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セカイデ イチバン
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しおりを挟む「ねー! そこの大人の人々っ りぷろだくとってナニ?」
持って帰る酒を箱に戻して紙袋に入れていた理右湖が速人を見ている。
「……productは『製品』とか『産物』とか言う意味だけどreproduction……ではないか」
そこで言い淀んで、テーブルの上に置かれた製品を紹介するカードを見て未練たらしく酒を舐めながら車の鍵を持って出てきた哉を見ている。更には桜と椿が興味津々と言った期待顔でじっと説明を待っている視線を感じて、短い嘆息の後、哉が口を開く。
「re-productは和製英語。権利が切れたデザインでオリジナルとは違うメーカが復刻したりすること。完全に同じ品質、同じ意匠のものから、より使いやすく基本デザインを元に変更したりもする」
「コピーってこと?」
「……コピーというのは著作権や意匠権があるものを違法に複製したりすることで、re-productは合法的なもの。ジェネリック医薬品のgenericと同じような意味として主に復刻家具などに使われている」
椿の質問に哉が淡々と答える。
「へー リプロダクトの方が安いの?」
「そうとは限らない。昔は豊富にあっても今は希少な部品を使うものなら、自ずと価格は相応のものになる。そういう意味でも、re-product製品はcopyとは一線を画す、と言う自負を持って作られている物を指す」
「なんでreproductionじゃなくて勝手に和製英語作るんだ……日本人……」
「似た意味なの?」
グラスを拭く手を完全に止めて、桜がカウンタから身を乗り出す様にして速人に尋ねる。
「んー reproductionは複製とか複写、再生産って言う意味。他にも生殖とか繁殖とかな。なんかこう、会話にカタカナ英語を混ぜたら賢そうに見えるから織り交ぜるヤツが多くてイライラするのは俺だけ?」
「それはわかる。訳に値する日本語があるのなら敢えて使わなくていいような場面でも使うもんね。それはそうと、そろそろ立って、でないとホントに足軽になるわよ。歩いて帰る?」
「えええー ってか、足軽って何。槍持って敵陣に走って行って馬に踏まれて、大将がアップで戦ったあと雨の降る戦場で半分泥に埋まって死んでるくらいのイメージしかないんですけど」
速人がグラスを両手で持ったまま、ズズズっとイスをずらしているが、腰が重いのか中々立ち上がらない。上目遣いで足軽について説明して時間を稼げと哉に催促するが、見事に無視されている。
「あの、お酒、グラスごとそのまま持って帰りますか……? ウチ、二人しかいないし、もし良かったらもう一つ……」
「マジ!? 持って帰っていいのか!?」
「……樹理ちゃん、グラスはまた来たとき使わせてもらうから置いておいて。他に入れ物ない? この際だからペットボトルでもいいわ」
「えーっと。ミネラルウォータのでいいですか?」
「どんなのでも。全く、子供みたいに。そんなに大事な酒なら一滴も零さず移しなさいよ」
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