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恥ずかしくて、照れくさい

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「これは……?」

「ちょっとした通信機のようなものだな。ひと呼吸をするくらいの間触っておけば、私の受信石が赤く光る仕掛けになっている。ルシャ君に頼んで作って貰ったのだよ」

そう言って笑うお父様の指には、同じく赤い石がついた指輪がはめられていた。

いつの間にルシャに頼んだのか知らないけれど、まさかそんな物を作っていただなんて。お父様に促されてひと呼吸分触ってみたら、お父様の石が明滅し始めた。

まったく、面白い物を作るものだ。

「殿下には釘を刺しておいたが、夜会で不当な扱いを受けるような事があればすぐにこの石で私を呼びなさい。もし離れた場所にいようとも、すぐに駆けつける」

「ありがとう、お父様……。一緒に行く以上、ルシャの事は私が守ろうと思っていたけれど、お父様が後ろに控えてくださると思うと心強い」

「ルシャ君もお前を守る気でいるようだぞ。私が厳しく躾けたせいだから言いにくいが……もうお前は殿下の護衛じゃないんだ、エスコートされる時くらいは守って貰う気持ちでいていいんだよ」

「分かっています。でも私がルシャを守りたいんです」

「まぁ、勇ましい」

お母様が楽しそうに笑う。逆に、なぜかジュールは悔しそうな顔をした。

「あーあ、デビュタントも飛び級できるんなら、僕が姉さんをエスコートするのになぁ」

可愛いことを言ってくれる。

殿下の覚えがすこぶる悪い私をこうして気遣ってくれる家族を、私はありがたく思った。

***

そしていよいよ夜会当日。

私はそわそわした気持ちでルシャを待っていた。

人前でドレスを着たのなんて本当にいつぶりなのか。王妃教育のマナーとダンスレッスンではもちろん着ていたが、その姿を見ていたのはごく限られた人数に過ぎない。

率直に言って恥ずかしいし、照れくさい。

……いやいや、今日の私はルシャを守るという使命があるのだから、こんなに気もそぞろではダメだ。

自分に言い聞かせて、私は手の中の扇をじっと見つめる。その扇には、お父様からいただいた赤の色石が自然に配置されている。

うん、大丈夫。

もちろん自分の力で守りたいけど、もしもの時はお父様もいることだし。

そうやって自分を落ち着かせていたら、ルシャが到着したという報せが届いた。急にドキドキと早鐘を打つ胸をそっとおさえながらエントランスへと続く扉を開けた途端、歓声が聞こえた。

「うわぁー!!!!」

ルシャだ。

「うわぁー! うわぁー! うわぁー!!!! レオニー、すっっっっっごいキレイ!!!!!」
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