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第十七話 「座頭りゅうばい、怪物とアタマぶち合いの件」

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 「曽呂利物語」編者不詳:寛文三(1663)年刊行


 「座頭、変化の物と頭はり合ひの事」より



 奥州の戸地(へち)という所に、高隆寺という山寺があった。

 その寺へは昔、座頭(盲人の琵琶法師や按摩)が常に出入りしていたが、いつのまにか姿が見えなくなるという事があった。

 その後も二、三人の座頭が立ち寄ったが、どういうわけか四、五日ほど経つとそれも行方不明になってしまい、それ以来、その山寺に座頭が来ることはなかった。

 ある時、「りゅうばい」という座頭がこのことを聞き、近くの人に、

 「高隆寺という山寺へ、私を連れて行ってくだされ」

 ・・・と頼んだ。

 「いえいえ座頭さん、あの寺はこれこれこういう噂があって、座頭さんは行ってはいけない場所なのです・・・」

 そう言って止めるのを無理頼んで連れて行ってもらった。


 この「りゅうばい」という盲人の琵琶法師、背が高く筋肉も隆々で、力は四、五人力ほどもあるという屈強な男だった。
 兜の形をした石の鉢と、大まさかりの柄を短く切断したものを身の用心として常に琵琶箱の中に入れていた。

 高隆寺に案内してもらった「りゅうばい」が住持と対面すると、住持はたいそう喜んで、

 「この寺には昔からどういう理由なのか、座頭さんが来ると行方知れずになるという噂があるのじゃが、それは大昔の事じゃて。この頃はそんな怪しいこともないので、どうか安心してくだされ、愚僧がこうして居るからには心配ご無用じゃ、久しく平家物語も聞いておらんのでな、どうぞ一曲語ってくだされ」

 そう言って歓待する。
 「りゅうばい」が平家物語を三曲語るとすっかり夜も更け、辺りには人影も途絶え、彼と住持だけとなった。

 「りゅうばい」が、

 「まだ夜も長いですから、お話し相手になりましょう」

 と、夜もすがら住持と話していると、住持は立ち上がって辺りを厳重に戸締りしている様子である、戻ってきた住持が、

 「さてさて、今宵は退屈しのぎに何かして遊ぶとしよう・・・どうじゃ、頭のぶち合いをして遊ばんか?それ、まずは愚僧を殴ってみよ」

 ・・・・と言う。

 「いえいえ・・・それは恐れ多いことでございますから、まずはご住持が先に私をぶってください」

 そう「りゅうばい」が言い終わらないうちに住持が、

 「そうか、それでは受けてみよ!・・・えいやっ!」

 と拳を握りしめて猛烈な勢いで殴りかかる。

 とっさに「りゅうばい」は、手元にあった兜型の石鉢を頭に被ったが、その石鉢ごしに受けた住持の拳は強烈だった。
 おもわず気絶しそうになるところを、ようやく意識をしっかりさせると、

 「いやいや、それにしても強烈な一撃でございました・・・それでは、わたくしもひとつご住持に当ててお見せしましょう」

 「よし、それでは当ててみよ!」

 そう言って住持が起き上がる。

 「りゅうばい」がつくづく思うに、

 ・・・この強烈な一撃、とても人間とは思えない恐ろしい力だ、正体は判らないが、このような怪物を生かしておくのは世の為にならない・・・。

 「りゅうばい」は、琵琶箱の中にいつも入れている、例の柄を短く切った大まさかりをこっそり取り出し、

 「えいやっ!」

 と、住持めがけて打ち下ろした・・・・・。

 朝がくるまで待って、しっかり錠が下ろされた部屋の中から戸を叩いて大声で人を呼ぶと、寺の僧たちが出てきて「りゅうばい」を助け出してくれた。

 見ると、子牛ほどもある大猫が頭を割られ、おびただしく血を流して死んでいた。
 尻尾の先は幾つにも分かれて、それは恐ろしい「猫又ねこまた」であった。
 
 いつの頃からか、住持はこの猫又によって食われ、猫又が住持に化けていたのだった。


 ・・・・・個人的に曽呂利物語の中でも、一番好きな話です。

 何と言っても、

 「ヒマだから、頭ド突き合って遊ぼうぜ!」

 ・・・・というパンキッシュな住職が笑えます(笑)

 また、座頭(ここでは盲人の琵琶法師)「りゅうばい」のマッチョなキャラクターが非常に興味深いです。

あの「座頭市」ではないですが、こういう盲人のヒーローというのは、あまり古典でも見かけませんし、なかなかキャラが立っていると思いますね。

 「仕込み杖」ならぬ、ソウドオフ(柄を短くカットしたの意)の大まさかりを愛用とはまたチョイスがシブいですねぇ、盲人故に近接攻撃特化なのでしょうか。

 いつか、この「りゅうばい」が怪物退治の旅に出るようなシリーズもの小説を書いてみたいと思っていますが・・・・そんな実力はありません。

 どなたか、代わりに書いて頂きたいです、著作権など無い江戸時代の本のキャラですので(笑)


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