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不器用だけど

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「そりゃあもちろん。アカデミーでは皆楽しそうに賭けに興じてたからね。レオニーのエスコートは僕だ、ってのもついでに広まるならその方がいいから放っといた」

ルシャはけろっとした様子だ。本当になんら気にしていないんだろう。

「ルシャ様ったら、レオニー様の装いについては口が硬くて、最後まで予想がつきませんでしたわ」

「僕も本当に知らなかったんだよ。ていうかレオニーにも聞かないようにしてたんだ。どんな格好で来てもレオニーはレオニーだもん」

ルシャの言葉に、思わず頬が緩んだ。きっとルシャは言葉の通り、私がスーツで来ようがフリフリの愛らしいドレスで来ようが「いいんじゃない?」って笑ってくれただろう。そんな、謎の安心感がある。

ルシャのこの言葉に、レディ達はきゃあきゃあと可愛らしい声をあげ、満足顔で場を辞して行った。まぁ満足したんなら問題ないだろう。

押し寄せてくる女性陣の波が切れたら、今度はちらほらと男性陣が顔を出す。中には私にエスコートを打診してくれた心優しき友人たちの顔も見受けられた。

「レニー、しっかり淑女じゃないか」

「見違えたよ」

「やっぱり俺がエスコートしたかったなぁ」

「お前、ずるいぞ」

なんてルシャを小突きながら、気軽に声をかけてくれて、私の緊張も随分とほぐれてきた。そんな男性陣の中にはダグラスも含まれていて、私とルシャを見てなぜか少しだけ驚いたような顔をする。

「レオニー、今日はドレスなんだな」

「やあ、ダグラス。さすがに夜会くらいはドレスを着るさ」

笑ってそう言ったら、ダグラスは目をあっちこっちに泳がせながら、最終的に絞り出すように褒めてくれた。

「その……すごく、綺麗だと思う」

ダグラスはきっとそういうセリフを言い慣れていないんだろう、赤い顔でとても気まずそうだ。不器用だけれど、それでも褒めてくれた事が嬉しかった。

「ありがとう、ダグラス。嬉しいよ」

そう微笑んだ瞬間。

「なぁ~にが『綺麗』だ。心にもない事言ってんじゃねぇよ」

来た。

この聴き慣れた声は、どう考えてもアッサイ殿達だ。振り返ってみれば、男ばかり四人ほどの集団が目に入る。言わずと知れた殿下の取り巻き連中だ。

あーあ、さっきまでは楽しかったのに。急速に楽しい気分が萎んでいくのを感じる。

「それはお目汚し申し訳ありませんでした。私共は目に入らない場所に移動しますので」

これ見よがしに王宮のマナー講師直伝のカーテシーを披露してから、私はアッサイ殿に背を向ける。
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