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うき世の楽園
171.
しおりを挟む閑静な枯山水が。
冬乃の眼前の空間に、小宇宙を成し。
「すごい・・きれい・・・」
沖田に後ろから抱きかかえられるようにして連れて来られた、この庭先で。冬乃は今、沖田の厚い胸板に頭を凭せ掛けたきり、眼前にひろがる幾何学的な砂のうねりに魅入っていた。
広い間取りとはいえ豪奢な内装を敢えて避けたこの家に、合わせるように小さな庭園で、広々と表現された世界の容。
ふたりだけの家の庭で、沖田とふたりきりで。こんな景色を見られるなんて。
冬乃は感動に瞳を潤わせ。
「冬乃なら気に入ると思った」
背に直に響く嬉しそうな沖田の声に、冬乃は庭から視線を外し、後ろへと顔を擡げる。
「総司さん・・」
額に口づけを受けて冬乃は、そのままうっとりと片頬を預けた。沖田の心の臓の鼓動が聴こえ。
目を瞑った。
冬乃を抱きくるめる腕が強まり。
「冬乃」
甘く冬乃の名を囁いてくれる、愛しい声。
幸せすぎて。
眩暈がやまない。
冬乃の幾度めかのふらつきに。沖田は、冬乃の体をいっそ腕に抱き上げてしまうべく、さっさと屈んで彼女の両脚を攫った。
「きゃ」
当然に驚いた声が起こるも、すぐに冬乃の細い腕は沖田の首へと回る。
冬乃も心得たものだと、沖田は内心笑ってしまいながら、
思い返してみれば、すでに数えきれぬほど冬乃を抱き上げているのだ、彼女のほうも慣れたものだろうと、思い直す。
そう、冬乃を初めてこの腕に抱いたのは彼女が此処の世に来た、まさに最初の日、
あの時からだったと。
「総司さん・・」
沖田の肩へと頬を寄せ、冬乃は安心しきったようにその身を沖田に預け、見上げてきて。
その見るからにうっとりと蕩けているまなざしを、間近に見下ろし。湧き起こる情のままに潤う唇に貪りつけば、
冬乃は小さく喘ぎながら、常のように懸命に沖田を受け入れてくれる。
「ン…」
冬乃の吐息が漏れ。腰奥で点る情慾を。沖田はそして、
今この時からは、もう抑えなくてよいのだと、
唇を離した沖田を追うように瞼を擡げ、覗いた艶をおびた瞳に。確信し。
部屋へと、冬乃を抱きかかえたまま振り返る。
刹那に冬乃に奔った緊張を感じた。
「・・冬乃」
どうほぐしてやればいいものか。
沖田は目下の冬乃の額へ、再び口づける。
「大丈夫・・・」
かけてやれる言葉を探りながら、
「・・優しくするから」
冬乃の揺れる瞳を見下ろす。
冬乃の顔が、見事なまでに紅く咲いた。
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