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前世の記憶は突然に。
命を奪うということは。
しおりを挟む「お、おちた?」
「死んでる?」
いつの間にか抱き合うようにしていたメルと私に、その場から動くなとばかりに手で合図して、そろそろと、お兄ちゃんたちが羊に近づく。
棒でつついて、全く動かないことを確認して、二人が歓声を上げて抱き合っている。
「すごいぞ! リリ!! やった! 死んでる!!」
そっと近づいてみると、羊は首があり得ない方向に曲がっているし、四本の足も折れてる感じ。遠目には体が大きかったからか細く見えただけで、その足は私の胴くらいの太さがあった。
巨体が高いところから落ちたためか、結構いろんなところから血が。
それを見て、やっと、自分が生き物を殺してしまったことを実感する。
前世も含めて、お肉はバクバク食べたけど、直接何かを殺すという行為はしたことがなかったから、今更足ががくがく震えてきた。メルがぎゅっと抱きしめてくれる。
「俺たちだけじゃ運べないから、誰か呼んでこよう。大丈夫か? リリ。わかるよ、初めてだもんな。俺も、もっとちっちゃいヤツだったけど、初めて仕留めた時、なんかよくわかんないけど、怖かった」
ぶるぶる震える私に気づいたヤッドが、背負子を降ろして、私をおんぶして村まで帰ってくれた。メルも一緒に。ティッドは羊を見ておくために残った。
村長さんが大きな荷車を出してくれて、それでもはみ出るほどの獲物を、村の男衆が交代で押したり引いたり村まで戻ってきたのは、それから二時間ほど後だった。
さすがに立ち直って、村の広場に持ち込まれた羊を見に行く。ほんとにでかい。
「リリ!! よくやった!! 素晴らしいぞ!!」
お父さんよりちょっと年上の村長さんが、満面の笑みで手を叩いて喜んでいた。
小さい獲物は個人に所有権があるけど、こういうでっかいやつは、村の所有になるらしい。マジか。
いや、こんなのうちだけじゃ食べられないから、みんなでおいしくいただけばいいんだけど。けど!
「そ、村長さん!! おねがいがあります!」
「なんだ?」
「皮!! 毛皮!! もこもこ! ください!!!」
右手を上げた私の叫びに、村長さんが『え?』みたいな顔をした。
「毛皮か? うーむ」
村長さんが、村の顔役たちと何やら相談した後、私のところに来る。
「わかった。リリの初めての獲物だ。毛皮は全部リリにやろう。ただし、次の獲物はリリの魔法で獲ったものだとしても、すべて村のものとし、この毛皮も、村のために使う。いいな?」
ええー いやですと言ったところで、もう決められたことだということはわかったので、承諾する。
あとで知ったけれど、このラームのもこもこの毛皮は、村の一年分の整備費が軽く賄えるくらいの価値があった。
そんなのを、初めての獲物だからとポーンとくれちゃったんだから、実は村長さんはとってもいい人だった。
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