上 下
263 / 472
うき世の楽園

171.

しおりを挟む

 
 
 閑静な枯山水が。
 
 冬乃の眼前の空間に、小宇宙を成し。


 「すごい・・きれい・・・」

 沖田に後ろから抱きかかえられるようにして連れて来られた、この庭先で。冬乃は今、沖田の厚い胸板に頭を凭せ掛けたきり、眼前にひろがる幾何学的な砂のうねりに魅入っていた。
 

 
 広い間取りとはいえ豪奢な内装を敢えて避けたこの家に、合わせるように小さな庭園で、広々と表現された世界の容。
 
 
 ふたりだけの家の庭で、沖田とふたりきりで。こんな景色を見られるなんて。
 冬乃は感動に瞳を潤わせ。
 
 
 「冬乃なら気に入ると思った」
 背に直に響く嬉しそうな沖田の声に、冬乃は庭から視線を外し、後ろへと顔を擡げる。
 
 「総司さん・・」
 
 額に口づけを受けて冬乃は、そのままうっとりと片頬を預けた。沖田の心の臓の鼓動が聴こえ。
 目を瞑った。
 
 冬乃を抱きくるめる腕が強まり。
 「冬乃」
 甘く冬乃の名を囁いてくれる、愛しい声。
 
 幸せすぎて。
 
 眩暈がやまない。
 
 
 
 
 
 
 冬乃の幾度めかのふらつきに。沖田は、冬乃の体をいっそ腕に抱き上げてしまうべく、さっさと屈んで彼女の両脚を攫った。
 
 「きゃ」
 当然に驚いた声が起こるも、すぐに冬乃の細い腕は沖田の首へと回る。
 冬乃も心得たものだと、沖田は内心笑ってしまいながら、
 
 思い返してみれば、すでに数えきれぬほど冬乃を抱き上げているのだ、彼女のほうも慣れたものだろうと、思い直す。
 
 
 そう、冬乃を初めてこの腕に抱いたのは彼女が此処の世に来た、まさに最初の日、
 あの時からだったと。
 
 
 「総司さん・・」
 
 沖田の肩へと頬を寄せ、冬乃は安心しきったようにその身を沖田に預け、見上げてきて。
 
 その見るからにうっとりと蕩けているまなざしを、間近に見下ろし。湧き起こる情のままに潤う唇に貪りつけば、
 冬乃は小さく喘ぎながら、常のように懸命に沖田を受け入れてくれる。
 
 「ン…」
 冬乃の吐息が漏れ。腰奥で点る情慾を。沖田はそして、
 
 今この時からは、もう抑えなくてよいのだと、
 
 唇を離した沖田を追うように瞼を擡げ、覗いた艶をおびた瞳に。確信し。
 
 
 部屋へと、冬乃を抱きかかえたまま振り返る。
 
 
 刹那に冬乃に奔った緊張を感じた。
 
 「・・冬乃」
 どうほぐしてやればいいものか。
 
 沖田は目下の冬乃の額へ、再び口づける。
 
 「大丈夫・・・」

 かけてやれる言葉を探りながら、

 「・・優しくするから」
 
 冬乃の揺れる瞳を見下ろす。
 
 
 
 冬乃の顔が、見事なまでに紅く咲いた。




しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

神様の外交官

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:342pt お気に入り:11

お飾り王妃の死後~王の後悔~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,854pt お気に入り:7,307

鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,002pt お気に入り:160

伯爵令嬢は執事に狙われている

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:449

ヒーロー達が催眠にかかって自ら開発される話

BL / 完結 24h.ポイント:156pt お気に入り:316

俺を裏切り大切な人を奪った勇者達に復讐するため、俺は魔王の力を取り戻す

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:5,248pt お気に入り:91

処理中です...