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私は自分が情けない
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「神官長さまぁ、危ないよぉ?」
「え?」
可愛らしい声とともにローブの袖を引かれた時には、私の足はあえなく水たまりの中に落ちていました。勢いよく嵌まってしまったせいでしょう。情けないことに靴はもちろんローブの裾まで水と泥はねがついてしまいました。
「あ~あ」
「まあ、びしょ濡れじゃないですか」
「すみません、少し考え事をしていたものですから。どこか水場はありますか?」
「神官長、どんくさいなぁ。オレが連れてってやるよ!」
先程私に注意を促してくれた女の子のお兄ちゃんでしょうか、やんちゃそうな男の子が私の腕を引いてどんどんと村の中央へと進んでいきます。
確かにぼうっとして水たまりに落ちるだなんてどんくさいですね。
苦笑しながら私は彼に連れられるまま進み、村の中央にある井戸からくみ上げた水でローブの裾をもみ洗いさせていただきました。なぜかその様子をじいっと見ていた少年が不思議そうな目で私を見ます。
「なぁ、神官長って奇跡が使えるんだろ? こんな汚れチマチマ洗わないで、奇跡とかでかっこよくキレイにすればいいのにさ」
「ふふ、よくそう言われますが、奇跡は本当に必要な時だけに使うものですよ。ローブを洗うのなんて、少し手を動かせば出来ることですから」
「ちえー、つまんねえの。奇跡見たかったのに」
唇を尖らせている少年と「ザンネンだねぇ」としょんぼりしている妹さんには申し訳ないのですが、奇跡は女神のお力を借りて起こすもの。よほどのことがないと使いません。
良くしたもので、あらかたの難事は人の努力と機転でなんとかなることが多いものです。
……それに。
ふと、聖杖の碧が貯まる映像が浮かんできて、私はとっさに首を横に振りました。
『奇跡を使わなければ、蒼が早く貯まる』その言葉がふと浮かんできたことに驚愕するしかありません。いつから私はこんな浅ましい考えを持つようになってしまったのでしょう。
私心なく民を助ける私が好きだと、アカリがあんなに褒めてくれていたのに。私は自分が情けない。
「すみません、うちの子が失礼なことを……!」
「いえ、親切で素直な子供さん達です。このまま育って欲しいものですね」
私が笑うと、彼らのお母さんもホッとしたように微笑みます。私が考え込んでしまったせいで、余計な心労を与えてしまったようです。申し訳ないことをしました。
「あの……神官長さま、少し働き過ぎなのではないですか? お顔の色が優れません。クマも出来ているようですし」
しかも彼女は、どうやら私の心配までしてくれていたようです。確かにこのところ眠れていないせいでしょうか、こうしたうっかり案件が増えてしまっているのを自分でも感じます。
「神官長さま、ぐあい悪いの?」
「大丈夫ですよ、ちょっと寝不足なだけです」
「夜はちゃんと寝ないとダメなんだぞ!」
幼子たちに叱られて、私も反省しきりです。
そうですね。皆を助けるためには、まず自らの体調が万全でないと。アカリに会えるその日まで、倒れるわけにはいかないのですから。
「え?」
可愛らしい声とともにローブの袖を引かれた時には、私の足はあえなく水たまりの中に落ちていました。勢いよく嵌まってしまったせいでしょう。情けないことに靴はもちろんローブの裾まで水と泥はねがついてしまいました。
「あ~あ」
「まあ、びしょ濡れじゃないですか」
「すみません、少し考え事をしていたものですから。どこか水場はありますか?」
「神官長、どんくさいなぁ。オレが連れてってやるよ!」
先程私に注意を促してくれた女の子のお兄ちゃんでしょうか、やんちゃそうな男の子が私の腕を引いてどんどんと村の中央へと進んでいきます。
確かにぼうっとして水たまりに落ちるだなんてどんくさいですね。
苦笑しながら私は彼に連れられるまま進み、村の中央にある井戸からくみ上げた水でローブの裾をもみ洗いさせていただきました。なぜかその様子をじいっと見ていた少年が不思議そうな目で私を見ます。
「なぁ、神官長って奇跡が使えるんだろ? こんな汚れチマチマ洗わないで、奇跡とかでかっこよくキレイにすればいいのにさ」
「ふふ、よくそう言われますが、奇跡は本当に必要な時だけに使うものですよ。ローブを洗うのなんて、少し手を動かせば出来ることですから」
「ちえー、つまんねえの。奇跡見たかったのに」
唇を尖らせている少年と「ザンネンだねぇ」としょんぼりしている妹さんには申し訳ないのですが、奇跡は女神のお力を借りて起こすもの。よほどのことがないと使いません。
良くしたもので、あらかたの難事は人の努力と機転でなんとかなることが多いものです。
……それに。
ふと、聖杖の碧が貯まる映像が浮かんできて、私はとっさに首を横に振りました。
『奇跡を使わなければ、蒼が早く貯まる』その言葉がふと浮かんできたことに驚愕するしかありません。いつから私はこんな浅ましい考えを持つようになってしまったのでしょう。
私心なく民を助ける私が好きだと、アカリがあんなに褒めてくれていたのに。私は自分が情けない。
「すみません、うちの子が失礼なことを……!」
「いえ、親切で素直な子供さん達です。このまま育って欲しいものですね」
私が笑うと、彼らのお母さんもホッとしたように微笑みます。私が考え込んでしまったせいで、余計な心労を与えてしまったようです。申し訳ないことをしました。
「あの……神官長さま、少し働き過ぎなのではないですか? お顔の色が優れません。クマも出来ているようですし」
しかも彼女は、どうやら私の心配までしてくれていたようです。確かにこのところ眠れていないせいでしょうか、こうしたうっかり案件が増えてしまっているのを自分でも感じます。
「神官長さま、ぐあい悪いの?」
「大丈夫ですよ、ちょっと寝不足なだけです」
「夜はちゃんと寝ないとダメなんだぞ!」
幼子たちに叱られて、私も反省しきりです。
そうですね。皆を助けるためには、まず自らの体調が万全でないと。アカリに会えるその日まで、倒れるわけにはいかないのですから。
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