異世界に飛ばされたおっさんは何処へ行く?

シ・ガレット

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3巻

3-2

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 4 到着と我が家


 トーランへ着いたタクマたちはさっそく領主邸へ移動した。
 そこにはすでにコラルとアークスが待っていて、タクマたちを応接室へ案内してくれた。
 コラルが子供たちに声をかける。

「ようこそ鉱山都市トーランへ。歓迎するよ。私はこの町の領主であるコラル・イスル侯爵こうしゃくだ。まだ来たばかりで町のことはまったく分からないだろうから、私のメイドに案内させよう」

 子供たちを町に行かせている間に、タクマとコラル、アークスで話を詰めていくことにした。
 さっそくアークスが提案してくる。

「タクマ様。今回連れてきた子たちは、タクマ様のやかたで引き取るのはどうでしょうか?」
「ん? だが準備ができていないだろ? それにコラル様が引き取ってくれると言ったのに良いのですか?」

 コラルに頼んで了承してもらったのに、それを反故ほごにするのはどうなのかと思ったのだが、すでに話が通っていたようだ。心配するタクマにコラルが告げる。

「最初にこちらで引き取ると言ったのは、アークスあってのことだったのだ。アークスがタクマ殿の下についたのなら、タクマ殿が引き取っても良いのかもな」
「なるほど。では、あの子たちは私が引き受けることにしましょう。アークス、家の受け入れ準備のほうは?」

 アークスによると、つつがなく準備は進んでいて、問題ないそうだ。たった一日で彼らの衣食住、教育環境まですべて準備できていると報告された。

「アークス、少年たちはお前が見てくれるのだろうが、弟たちはどうするんだ?」
「まだ小さい子たちは、大きくなるまでは十分な食事を与えてしっかりと遊んでもらおうと思っております。孤児院のほうには日中面倒を見てもらうように言ってありますので、心配ありません」

 子供たちのことはまったく問題ないようだった。それからタクマは条件の酒をコラルに納品した。コラルは目当ての酒を手に入れてホクホク顔になっていた。
 ひと通り話が済んだところで、子供たちが帰ってきた。今までいた町とは違い安心して暮らしていけるのが分かったようで、みんな笑顔だった。タクマは気力が湧いてきたらしい子供たちに声をかける。

「今後の君たちについて領主様と話し合った結果、少々変わったので教えておくよ。領主様のところでお世話になるように頼んであったんだが、俺が引き取ることになったんだ。今日から俺たちは家族になるんだ。よろしくな」

 タクマに、家族と言ってもらえたのが嬉しかったのか、子供たちは涙を流していた。生活の心配がなくなって安心もしたのだろう。タクマは言葉を続ける。

「だが、家族になったばかりで申し訳ないが、俺はまだ旅をしないといけないんだ。ちょくちょく帰ってくるつもりではいるが、留守の間は俺の家で働いてくれているアークスが、君たちの面倒を見てくれる」

 すると、アークスが子供たちに言う。

「ご紹介にあずかりました、アークスと申します。あなたたちのお世話をさせていただきますので、よろしくお願いしますね。今日は疲れているでしょうから、さっそく家へ帰りましょう」

 今までの疲れからかみんな眠そうにしていたので、アークスに連れられてタクマの家へと向かっていった。
 子供たちを見送ると、コラルが尋ねてくる。

「タクマ殿。本当に引き取って良かったのか?」
「ええ、拠点があればそうするつもりでいたので、問題ありません。それに、あの子たちが先にいろいろ覚えてくれれば、今後引き取る子供たちの世話も楽になるでしょうから」
「今後引き取る? ……なるほどな」
「まだまだ子供を引き取ろうと思っているんです。これからもよろしくお願いします」

