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壊劫の波間

36.

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 冬乃は押し黙る。
 
 代わりに朝蝉の声が、少し開けてある障子の隙間から生ぬるい風とともに届いた。
 
 (・・そういえば)
 今じっとしていれば冬乃には問題ない気温だが、沖田には少々暑いのではないか。こんなふうにくっついていたら余計に。
 
 だからといって離れたくない冬乃は、後ろの沖田を窺い見た。
 心配したほどには暑がっているようでもなさそうな顔が冬乃を見返し、微笑んだ。
 「次、冷奴いける?」
 
 冬乃が次の食事をねだったと思ったらしい。沖田が問いつつ冷奴の器を二人の横に置いた膳から取り上げる。
 「・・おねがいします」
 たしかに、エサ待ち冬乃である。
 
 「口開けて」
 冬乃が言われた通りに背後の沖田のほうへ横向きに口を開けると、箸の上に乗った冷奴が口の奥へと押し込まれた。
 崩れて唇に少しついた豆腐のかけらを沖田が例の如く舐め取ってゆく。
 「…ン」
 と思ったら、今回はそのまま口づけが続いて。
 
 (お・・お豆腐っ・・)
 があるのに。侵入してきた舌に冬乃が驚いているうちに、少しもらうよとばかりに豆腐を絡め取られる。
 「んんっ…」
 返してー。冬乃が唇を塞がれたまま唸った、時。
 
 ゴホン!!
 
 (きゃっ)
 
 外からの突然の咳払いが響き、
 冬乃は目を見開いた。沖田が一寸のち仕方なさげに冬乃から唇を離し。
 
 「覗きとは良い趣味ですね。土方さん」
 剣呑な声で言い放ち、膳の向こうの障子へ向いた。
 
 (土方様!?)
 当然、冬乃は沖田の腕の中に隠れ込む。

 「覗きじゃねえッ障子開けてっから見えたんだよ!大体おめえ、俺が来てから接吻はじめただろ、いやがらせかッ」
 (え)
 
 「ったく部屋にも広間にもいねえから、どこ行きやがったかとおもえば、朝っぱらから此処で何してやがる!?」
 「朝餉」
 見ての通り分け合っていた。
 ニヤリと返す沖田に、土方がすぱーんと障子を全開し。
 
 「どういう食事の摂り方だよッ」
 
 
 ・・・いちいちツッコミで応酬する土方は、やはり沖田ととても仲良しだと思う。
 と冬乃が内心思ったことは秘密だ。


 
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