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①
しおりを挟む僕は同学年の魔導士見習いの方でも、大分出来損ないの方だと思う。
魔力量は人並み以下、中級魔法もろくに使えず、覚えられたのは最も簡単な水属性の魔法のみ。二属性以上覚えるなんて夢のまた夢だ。
魔法学園内で『役立たずの出来損ない』といえば、大抵の場合は僕ことランディ・グレンを指す。卒業後は学園外でもその名を轟かすことになることだろう。クソッタレめ。
なんだって火属性魔法の名家なんぞに生まれてしまったのか。僕は魔法より剣の方が余程得意なのだ。
まあ、身長も体格も平均なので、騎士団に入れるかと言うとそれも無理な話だが。剣技や格闘技術とは別の判定で、入団資格に身長制限がある。
そんなんだからお飾りだとかなんだとか言われんだぞ、と思ったが、これは単なる僕の負け惜しみなので気にしないで欲しい。我が国の騎士団は大陸内でも優れた歴史を持つし、魔獣討伐数は随一だ。彼らによって世界の平和が守られていると言っても、まあ過言ではない。
生まれが生まれなら、正資格冒険者になりたかった。そんな甘くはない世界だが、どうせ死ぬにしたって、こんな向いてない場所で嘲りを受けながら死ぬよりはマシだろう。
兄の身体さえ丈夫だったらなあ、と思ったりもしたが、流石にそれは酷な話だ。兄の身体が弱いのは、兄のせいではないのだし。大体、あの人いい人だし。嫌な人の方がまだ良かったかもしれない。
早いところ婿でも嫁でも来てもらわないことには逃げ場がないのだが、役立たずで出来損ないのゴミことランディ・グレンと結婚したがるような阿呆は、少なくとも学園内にはひとりも居やしないのである。
絶対にいない。居たら正気を疑う。多分罰ゲームかなんかだと思う。
僕は確信していた。
「……付き合って欲しい? 僕とですか?」
なので、学年首席の麗しの女神様(男)に告白された時も、至って冷静でいられたのである。
だって罰ゲームだし。
対面に立つのはルネ・サールテク。僕と同じく十七歳の彼は、僕より頭一つ分は上の身長と恵まれた美貌を持つ、天才的な魔導士見習いだ。
その美しさと優れた才、誰にでも分け隔てなく接する非の打ち所がない人格に、入学から半年も経つ頃には『女神様』と呼ばれるようになった男である。
神話の女神とよく似た長く艶やかな銀髪と、紫水晶のような瞳の美しさを見れば、まあ確かに『女神様』と呼んでも差し支えはないだろう。身長にも体格にも恵まれているし、女性的かと言えばそうでもないのだが、妙にしっくり来るのが恐ろしいところだった。
そんな女神様は、少し照れくさそうに微笑みながら、横に流すように一つにまとめた髪の毛先を軽く弄んでいた。
「うん、俺と付き合って欲しい。グレンくんが嫌ではなかったら、だけど」
これで僕がクソカスの役立たずではなかったのなら、『なるほどな、サールテク家はルネの才で爵位を得たような家柄だし、歴史ある貴族との繋がりを持とうという訳だ』と納得出来たのだが、残念ながら僕はクソカスの役立たずである。
五属性を司る高位貴族は他にあと四つもあるし、なんなら名家だけで探せば選び放題だ。僕を選ぶメリットはない。
ふーん。
『女神様』ってこういうことするんだ。
僕の感想としてはそれである。誰にでも分け隔てなく優しい女神様は、優しすぎるが故に同級生の悪ふざけを断り切れなかったに違いない。グレンに罰ゲームで告白してこいよ、どんなキモい返事したか聞かせてね、となったに違いない。
要するに、僕という人間は女神様の『優しくするべき人間』には入っていないということである。
へー。あっそ。
首謀者たちは何処に隠れているのか。気配を探るのは得意な方だが、よほど上手くやっているのか魔道具無しの今は見つけられそうもない。これだから魔法の才能に乏しいと面倒で困る。
特定できない以上、さっさとこのクソみたいなイベントを終わらせた方が早い。
「いいですよ。その代わり僕の言うこと全部聞いてくださいね、恋人に反論されるのムカつくので」
そういう訳で、僕は半ばヤケクソ気味にクソ野郎発言を繰り出した。
元よりこれ以上ない程に地に落ちた評判である、何がどうなろうと構やしなかった。むしろドン引きしてこの悪ふざけをとっとと終わらせてくれたら万々歳だった。
ルネは長い睫毛に縁取られた瞳を二、三度瞬かせて、少し迷ったように口元に手を当ててから、ゆったりと微笑んだ。
「分かった。グレンくんの言うことは全部聞くよ」
綺麗な笑みだった。僕でも見惚れてしまう程には。
そのお綺麗な笑みで、あとで『あの人こんなこと言ってきたよ』なんてお仲間さんたちと笑い合うのだろうか。
落ちこぼれの役立たずを揶揄うのがそんなに楽しいのか。楽しいだろうな。あいつらはいつだってそうだ。遊んでも良い相手を見つけて、憂さ晴らしをすることばかり考えている。
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