 領主に頭を下げると、彼は豪快ごうかいに笑ってタクマの肩を叩いた。

「君には返しきれない借りがあるし、子供が生気のない目をしているのは私も嫌だからな。できることはフォローしようではないか」

 タクマは、お酒の代金はアークスに預けるように伝え、領主邸をあとにした。
 自分の家へ着くと、アークスが出迎えてくれた。子供たちは帰ってすぐに眠りの世界へと誘われてしまったらしく、家の中は静かであった。
 アークスに案内されたのはタクマの寝室だった。そこにはヴァイスたちも一緒に寝られるような大きなベッドと、ソファー、テーブルがすでに用意されていた。ヴァイスたちはその部屋が気に入ったようなので、アークスとの話が終わるまでそこで待っているそうだ。
 タクマは続けて別の部屋に案内された。

「ここはタクマ様の執務室です。今は行商としていろいろなところを旅されていますが、いつかは腰を落ち着けて商会を立ち上げてはいかがでしょうか?」
「商会……ああ、そうだな。そっちの選択肢もあるな。考えてみるよ、ありがとう」

 家の中をあらかた見て回ったタクマが応接室へやってくると、そこにはすでに眠っていると思っていた少年たちが待っていた。

「寝ていたんじゃないのか?」
「いえ、ここまでしてもらったのに名前も名乗っていなかったので、せめて自己紹介だけはと思って……」
「そういやそうだったな。じゃあ、改めて俺のほうから自己紹介しよう。俺はタクマ・サトウ。さっきは冒険者と言ったが、本当は行商人なんだ」
「僕の名前はヒュラです。歳は13です」
「俺の名前はアコラ。ヒュラと同じ歳です」
「僕はファリスです。12歳です」
「私はフラン。12歳」
「……レジー。11歳」

 みんな思っている以上に若かった。苦労していた分、しっかりとして見えたのかもしれない。タクマは優しい口調で話し始めた。

「初めに言っておくが、俺が君たちに望むのは、ここでしっかりと食べ、寝て、遊んで、学んでもらうことだけだ。将来のことは、もっと大きくなれば自然と考えられるようになるから、今は心配しなくていい。そして、これから君たちのような子供がたくさんここに来ることになる。そうなったら、その子たちを助けてあげてくれ」
「「「「「はい!」」」」」
「分かったら、今日はもうゆっくりしなさい。明日からはアークスがいろいろ教えてくれる。頑張れよ」

 ヒュラたちを部屋へと戻らせたタクマは、再びアークスと向き合う。

「アークス、ヒュラたちは思った以上に若かったな」
「そうですね。仕事をさせるのは、彼らが15歳になるまではやめておきましょう。まずは勉強からですね?」
「ああ、どんな職業でも目指せるように教えてやってくれ」

 アークスは、タクマの考えをしっかりと分かってくれていたようだ。
 タクマは安心して任せておけると考えて、鍛冶の町フォージングへ戻ることにした。寝室にヴァイスたちを迎えに行って、そのままフォージングへ跳ぶのだった。



 5 鑑定


 フォージングに戻ったタクマたちは、さっそく町を歩き、他に孤児がいないか見て回った。
 何名かの孤児を見つけたが、その子たちはタクマと一緒に来ることはなかった。タクマの元に来るように言ってみたのだが、全く話を聞こうとはしなかったのだ。

(うーん、初対面の人に頼るのはやはり怖いか……)

 孤児たちを保護するのを断念したタクマは、興味があったら訪ねてくるようにと告げ、宿へと戻ることにした。助けたいと思っても、すべてを助けることはできないようだ。
 部屋に入りゆったりとしていると、コラルから連絡が入った。部屋に結界と遮音しゃおんを行使して応答する。

「タクマ殿。いま良いだろうか?」
「ええ、ちょうど宿に戻ってきたところです。どうかしましたか?」
「うむ、アークスからの伝言なんだが、遠話のカードかそれにるいする魔道具を手に入れてほしいそうだ。連絡手段を整備しておきたいらしい」
「魔道具ですか……分かりました、早急に対応します。わざわざ伝言をありがとうございます」
「気にするな。だが、空間跳躍が使えるなら、なるべく屋敷に帰ってくることも考えたほうが良くはないか?」

