農民の少年は混沌竜と契約しました

アルセクト

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第四章 分岐点

漆黒のパーティ

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「まー、とりあえず名乗っとくか」

 イツキさんはそう言って僕達を一旦横に行くよう肩を押したので避けて、この場にいる村人全員に聞こえるよう声を張り上げる。

「俺達はS級冒険者集団『漆黒のパーティ』、リーダーはこの俺イツキだ」
「私はエルフのメイと申します」
「僕はドワーフのフールです」
「私は兎族のスーだよー!」

 そう名乗った途端、村人全員がざわめき立った。
 理由はこんな僻地に居れば決して会うことの無いS級冒険者と名乗ったからだ。

 冒険者ランクはF~A、その上にSランク、そして最大ランクは『英雄』である。
 その中でのSランクというのは実はとんでもない難関らしくて、Bランク上位とAランク下位の差はあまり無いらしいけど、AランクとSランクの差は間にもう一ランク入る程大きな実力差が必要らしい。
 それより上の英雄というのは他者を圧倒する実力、世界を救うような功績、清く正しい心など審査項目が多数あり、実力は英雄クラスだけど功績を上げられずにS止まり、なんてのもよくある話なのでSランクであるというのは実質的に英雄とあまり変わりないのだ。
 そもそも英雄は冒険者である必要もない立場で、今も『狂気の医者マッドドクター』『薬毒メディカルポイズン』という二つ名を持つ医者と薬学者の双子が冒険者以外の英雄の代表例として存在している。

 そんなSランク冒険者がこんな僻地にある村に来ることはこれまでに無く、それどころか来ること自体誰も想像したことが無かった。

「やっぱりイツキさんはSランク冒険者だったんですね!」
「教えた事あったっけか?」
「いえその、あの杖に使った魔石が凄く貴重な物だったので」
「あー……そりゃバレるか」
 そうイツキさんは呟くと頭を掻いた。
「これ名乗んのやっぱ死ぬ程恥ずかしいんだけどなぁ……」
「何でですか?」
「いやほらさ?こうやって騒がれんのがめっちゃなんていうかこう、俺なんかが良いのかなーとか、そもそも目立つのが恥ずかしいというかさぁ」
「ふむ、実力は十分あるようだが?」
「そりゃまあ俺も魔法にはそれなりに……てかコン、一応こいつらには話してあるから元の姿でいいぞ?どうせ村の中でなら知られてんだろ」
「そうか」

 それを聞いてコンは僕の肩の上で変化を解いて普段の姿に戻る。

「ほ、本物の竜……イツキ嘘ついてなかったんだ」
「おいフール疑ってたのかよ」
「だってイツキの事だからワイバーンとかの亜竜種か、下手したら羽のあるトカゲかもしれないと……あ!?ごめんなさい!」
「気にせんでいい。我ではなくイツキの信用の問題であるようだからな、仕方のない事だ」
「おいこら俺が悪いってのかよ……まあいいや」
 イツキさんはまた頭を掻きつつ大きな声を出す。

「最南の大森林の調査は依頼の通り到着日の翌日、昨年の森の様子を知る村人と共に森の中層まで入り3日間をかけて行う!飲食物なんかは持参、宿は今日と調査後の日の2日分をお借りしたい!」

 これも毎年の事だ。
 この村に宿は無く、宿代わりに普段空き部屋の多い村長の家が旅人の宿泊場所であり、食事なども村長宅で用意するが食料は皆で持ち寄る。
 それがこの村の基本的なルールだ。

「事前に聞いておるかもしれぬがこの村に宿は無い。その為普段は儂の家が宿代わりとなるんじゃが……ロイの知り合いとの事だし、ゼンとルリが良ければそちらに泊めさせてもらうといい」
「村長、俺らは来るなら大歓迎だ!ロイが世話になった相手なら断る理由もないからな」
「私も腕によりをかけてご飯を作らなくちゃね!」
「あー、そんじゃロイんとこでお世話になろうかな?でも流石に4人は無理じゃないか?」
「それなら2人、もし良ければ私の家に来ませんか?」
「ん?ああソフィーか!そうだな、それで頼むわ」
「はい!」

