました……一体どういう事でしょうか」

「フラン……大丈夫~?」

「まさかフランがこんな事になるなんて」

「あ~あ、俺しーらね」

 昼食を作ろうとしたら、真っ黒になってしまいました。
 おかしいですわね、言われた通りに作ったつもりでしたのに。

「そう言えばフランってさ、家で家事をした事ある?」

「家事ですか。家事は全てじいやかメイドがやっておりました」

「うわ~、流石は貴族!」

「じゃ無理じゃん!」

 冒険者というのは、様々な能力が必要とされるのですね。

「パンを焼いてチーズを溶かして、スープを温めるだけだぜ? なんでこーなるんだ?」

「摩訶不思議ですわね」

 それ以降は、わたくしに料理当番が回ってくることは無くなりました。
 これは更なる試練の予感がします。

 順調に進み、そろそろキャンプ地へ到着します。
 
「あ、あれかな? 焚き火の灯りが見える」

 前を見ると、馬車が数台と沢山の人が休憩をしています。
 あそこがキャンプ地なのですね。
 確かにあれだけの人数が居れば、盗賊も襲っては来れないでしょう。

「いよ~ぉう、アンタらもここでキャンプかい?」

 格闘家グラップラー聖職者クレリックわたくし達を迎えました。
 よく見ると冒険者が半分近くですね。商人らしい人もいるので、その護衛も居るのでしょう。

「ああ、俺達もここで休むんだ。場所、どっか開いてるか?」

「特に決まっちゃいねーよ。開いてる場所を適当に使いな」

「サンキュー」

 空いてる場所……といっても、街道の両脇がかなり広くなっているので、場所はあちこちにあります。
 なので他の方々と付かづ離れずの場所にしました。

「じゃあ夕食は私が作るね~」

 不思議です。ケイの作る料理はとても美味しいです。
 一体何が違うというのでしょうか。

「なぁなぁそこのお姉さん、こっちで一杯やらないかい?」

 隣でキャンプをしていた男性が、こちらにお酒を持って現れました。
 流石に最初のキャンプで酔いつぶれては格好が付かないので、ここはお断りいたしましょう。

「申し訳ございません。慣れない旅ですので、お酒は遠慮させていただきます」

「え、そうかい? 残念だな。じゃあさ、こっちでおしゃべりしてもいいかい?」

「それでしたか構いません。わたくし達も色々と聞きたい事もありますし」

「よっしゃ! オーイみんな、OKもらったぞー」

 そう言うと、沢山の人が私たちと共に焚き火を囲み始めます。
 ……こんなにいたのですね。

「お姉さん名前はなんてーの?」

「フランチェスカと申します」

「お嬢ちゃん達は?」

「マットだ!」

「ロビー」

「ケイで~す」

 色々と話を聞き、次の街・エイクルドの事も聞きました。
 どうやら農業が盛んな町で、農作物の価格が安いのだとか。

「それでお姉さん、彼氏はいるの?」

わたくしですか? 以前は婚約者がいたのですが、捨てられてしまいました」

「マジかよ! じゃあさじゃあさ、俺と付き合わね?」

「コラー! フランはフラれて傷ついてるんだぞ! 無神経なこと言うな!」

「な、なんだよ~、俺はその傷を癒してあげたいだけだぜ?」

「ダメダメ、ダメ!」

 ロビーが気を遣ってくれていますね。
 実はさほど傷ついてはいないのですが、確かに気分の良い物でもありません。

「あぁ~、ひょっとしてお前、お姉さんに惚れてるな?」

「ぶおあぁ!? な、ななな、なにいってんじゃよ!」

 じゃよ? いつも冷静なロビーが変な事を口走りましたね。

「うひゃひゃひゃ、しょうがねーよなー、お姉さん美人だし、胸も大きいし、スタイルいいもんな!」

「なななん、何の事かな」

 そこからはロビーに話題が移りました。
 あまり口数の多くない子ですので、これだけ喋っているのを見るのは珍しいですね。

 そうして初めての夜は、沢山の人と楽しくふけて行きました。
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