 コラルはそう助言をくれたが、タクマは少し違うことを考えていた。

「確かにそちらに帰れば安全だし子供の様子も見られるから良いのでしょうが、その間に私の元に孤児が訪ねてきた場合、対応ができません。頻繁に戻るようにしますが、アムスが抱えている孤児の問題が解決するまでは旅先で寝泊まりします」
「そうか。そこまで考えていたのか。余計なことを言ってしまったな。忘れてくれ。だが、君は孤児たちの親代わりでもあるのだ。危険なことはなるべく避けるんだぞ」
「はい。ありがとうございます。きもめいじます」

 コラルとの遠話を終え、とりあえずひと仕事終えたタクマはゆっくりとすることにした。部屋から動かずに夕食を運んでもらって、食後は各々自由に過ごす。
 タクマは、アムスに向かう道中で潰した犯罪集団が持っていた魔道具を調べることにした。テーブルの上に魔道具を取り出し、一つひとつ鑑定をかけて振り分けていく。
 単純な魔導まどうランプや、着火の魔道具などはそのままアイテムボックスに送っておき、貴重そうな四つの魔道具を詳しく鑑定していく。
 最初に調べたのは地球にもある道具だが、まさか異世界で実物を見ることになるとは思っていない、物騒ぶっそうなものだった。


『魔導銃(神具しんぐ)』
 異世界の武器を元にヴェルド様が作った銃。ただ、弾を込める必要はなく、各属性の魔法を自由に収束、射出する。威力は使用者の魔力に依存。
 使用権限:タクマ・サトウ。


「おいおい……いきなりヤバい武器が出てきたな。何で犯罪集団ごときが、こんな銃を持っていたんだ? しかも権限が俺になってるし」

 ナビが現れ、タクマに告げる。

「おそらくですが、マスターが犯罪集団を潰したときにヴェルド様が送られたのでは? じゃないと、権限が初めからマスターに付いているのは不自然ですし」
「そうか。これはあとで聞かないといけないな。今夜あたり呼ばれそうな気もするが……」

 気を取り直して、タクマは残りの魔道具を鑑定していく。


『守りのピアス(レア)』
 一度だけ即死級の攻撃を無効化できる。


『転移の指輪(レア)』
 一度だけ転移ができる。ただし移動先はランダム。


魔除まよけのランプ(レア)』
 ランプを起動させると、半径10mにモンスターが寄ってこない。魔力充填じゅうてんによる再使用可。


(使ったらヤバそうな物もあるが、おおむね貴重品程度だな。あの集団、貴族でも襲ってたのかな?)

 思った以上に良さそうな物もあったので、潰した甲斐かいもあったと感じた。鑑定を終了したタクマは、すでに夢の世界に行っているヴァイスたちの横に移動して眠りに就いた。
 タクマが目をつむって数分経つと、意識がいつものところへと誘われていく。そして、覚醒すると、いつもの通りヴェルド様が微笑ほほえんでいるのが分かった。

「こんばんは、タクマさん。お元気そうですね」
「お久しぶりです。おかげさまで楽しく過ごしていますよ」
「私の頼みをやっていただいている最中なのに、楽しめているのですか? 私は申し訳なく思っているのですが……」
「頼み事は頼み事ですよ。それに孤児たちを救うことは、俺のライフワークになりそうですね。孤児たちの目が希望に染まるのを見るのを嬉しく感じています」
「そうですか。タクマさんもそう思えるようになったのですね」
「ええ、おかげさまで成長できているようです。それよりも聞きたいことがあ……」
「魔導銃のことですよね。タクマさんも予想している通り、私が犯罪集団の宝物庫に送りました。疑問に思うでしょうが、ちゃんと理由があります。タクマさんはヴァイスたちと連携を取るときに、魔法を抑えていますよね?」

 ヴェルド様の言葉にピクリと反応する。

「おそらく、魔法の調整が少し甘いのを気にしていますね? あの魔導銃は魔力が収束するのを補助してくれるんです。魔導銃を使えば魔法の調整が自然と上達しますから」
「お見通しですか……ありがとうございます。きちんと魔法を使いこなせるように頑張ります」
「ええ、頑張ってくださいね。それと、次の町で良い出会いがあるでしょうから、楽しみにしていてください」