 なんだけど、こうして仲の良い人が居ればまた話は別である。
 その後誰が何処に泊まるか話した結果、イツキさんが僕の部屋、メイさんがソフィーの部屋、フールさんがレン兄の部屋、スーさんがミリィの部屋に泊まることとなった。

「あ、そうだ。もし良ければ俺らの実力見てみたい奴らは居るかー!居るなら見せてやんぞー!」

 宿が決まった後、それぞれの家に帰ろうとしていた村人をイツキさんがそう言って呼び止める。
「勿論この土地が荒れたりするようなことはしませんから、そこは安心してくれていいですよ」
 メイさんがそう言って微笑むと(僕を除き)男の顔がだらしなくなった。
 まあ物凄い美人さんなので仕方ないとは思えるけど、その態度に伴侶からどつかれていた。

 それから流石に門前でやるのは少々危ないとのことで幾らか離れた草地に移動する。
 その間村に残っていた村人も昼食を持って来たので一旦食事を挟んだ。

「うっし、そんじゃ披露すっかな。まずは目に見えやすいスーとフールから!」

 サンドイッチを軽く食べたイツキさんがそう言うと、フールさんは虚空から身の丈以上ある艶消しをしたのだろう黒い金属の大盾を取り出した。
 スーさんは何も取り出すことなく目にも止まらぬ速度のパンチや蹴りで本人いわく「ただの準備運動」をしていたのだけど、正直その姿だけで桁違いな強さを感じさせる動きであった。
 そして村人全員が食事を終えると僕達から幾らか離れた所に行き、メイさんが僕達の前に魔力障壁を張り巡らせる。
 これは無用な被害を出さぬための処置だそうで、こうでもしないと風圧で転がされかねないのだそう。

「では僕も少し本気を出しますね」

 そうフールさんが宣言すると、どこか申し訳なさげに垂れていた眉が吊り上がって表情もどんどん怒気を感じる物に変わる。
 そして実は凄くブカブカだと思っていた服がすぐに彼の身体にピッタリな大きさに変わる……のではなく、フールさんの小さな体躯がどんどん太くなって行き、気付けば元々凄かった筋肉が更に膨れ上がって完全に丸い筋肉の塊のようになってしまっていた。
 その状態でも身長はやはり小さいままだけど、自身の体躯の倍はある大盾を構える様はとても力強さを感じさせるものであった。

 それとは対象的に細く華奢できめ細やかな肌をした兎の獣人であるスーさんはパンチ、キック、宙返りと体の調子を確かめるようにしているものの、なんの武器も持たぬ素手であった。

「それじゃ、行っくよー!!」

 そう大きな声で言ったスーさんは、なんと素手のまま一旦フールさんから距離をとって、そして足を兎のようにググッと力を溜めるように縮めたかと思った、その直後の事である。



 ガカアアアァァァァァンンン!!!!!



 とんでもない大きさの金属同士の衝突音が静かな平原に響き渡り、それと同時に猛烈な勢いの暴風が土や草を幾らか巻き込み吹き飛ばす。
 あまりの大きさに僕も含めた村人全員が耳を塞ぎ、反射的に目も瞑っていた。
 そうして音が収まり目を開くと、フールさんがなんと10メートルも後ろまで下がっており、元々フールさんが立っていた位置には右拳を振り切った姿のスーさんが立っていた。
 恐らく今のはスーさんがフールさんの大盾を殴って後退させたのだと思うけれど、あんな筋肉の塊になったフールさんを弾き飛ばした細腕のスーさんがなんの武器も持たぬ素手で、その上一切血を流していない光景はあまりにも異常であった。

「んー、やっぱまだAランクのフールには若干荷が重かったか?」

 そう僕達の少し前に立っていたイツキさんがそう呟くと同時、フールさんが持っていた大盾を手放して地面に落とした。

「うう、少しぐらい手加減してくれてもいいじゃないですか」
「えー?ほら篭手は着けてないし、それに手を抜いたら実力を見せられないよ?」

 そんな話をしている辺りスーさんはまだまだ小手調べ程度にしか力を出していないようで、自警団辺りの皆があまりの実力差に落ち込むか、逆に目を輝かせていた。



「そんじゃあメイは後回しで次は俺だ!目ぇ開いてよく見てろよ!」


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