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濁流に沈む町

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なんという酷い光景でしょうか。

もう水が引いているだろうという私の想定は、眼前の光景に完膚なきまでにくつがえされました。

アンズポトの街が盆地のような造りになっていたことも災いしたのでしょう。土砂でせき止められた川の水が街へ流れ込むせいで、街は未だに濁流のただ中にありました。

なんとか高台へ逃げたのであろう人々が、疲弊しきった姿であちらこちらで体を休めています。しかしその姿は服も肌も泥にまみれ、もはや起き上がる力もないようでした。きっと、食料や水もろくに手に入らないのでしょう。

濁流になるほど水はあるというのに、飲めるような清浄な水がないとは皮肉なものです。

言葉を失い呆然としてしまった私のもとに、突如愛らしい鳴き声を響かせて、白い鳥が舞い降りてきました。タイミングから考えて、私の書が届く前に、追加で送られた手紙なのかも知れません。


「あなたは……姫からの伝令ですね。ですが、少しだけ待ってください。まずはあの街の方たちにせめて浄化の癒やしだけでも与えねば」


そう告げて、街の方へと急ごうとした私の目の前を、執拗に白い鳥が覆います。まるで邪魔をするようなその動きに、ついに私も折れました。これだけ常にない動きをするのですから、きっと姫からなにか重要な知らせがあるのでしょう。

「見てくれ」と言わんばかりに差しだされた足の文入れには、案の定、王家の紋章が入った手紙が結わえられていました。

その文を読んで、私は驚きとともに大きな希望も見いだせました。

なんと文には、このアンズポトの街が水害にあったという情報を得た、すぐに救済に向かってくれと書かれています。王家にもこの惨事が伝えられていたことに、安堵しました。

しかもユーリーン姫とコールマンも、王家の船を駆ってこちらへ向かって居るという、頼もしいことまで書かれています。

こんなにありがたいことはありません。王家が来てくれるのならば、街の人たちによりよい救済が与えられるに違いありません。

この聖杖に貯まった蒼をすべて使えば、奇跡の力で川をせき止める土砂は取り除けるでしょう。私の魔力をすべてつぎ込めば、浄化の魔法で泥まみれになってしまった街や人々を清浄化する事は出来るでしょう。

しかしそれでも、ここにはまともに飲める、食せるものがないように思えます。これから到着する王家の船があるのならば、途中の町や村で、食料を調達して運搬することも可能ではありませんか。

物資を用意する機会を逃さぬよう、私は慌てて書をしたためました。遠目でみた限りでも分かる現状と、今から行おうと考えていることを記し、白い鳥に餌を与えて伝令を頼みます。

これで一安心です。

奇跡と浄化を為したあと確実に私は昏倒するでしょうが、到着した姫とコールマンがきっと人々を支え、守ってくれるに違いありません。

白い鳥が去った空に「頼みますよ」と声をかけ、私は水に沈んだ街へと足を踏み出しました。
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