 ヴェルド様はいたずらっ子のような笑みを浮かべると、タクマを見送ってくれるのだった。



 6 異世界商店と新たな町へ


 いつも通りヴァイスたちに起こされたタクマは、異世界商店のグレードアップを確認することにした。
 今までは地球の商品だけしか買えなかったのだが、グレードアップをしたことでヴェルドミールの商品も手に入れられるようになったのだ。ちなみに異世界商店がグレードアップしたのは、ヴァイスたちと挑んだダンジョン制覇の報酬ほうしゅうである。
 品ぞろえに関しては、魔道具、武器、防具、ポーションなどが新しく表示されている。まずは武器から見ていくと、使い方に困るようなものも買えることが分かった。
 霊刀れいとう神剣しんけん妖刀ようとう宝剣ほうけんなどが羅列られつされていたのである。

(霊刀? 持ってるだけで絡まれるな。神剣? あほか! これ以上チートになるのはご免だ。魔剣……は目立たないものもあるか。あとは数打かずうちの剣か、これはピンキリだけど良いものでも悪目立ちはしなそうだな)

 武器だけを見てみたが、ヤバいものまで普通に買えてしまうようだ。防具のほうもヤバいものから普通のものまで網羅もうらされていた。

(武器と防具はいったん置いておこう、まずアークスに求められていた魔道具をっと)

 魔道具のページを見てみると、武器や防具と同じくヤバいものが盛りだくさんであったが、必要な通信系の魔道具を探していく。
 すると遠話のピアスというアイテムが目に留まり、割と手に入りやすいもののようだった。これなら場所も取らないし、常に身につけられるので便利そうだ。このピアスを買うことにして、今の残高では足りないので多めに1000万Gをチャージしておく。


[チャージ金]
 :1013万1450G

[カート内]
 ・遠話のピアス (ニ個一組) 
 :500万G
 ・ピアッサー 
 :1500G

[合計]
 :500万1500G


 決済してアイテムボックスに送った。
 さっそくピアッサーを一個取り出すと、タクマは自分の耳にピアスホールを作る。そして、仕上げにヒールをかけた。

(あっちの世界じゃ消毒やらで時間がかかるけど、流石異世界)

 上手くできたピアスホールをさすりながらヒールの便利さに感心しつつ、多少の出血があったのでクリアをかけておいた。
 渡すのは早いほうが良いだろうと思ったタクマは、自宅の執務室へ跳んだ。アークスが驚いた顔でタクマを見ていた。

「おはようアークス。驚かせて悪いな」
「い、いえ、問題ありません。早朝からいかがなさいましたか?」
「ああ。通信用の魔道具を仕入れて持ってきたんだよ。早いほうが良いだろうと思ってな」

 そう言ってアイテムボックスからピアスを取り出し、一個だけアークスに渡す。

「これは、どうするのですか?」
「遠話のピアスだ。こうやって耳に装着するんだ」

 タクマは残りのピアスを自分の耳に装着した。

「耳に穴を開けるのですね。針で開けるのですか?」
「いや、これを使ってくれ」

 アイテムボックスからピアッサーを取り出し、アークスに見せる。使い方が分からないようなので、タクマがやってやることにした。穴を開けたあとはヒールとクリアをかけてやる。

「その穴にピアスを通してっと」

 タクマは遠話のピアスをアークスに装着してやった。それからアークスを部屋に待たせて、廊下へ出る。声が聞こえないところまで離れると、ピアスに魔力を流して話しかけた。

「アークス。聞こえているか」
「あ! 聞こえます」
「そうか。じゃあ問題ないな。今後何かあったら、ピアスに魔力を流して話しかけてくれ」
「分かりました。お早い対応をありがとうございます」
「ああ、じゃあ俺はこのまま戻るから、あとは頼む」

