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第31章 より真相に近いかもしれない話を求めて

一難去らずにまた一難

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「このことをご両親は?」
『知らないです。手術も1日で終わって入院してないし、ホケンも利かないから分からないって彼が…』

 いや、最初の診察分のは記録残ってんじゃないかと思ったが、よく考えたら「産婦人科」を標榜しているだけで内科も小児科もある、みたいなクリニックだったりした場合、幾らでもごまかしようがある。その病院がどうだったかは忘れたけど。
 千奈美から話を聞く限り、ネグレクトというほどではないが、「高校生だし」を枕詞に、自分に都合よく放任している親御さんという印象を受けた。あまり感心はしないが、今どき珍しくもないのだろう。

 私はああいう人と、短いながらも生活をともにしていた上に、自分自身が後ろ暗いことをしていた経験があるせいか、裏を読んだり、裏をかいたりするのがちょっとうまくなってしまったのかもしれない。

 ちょっとオバカでピュアでコドモな千奈美は、「彼」の言うことにあらゆるものをゆだね過ぎている。まるっきり、少し前までの私の姿だ。

「…そか。じゃ、もう幸助さんともお別れしたのね」
『いえ、1カ月経ったらまた会おうねって言ってくれました』
「は?」
『全快祝い――っていうのも変ですけど、体がしたら、二人きりでお祝いしようって』

 お嬢ちゃん、お嬢ちゃん。それって要するに「やる気マンマン」ってことじゃないですか?

「あのね…言いづらいんだけど、私あの人との離婚、まだ成立していないのよ?」
『あ…ごめんなさい。あの、奥さんもまだ幸助さんのこと…』
「いや、そういう問題じゃなくて」

 この状況で、「あんなクズ男はよしなさい!」なーんて一般論が通用するはずがない。
 最初に電話をかけたときの警戒の空気を、私は「自分をはらませて堕胎おろさせた憎い男の恥知らず妻」へのものだと解釈したのだが、違っていたようだ。「彼」の洗脳が解けていない彼女には、私など目の上のたんこぶでしかないのだろう。

 ああ、一難去って(去ってないし)また一難という心境だった。

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