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32.誤解
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キースの所属している部署では、目が回るようだった繁忙期が終わり、今は束の間の閑散期に入っていた。
その日、午前中で仕事を切り上げたキースは、探していた書籍が入荷したという古書店からの知らせを受けて、街にやってきていた。
目当ての品を無事に受け取り、散歩がてらに少し街をぶらついてから帰ろうと思った矢先のことだった。
彼は少し離れた店の窓際にシャーロットの姿を見つけた。
こんなところで会えるなんて奇遇だと嬉しく思った彼は、彼女の方に近づこうとしたが、すぐにその隣に兄が座っている事に気付いた。
キースからは、柱の影に入ってしまっていたアドリアーナの姿を見ることができなかった。
彼には、まるで、シャーロットとアルバートが二人きりで密会でもしているように見えた。
キースは足を進めるのを躊躇った。
こんなところで、兄さんと二人きりで会うだなんて・・・公爵家に来ればいつでも会えるのに。
何か僕に知られたくない事でもあるのだろうか・・・。
それとも、彼女は兄さんの事が・・・。
考えてみれば、最近の彼女は、自分が話し掛けても、心ここにあらずという反応ばかりだった。
目の前にいる自分を素通りして、どこか別のところにでも意識があるような・・・。
それに贈りものをしても、悲しげな顔をするばかりで、あまり嬉しそうには見えなかった。
こんなことは考えたくも無いが、もしシャーロットが兄に好意を持っているのだとすれば、今まで気掛かりに思っていたこと全てに辻褄が合ってしまう。
きっと、キースが彼女を思ってきたように、彼女も兄の事を陰ながら慕ってきたのだろうか。
自分が余計な事をしてきたせいで、彼女は兄と一緒になる機会を逸してしまったのかもしれない。
兄が結婚しても諦めきれなかった彼女。
その兄から弟を代わりに差し出されるなど、どれだけ屈辱的に感じて傷ついただろうか・・・。
やはり、彼女は兄との本懐を遂げられるかどうかは別として、自分と婚約などしたくなかったのだ。
だからこそ、今になって、こちらの方から別れを告げたくなるように、あえて気の無い対応をしているに違いない・・・。
彼女があの時、敢えて候補と言ったのも、途中で投げ出したくなったら躊躇わずそうして良いと告げたのも、全てこの為の布石だったのだ。
自分のことが気に入らないなら、気に入らないとはっきり言ってくれればいいのに・・・。
そうすれば、諦めきれなくても、気持ちの整理が少しはついたかもしれない・・・。
けれど、彼女の立場では兄が薦めたものを、はっきり不要だとは言い出しづらかったに違いない。
最大限に気を遣った方法が、これだったのだ。
彼女が何を考えているのかやっと解った。
知らないままでいた方が幸せだったのに、解ってしまった・・・。
けれど、知ってしまって尚、彼女と別れたくは無い・・・。
かといって、自分に気持ちの無い彼女を、無理に縛り付けておくのも辛いだけでしかない。
ここは彼女の思いを汲んで自分の方から別れを告げるというのが、自分の選ぶべき選択肢で、正解なのだろうか・・・。
その日、午前中で仕事を切り上げたキースは、探していた書籍が入荷したという古書店からの知らせを受けて、街にやってきていた。
目当ての品を無事に受け取り、散歩がてらに少し街をぶらついてから帰ろうと思った矢先のことだった。
彼は少し離れた店の窓際にシャーロットの姿を見つけた。
こんなところで会えるなんて奇遇だと嬉しく思った彼は、彼女の方に近づこうとしたが、すぐにその隣に兄が座っている事に気付いた。
キースからは、柱の影に入ってしまっていたアドリアーナの姿を見ることができなかった。
彼には、まるで、シャーロットとアルバートが二人きりで密会でもしているように見えた。
キースは足を進めるのを躊躇った。
こんなところで、兄さんと二人きりで会うだなんて・・・公爵家に来ればいつでも会えるのに。
何か僕に知られたくない事でもあるのだろうか・・・。
それとも、彼女は兄さんの事が・・・。
考えてみれば、最近の彼女は、自分が話し掛けても、心ここにあらずという反応ばかりだった。
目の前にいる自分を素通りして、どこか別のところにでも意識があるような・・・。
それに贈りものをしても、悲しげな顔をするばかりで、あまり嬉しそうには見えなかった。
こんなことは考えたくも無いが、もしシャーロットが兄に好意を持っているのだとすれば、今まで気掛かりに思っていたこと全てに辻褄が合ってしまう。
きっと、キースが彼女を思ってきたように、彼女も兄の事を陰ながら慕ってきたのだろうか。
自分が余計な事をしてきたせいで、彼女は兄と一緒になる機会を逸してしまったのかもしれない。
兄が結婚しても諦めきれなかった彼女。
その兄から弟を代わりに差し出されるなど、どれだけ屈辱的に感じて傷ついただろうか・・・。
やはり、彼女は兄との本懐を遂げられるかどうかは別として、自分と婚約などしたくなかったのだ。
だからこそ、今になって、こちらの方から別れを告げたくなるように、あえて気の無い対応をしているに違いない・・・。
彼女があの時、敢えて候補と言ったのも、途中で投げ出したくなったら躊躇わずそうして良いと告げたのも、全てこの為の布石だったのだ。
自分のことが気に入らないなら、気に入らないとはっきり言ってくれればいいのに・・・。
そうすれば、諦めきれなくても、気持ちの整理が少しはついたかもしれない・・・。
けれど、彼女の立場では兄が薦めたものを、はっきり不要だとは言い出しづらかったに違いない。
最大限に気を遣った方法が、これだったのだ。
彼女が何を考えているのかやっと解った。
知らないままでいた方が幸せだったのに、解ってしまった・・・。
けれど、知ってしまって尚、彼女と別れたくは無い・・・。
かといって、自分に気持ちの無い彼女を、無理に縛り付けておくのも辛いだけでしかない。
ここは彼女の思いを汲んで自分の方から別れを告げるというのが、自分の選ぶべき選択肢で、正解なのだろうか・・・。
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