短編集『サイテー彼氏』

あおみなみ

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言ってみたいだけ病

大好きなお菓子

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 Xは子供の頃、大好きなお菓子屋さんがありました。
 大人になって別な街に住むようになったものの、そこの看板商品である「蒸しチョコケーキ」は、帰省のたびに、職場や友人へのお土産とは別に、自分用のお土産として買ってくるほどの好物です。

 QとXは、交際2年目からは一緒に暮らし始めました。
 そしてそんな中、「これは自分の一番好きな菓子」だと言ってQに食べさせました。

 当然Qは、それがXの田舎の菓子店だということを知っています。
 一口食べて、こんなことを言いました。

「全然駄目▼所詮は田舎者相手の商売だから洗練されていない▼素朴なおいしさとかいうのは欺瞞。まずいの(たぶん「婉曲」の間違い)表現▼昔から変わらない味といえば聞こえはいいが、実は有名な老舗は少しずつ時代に合わせて味を変化させているのだ」うんぬん。

 老舗の味変に関しては、どうやら間違いではないようですが、その際、ダーウィンの進化論のよくある誤解をとくとくと引用して披露したのには、さすがのXもうんざりしました。

 Xは「変化する者が生き残る」的な言葉についてはよく知りませんでしたが、大好きなお菓子をケチョンケチョンに言われたのがまず許せないし、そもそもそこまで論を展開させるほどのネタとも思えません。さすがに大喧嘩になりました。

 しかし、もともと軸がブレブレの凡人に過ぎないQは、すぐに「言い過ぎた、ごめん」と謝りました。
 Xも「もう別に気にしてない」と許しました。
 「気にしていない」は全くの本心ではないにせよ、基本的に仲良くやっていきたいのだから、いつまでも怒っているのも得策ではないと思ったのです。
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