短編集『サイテー彼氏』

あおみなみ

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言ってみたいだけ病

QとX

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自分の意見をしっかり持つのは悪いことではないけれど、「それってあなたの感想ですよね」で片付くことがほとんどかも――そんなお話です。

※本作に限っては、登場人物は意図的に性別を伏せて書いてあります。
それでもQを男性、Xを女性と仮定して読む方が多いのではと思っております。

***


 あるとき、あるところに、そこそこ仲のよいカップルがいました。

 2人とも、見た目もさまざまな能力も十人並み。特に人格者でもありませんが、悪人というわけでもなく、余力があれが困っている人を助ける程度の優しさは持ち合わせていました。

 そのくらいどこにでもいそうな2人は、まさにどこにでもいそうな恋人同士でしたが、人生ゲームのコマみたいな棒人間というわけではありませんから、感情もあれば悩みもあります。
 つまり、受け身の幸運や不運だけではなく、他の人から見たら「そんなことで?」と思うようなことに、心を痛めたり削ったりしていますし、それが時には何らかの不幸につながることもあります。

 仮に2人をQとXとしましょう。
 なぜそうしたかといえば、どちらも日本人の名前のイニシャルにはあり得ないからです。
 2人の性別については、ジェンダー的な観点から伏せておきます。
 昨今そういうことにやかましい人が多いので、気にしいでビビりの筆者の逃げ、くらいに捉え、軽い気持ちで読んでいただければと思います。

 Qは平凡な自分に満足できず、Xは平凡な自分を受け入れていました。
 「平凡」の一言で片付けるのは簡単ですが、別個の人間である以上、それぞれの個性というものがありますから、それは当然のことでしょう。

 Qが平凡の殻を破るためにやるべきこと、できることはたくさんあります。
 容姿を磨くもよし、仕事で頑張るもよし、何らかの趣味特技を持ち、その中で存在感を示すもよし。

 しかしQがやったことといえば、かんたんに言うと「悪口を言いまくる」ことでした。
 要するに何かに辛い点数をつけることで、自分をひとかどの人物に見せるような、割とよくある手法です。

 Qにしてみると、悪口ではなく批判だ、批評だ、愛ゆえの鉄槌だということになりますが、本当に正当な批判ならば、その対象の改善へとつながる可能性もありますから、無価値とはいえません。
 また、悪口というと幼稚でいいイメージはありませんが、娯楽の一面も残念ながらあります。
 みんなに嫌われている上司を貶すことで、飲みの席が盛り上がる的なコミュニケーションもあるでしょうから、これはこれで…です。

 Qはありとあらゆるものに対し、粗探しをしました。
 殊に売れているもの、大衆に支持されているものは、それだけで「有象無象のおもちゃに過ぎない」などと利いたふうなことを言い、ここが駄目、あそこがアレだと事細かにダメ出しをするのです。
 それも自分の中から出てきた意見というよりも、どこかで聞きかじったこと、ネット記事でちょっと権威のある人が書いていたことなどがベースです。

 ところで筆者は、「自分の言葉で語らない」だけを理由に、その意見を無価値だと言う気はありません。
 たとえ受け売りであったとしても、それをよしとした以上、ある意味「その人の意見」です。

 ただ、Qが「よしとする」ものには一貫性がありません。
 昨日までは黒が最も美しいと言っていたのに、今日は白が最高だと言い、そればかりか黒は無価値だと言ってはばからないほど、清々しいほどにブレブレでした。

 Qとたまたま会って、一度話しただけの人ならば、単に好き嫌いのはっきりした人、自己主張をする人という印象しかないかもしれませんが、一緒に過ごすことの多いXは、Qのそんな態度に最初のうちは不審なものを感じ、次第に不満に思い、遂には…という心の移り変わりを経験することになります。

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