 再びフォージングに戻ってきたタクマは、宿をチェックアウトした。アムスの別の町も見てみることにしたのである。
 タクマはヴァイスを始めとする相棒たちに話しかける。

「さて、また旅の始まりだ。楽しんでいこうな」
「アウン!(はーい!)」

 ヴァイスはタクマと一緒に旅ができるのが嬉しいようだ。尻尾しっぽが豪快に振られている。

「ミアー!(楽しみー!)」

 ゲールは旅先で何が起こるかに思いを馳せ、興奮しているようだ。

「ピュイー(ご主人様も楽しみましょう)」

 アフダルは飛び回って嬉しそうにしている。

「キキキ!(敵は倒すよー)」

 ネーロは、自分たちに降りかかるであろう災難を吹き飛ばしてやると息巻いている。守護獣しゅごじゅうたちの個性がしっかりとしてきたことを、タクマは頼もしいと思い、思わず笑みを浮かべるのだった。
 ほのぼのとした雰囲気の中、タクマたちは町を出る手続きを済ませ街道を歩きだした。


    ◇ ◇ ◇


 しばらく歩いて人通りが少なくなったところで、小さくなってもらっていたヴァイスたちを元の姿に戻らせる。タクマはバイクを取り出し、街道を外れて速いペースで移動を始める。二時間ほど移動すると、山脈のふもとに湖を見つけたので、そこでみんなを遊ばせることにした。

「今日はここで野営やえいをするから、好きに遊んでおいで。ただし、単独でいてはダメだぞ」
「アウン(じゃあ、アフダルと狩りしてくるねー)」
「ミアー(僕はネーロと水遊びと、魚獲るー)」
「ピュイー(フォローはお任せください)」
「キキキ!(たくさん獲るよー!)」

 各々が行動を開始したので、タクマはテントとテーブルを取り出し野営の準備を始めた。とはいえまだ食事には早いので、椅子いすに座ってコーヒーをれる。ヴァイスたちの様子を気配察知でしっかりと確認しながらふと思う。

「やはりヴァイスたちは自然が好きなんだよな。子供たちが増えてきたら、町の外に広い土地をもらって、そこでのんびりと暮らすっていうのもいいな。まあ、それをやるためにはいろいろと必要になるけど、何とかなるだろう」

 タクマの周囲を飛んでいたナビがタクマの呟きに応える。

「そうですね。マスターなら、どこでも住む土台を作れますから、それもありですね。子供たちにとっても自然に触れるのは良いことですし」
「今はトラウマを抱えているような子はいないが、今後は出てくるかもしれない。そういう子は、適度に自然と触れ合う必要があるからな。だからといって人と離れすぎるのも良くないし……考えることはたくさんあるな」

 遊び回るヴァイスたちを微笑ましく見ながら、自分と家族の行く末を思うタクマだった。



 7 空腹な出会い


 フォージングを出発したタクマたちは、順調に次の町を目指して進んでいた。
 もっと早く目的地に向かうこともできるのだが、急ぐ必要もなかったので、寄り道をしながらの移動である。
 フォージングから次の町までは、途中に目ぼしい集落がないうえに相当な距離がある。タクマたちは野営をしつつ、景色の良い場所に寄りながら旅していた。
 今タクマたちが野営をしているのは、フォージングから四日ほど移動した場所で、美しい山々に囲まれた渓谷けいこくだ。タクマがテントとテーブルを準備すると、ヴァイスたちは狩りに出掛けていった。残された彼は、せっせと食事の準備をおこなう。

「さて、こんなもんかな?」

 育ち盛りのヴァイスたちのためにたくさんの食事を作った。あまり手のかかるものは作っていないが、ヴァイスたちが満足できるように、スープ、ステーキ、サラダ、フルーツを用意してある。まだ戻ってくる様子はないので、タクマは椅子に座ってひと息ついた。
 のんびりし始めたところで、こちらを窺っているような気配を感じた。

(さて、さっきから離れたところからこっちを見ているが、何か用なのか? 気配に敵意や殺気はないから危険ではないんだろうけど……)
(マスター、とりあえず接触してみたらどうでしょうか?)
(そうしようか)

 ナビに念話で返答してからタクマは立ち上がり、こちらを窺っている気配の真後ろへ空間跳躍を行った。そうして背後から気配のぬしに話しかける。

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