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1章

大人と子供

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あれから5分どころか15分くらい堪能してしまったわけだけど、とりあえず人に会っても問題ない状態に戻る事ができた。
自室に入る前と違う事といったら、私達の距離感、かな。本当は5分経過した時に離れようと思ったんだけど、お互いに離れ難いってなっちゃって、結局15分経ってようやく離れた形だ。


「よし、丁度昼時だな。腹も減ってきたし、白竜に会いにいくか」
「私が転移された時、向こうは夕方だったので未だに時間差に慣れないですけど、お腹は空いてきたかも」
「じゃあ、先に飯にするか?」
「うーん、でも白竜にまず会いたいです」


泣いたせいもあるだろうけど、実際お腹は空いてきたと認識したらものすごく空いてきた。今にもお腹の虫が鳴ってしまいそう。でも、白竜にも早く会いたい。


ご飯か白竜か……究極の選択。


「たまき、ここだぞ。甘えるところ」
「あ……そっか。えっと……白竜もご飯も同時進行がいいです!」
「よし。じゃあ、飯は空中騎士団の料理人にサンドイッチでも作ってもらって、白竜の近くで食べるか。あいつも飯の最中だと思うし」
「ふふ、サンドイッチも白竜とのご飯も楽しみです!」


サンドイッチと白竜。
どちらも楽しみで、いつの間にか繋がれていたステファン様の手をグイグイと引っ張る。
さっきのグイグイの時は苦笑してたけど、今は楽しそうに笑ってくれた。


「じゃあ、転移門に行くぞ」
「てんいもん……?」
「団長寮から各団までは距離が離れてるから、寮内に転移門が設置されてる。そこを開けて中に入れば、一瞬で着けるって便利ものだ。これも開発者はルカ」
「へー!ルカ様、凄いなって最初から思ってましたけど本当に凄いんですね」
「あいつのおかげで色々と生活が便利になってる。まぁ、話を振った俺が言うのもあれだけど、ルカの話題は終わりな」


そう言ってバツが悪そうに頭をかいたステファン様に、思わず頬が緩む。可愛いなあ、もう。


ステファン様に連れられ、私がやってきたのはこの寮に入る時に使った寮の扉だった。


「これが転移門……ですか?」
「ああ。この扉に手をかざして魔力を流し込むと……ほら」


ステファン様が流し込むと勝手に開く扉。
そこに広がるのは、外の景色ではなく見慣れない部屋。


「ここは空中騎士団長の執務室。ここにダイレクトに繋がってるんだよ……どうだ?驚いたか?」
「凄いです!!お話で見た猫ロボットの魔法の扉みたいです!早く行きましょう!!」
「あ、おい待て!」


本当はステファン様のエスコートを待つのが正解なんだろうけど、こんなの見たら我慢できない!私の中でずっと眠ってた【子供】としての感情が戻ってきてるみたいにわくわくする!


ブォン。


くぐる時に一瞬聞こえた音以外に、特にこれといった痛みもなく、ものすごく快適に転移完了!!空中騎士団の執務室を見回せば、数々の勲章が飾ってあったり、壁に大剣が飾られていたり、向こうの世界ではお目にかかれないものばかりだった。


「まったくお前は……急に子供みたいにはしゃぐんだから」
「お言葉ですが、私はまだ子供ですよ~」
「嘘だろ、その体つきはどう見ても大人だろ」
「嘘じゃないです~!私は19歳の未成年です~!!」
「19なんて成人して3年経ってるだろ!」
「私のいた所は20歳が成人なので、私はまだ子供です!」


子供みたい、ではなく実際子供なのに信じてくれないステファン様に凄くモヤモヤして、思わず口調が強まってしまう。20歳の大人と19歳の子供は全然気持ちの持ちようが違うんだから!


「分かった!分かったから!でも俺は今年で29になるし、お前が子供を主張するなら何かこう悪い事してるみたいで近寄りがたくなるな……」
「え……いやです……」
「っていってもなあ……」 
「じゃあ、大人でいいです!私はもう成人済みです!」


私はステファン様と離れたくない一心で、大人でいいって言ったのに、当のステファン様は頬を緩めて笑いを堪えている。


「……からかいましたね?」
「お前の反応が可愛くて、つい」
「私が必死で大人だって認めたのに……」
「でも子供にはこんな事はしないだろ?」


ステファン様の指が私の頬をなぞり、そのままツツっと滑らせて私の唇を優しく撫でる。
その一連の動きに私の全意識が集中して、どんどん体が熱くなる。胸が凄くドキドキする。ステファン様にも聞こえてしまう程に大きく音を立てる。


「……いい反応」
「また……からかってます?」
「まさか。ほら、触ってみろよ」


私の手が、ステファン様の左胸の鼓動を感じた。
私のように早い鼓動。
私と同じようにドキドキしてくれてるのが嬉しくて、ステファン様の唇が私の右耳に辿り着いていた事に気付けなかった。


「……可愛すぎて食いたくなるな」
「……ひゃあっ!!!」


慌てて右耳を抑えて、その場にかがみ込む。
ちょっと1回、タイムアウト入れたい。
数々の刺激に脳の処理が追いつかない。さっきみたいにショートを起こす事はなさそうだけど、しばらく立ち上がれない。


鏡を見てなくても分かる。
今の私は顔が真っ赤に違いない。


「どうした?」
「……分かってるくせに」
「言われなきゃ分からねぇよ……」
「黙秘します」
「そうきたか」
「えっ!ステファン様!!ちょっと……きゃあっ!!」


急に両脇にステファン様の手が入り込む。
それを認識した時には、既にステファン様に抱っこされていた。


あー、やられた!!
この状態で抱っこされたら、手で隠せないじゃん!!


「顔真っ赤」
「……誰のせいだと」
「俺のせいっていうの、何か嬉しいな」


そう言って、頬に軽いリップ音を残すキス。


「もう!ステファン様いじわるです~!!」
「悪い。一瞬理性とんだ」
「これ以上したら、キャパオーバーですよ」
「俺もこれ以上は止められる自信ないからやめとく」


初めての転移門。
初めての空中騎士団長執務室。
初めての指の感触。
初めての頬への感触。


こんな強引さに怒ってる素振りは見せてるけど、実際は嬉しくて仕方がないって事、きっとステファン様にも見破られてるんだろうな~!!
いつか絶対、ステファン様をぎゃふんと言わせてやる!
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