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前世の記憶は突然に。
何をもって満足とするのか。
しおりを挟む慣れって怖いといったけれど、慣れてしまえばこの生活も別に悪くない。
日の出とともに起きて、女たちは家事、男たちは畑仕事。朝ごはんをみんなで食べて、お父さんとお兄ちゃんたち、最近増えたお弟子さんは仕事に行き、お母さんの家事と畑仕事を残った子供で手伝う。
水路は無事完成し、村の中をきれいな水が流れている。生活用水なので、汚水を流してはいけないのが決まり。
汚水はトイレにためる。水汲みがとても楽になったと、村人にも評判らしい。よかった。
ご飯は相変わらず、小麦粉を水で溶いた団子を入れた芋や豆のスープ、干し肉だったり、時々狩ってきた動物の肉。
味付けは塩とハーブっぽい野草。
でも素材がいいからか、飽きないおいしさなのです。
パンはね、ないよ。パンという文化がここにはない。前世で食べてたパンが酵母でふわふわになるのは知ってる。
でも、パンになる酵母を知らない。ありそうな発酵食品と言えばお酒だけど、この辺境にはお酒も貴重品。家にはない。
誰かの結婚式とかのとき、村長さんからふるまわれるけど一人一杯分くらい。大人のみ。最初から敗北である。
ここに来て思ったけど、よくある転生、転移物の主人公って、元の世界でもかなりのチートなんじゃなかろうか。
みんな多趣味すぎると思う。
私の趣味、旅行と山登りだもんな。冒険者になる系ならテントの張り方とかかまどの作り方とか使えたかもしれないけど、ド田舎ライフのどこにも活用できるチートが見当たらないよ。
塩があるのでうどんならできるのではとチャレンジしてみたけど、ここで使っている小麦は胚芽交じりの粗めの全粒粉。
衛生上、足で踏んでこねるのはちょっと無理なので、頑張って腕でこねたり寝かせたりしてそれらしい生地を作って切ってみたけど、茹でるとちぎれて十センチくらいになってしまうのだ。
長くてつるつるした麺にはできなかった。残念である。
家族は、団子ではなく細いのもいつもと違っていいって言われたけど、水で溶いてスープに落とす団子のほうが、労力的には圧倒的にエコだ。
おかしいな、昔読んだファンタジー転生ものだと大体簡単にできてたのに……
小麦粉にもパンにするのやケーキにするのや色々種類があったような気がする。ここで作る小麦は、うどんに不向きな品種なんだろう。
芋を細く千切りにして水で溶いた小麦粉に入れてなんちゃってチヂミはアリでした。
水溶き小麦粉団子もスープがしみておいしいのです。クレープと呼ぶには微妙なノリ焼きも、おいしいのです。
三年もたてば、腐葉土を作り、灰を撒き、土質改良する方法も村の外まで広まっている。
うちはというと、家族が増えた。畑も増えた。
兄二人が結婚して、お嫁さんが来た。ヤッドには子供が生まれたし、ティッドにも来秋生まれる予定。二人とも、独立して別の家に暮らしている。
ララは村長さんの息子と結婚した。ララ、美人だもんな、お母さんに似て。
え? 結婚早いって? いやいや、このあたりじゃみんな十三~十五くらいで結婚しちゃう。
で、サクっと子供を作っちゃう。だって、寿命が短いから。
五十くらいでみんなガクッと老け込んで、冬の寒さに耐えきれず死んでいく。
前世の五十なんてまだまだ若いうちって感じだったけど、栄養状態も違うし、生活様式が違うからか、六十まで生きてた奇跡級の長生きなのだ。
子供もやっぱり前世に比べるまでもなく大勢なくなってしまう。何とかならないかなと思うものの、こればかりはどうにもならない。せめて、ヤッドの子供には、健やかに大きくなってほしい。切実に。
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