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5話

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 空の低級魔族を掃討した私は地上に降り、森から姿を現した人型・動物型魔族の群れと対峙する。

 数は大体100~200、森の中にも残ってるかな? でも低級と中級魔族しかいないし、何とかなる。

 魔族の群れが魔法を放ち、私に攻撃を……あ! 街まで魔法が!! この下手くそ!

「バブルネットフィールド!」

 街全体を細かな泡で半円状に包み、魔族の魔法を防ぐ。
 表面の泡は魔法で破壊されるけど、泡が分裂して直ぐに元の厚さに戻る。

 あまり強くない防御魔法、だけど広範囲を守るには便利だ。

「獣型の低級魔族って本当にダタの獣と同じ! 見境が無いんだから!」

 これ以上街に接近させて魔法を連発されたら、バブルネットが破壊されかねない。
 いつもはお父さまと一緒に討伐してた、でも今は1人だから全部を1人でやらなきゃダメ。

 でも衛兵さんや兵隊さんは街の守りが優先だけど、街の人達はどうして戦わないんだろう?

 あ、そっか、家族を優先させてるんだね! 小さい子供じゃ魔族相手は厳しいもんね!

 私も子供の頃はヘルウルフ相手に手こずってたし、お姉さん、がんばるよ!

 じゃあ時間を掛けちゃダメ、早く倒して子供たちを安心させてあげよう。

 私よりも長く太い大剣を地面に突き刺し、力強く空を指差して呪文を唱える。

「大地の御霊みたま 大気の精霊 空の女神よ 我とたわむれ かの地に顕現けんげんせよ」

 勢いよく手を振り下ろす。

「ヘヴンフォール!」

 空が落ちる。そんな表現をお父さまは使っていた。
 あたり一帯にコブシ大の氷、ひょうが雷鳴と共に降り注ぎ、魔族を叩きのめす。

 空が落ちたのはほんのわずかな時間。でも低級・中級魔族にはそれで十分のはず。

 空が晴れ渡った時、すべての魔族は動かなくなっていた。

 森の中からは……うん、もう魔族は居ない。

 防衛完了! どう? お姉さん頑張ったよ! 
 街を見ると静まり返っていた。

 あれ? 子供たちが『お姉ちゃんありがとー!』とかいってもみくちゃに……は!!

 時間をかけすぎた!? あんな魔族程度に何してんだコイツ、みたいに思われてる!?

 ヤダ恥ずかしい! 1人で盛り上がっててバカみたい!

 大慌てで街に戻り、装備を全部片づけた。

 ふぅ~、顔が見えない兜でよかった、恥をかく所だったよ。

 明日からは、また訓練に励まないとね。




 ◆チェスター国・公爵令嬢視点・自室◆

 どうして? どうして魔族が攻めてきたの!? 近隣の街は全部破壊されて、魔族が王都の目と鼻の先にいるなんて、兵隊は何やってるのよ! 役立たずにも程があるわ!

「ローラ! ローラはどこだ!」

 お父様の声だ!

「お父様! ローラはここに居ます!」

 扉が勢い良く開き、お父様と沢山の兵士が入ってきた。
 
「ローラ、ここは危険だ、早く逃げるんだ!」

 私の腕を痛いくらいに握りしめ、部屋の外へと連れだされる。

「お父様、どちらへ行くのですか?」

「城へ行く。あそこには騎士団もいるし、強固な城壁もある。ここよりはマシだろう」

 お城へ? そうだ、陛下やハインツ王太子のいるお城なら安全なはず!
 私は急いで馬車に乗り込んだ。

 でも街中は逃げまどう人であふれかえり、馬車は全然進まない。

「何をしている! 早く進まんか!」

「し、しかし人が多くて……」

 御者が怯えてお父様を見ている。ホントに役立たずな御者。

「ええい構わん! ひき殺せ! 私達の命とどっちが大事だと思っている!」

「ええ!? それでは私に罪が……」

「どきなさい!」

 役に立たない御者の手綱を奪い、馬を走らせる。
 ふん、たったこれしきの事が出来ないなんて、この御者はクビね。

 馬車の中に戻り、お父様と手を握り合う。

 早くお城に行かなきゃ。魔族の相手なんて、兵隊か平民がしたらいいんだわ。

 でも、どうしてこんな事になったのかしら。魔族が人を襲うなんて、歴史の勉強でしか記憶にない。

 確か歴史では、魔族は人によって呼び出され、契約にのっとり行動すると。

 じゃあ今回も、人によって呼び出されたって事?

 一体誰? そんな酷い事をするなんて!

 まさか! 追放されたことを逆恨みしたジェニファーが!? あの役立たず一家ならやりかねないわ!

 お城に到着したら、陛下に進言しないと!




「シャンク公爵が到着されました!」

 お父様と一緒に謁見の間に入ると、そこには貴族以外にも兵士や騎士が並んでいた。

 なんで神聖な貴族と同じ場所に、下賤の物がいるの!?

 陛下は下々の者達に甘すぎるわ!

「陛下、シャンク、ただいま到着してございます」

 お父様と一緒に陛下の前でひざまずき、右手を胸に当てる。

「よくきた。公爵も軍議に加わるのだ」

「はい」

 今だ、陛下にご報告しないと!

「恐れながら陛下にご報告があります!」

「ロ、ローラ?」

「今は緊急事態なのだ。後にしてくれローラ嬢」

「その緊急事態を招いた者に心当たりがございます!」

 皆がざわめき始めた。
 やっぱり皆は気付いていなかったのね。

「聞こう」

 起立して報告を始める。

「此度の魔族騒動は、マイヤー元男爵一家が引き起こしたものと考えられます!」

 陛下が大きく目を見開いた。
 そうよね、私が考えた事に驚くのも無理はありません。

 ハインツ王太子や他の王族も、怒りをあらわにしている。

「早くマイヤー元男爵一家を探し出し、魔族との契約を破棄させ、処刑するのです!」

 貴族達から数多くの賛同を得られた。
 でも、それに比べて王族や兵士・騎士はため息をついてる。

 どうしたっていうの? 早くしないと!

「ローラ嬢……君は下がっていなさい」

「へ、陛下?」

 兵士が私の腕を掴んで片隅に追いやった。
 なんて無礼な兵士!

「子供の戯言に付き合っている場合ではない。軍議を再開する」

 陛下が……私の進言を戯言と言われた。
 まさか、陛下は元男爵をかばっているのでは?
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