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第一章:聖女から冒険者へ

17.ギルドに行く

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 私達は準備を済ませると、ゼロと待ち合わせているギルドへと向かった。
 宿屋を出ると外は青く晴れ渡っていて、今日も南国らしい天候だった。
 街は相変わらず賑わっていて、明るい話声があちらこちらから響いている。
 明日から始まる夜花祭の準備に追われる人達や、各地から集まって来た観光客などで溢れていた。

(いつもに増してすごい人だな……)

 そんなことを考えているが、私自身も明日の夜花祭を楽しみにしていた。

 宿屋からギルドまでは、歩いて五分程度の距離だ。
 中に入ると沢山の冒険者の姿が目に入り、私はゼロの姿を探すように辺りをきょろきょろと見渡していた。

「おーい、こっちだ!」

 私が見つけるより前に、ゼロの方が先に私達に気付いたようで手を振りながら呼んでいた。

「待たせたな」
「俺もついさっき来た所だ。依頼の報告は昨日のうちに済ませておいたから、後は報酬を受け取るだけだな。あと、昨日拾ったあの石は鑑定に出しておいたから後で商業ギルドに寄って行こう」

「色々してくれていたんだな。ありがとう、ゼロ」
「ありがとうっ」

 ゼロはあれからギルドに寄って報告や鑑定の依頼をしてくれていたらしい。
 この街のギルドは、各地から多くの冒険者が集まってくる為いつも混雑している。
 昨日のうちにゼロが色々済ませてくれたおかげで、スムーズに動く事が出来た。

 不意にゼロと目が合うと、彼はニッと笑い「良かったな」と言って私の肩をポンと軽く叩いた。
 私は小さく「ありがとう」と少し照れた様子で答えた。

 ゼロには本当に感謝している。
 彼のおかげで勇気を貰えて、自分の気持ちをちゃんとイザナに伝えることが出来た。
 そのおかげで、やっとイザナと本当の意味で夫婦になることが叶ったのだから。

(本当にゼロのおかげだよ。ありがとう)

「さて、窓口にいこーぜ」
「ああ、そうだな。ルナ、行こう」

 そんな事を考えているとイザナに名前を呼ばれて、私は「うんっ」と明るい声で答えた。
 嬉しいことがあったおかげで、私は朝からすごく気分が良かったのだと思う。
 常に笑顔を振りまいていたような気がする。


「登録証の提示をお願いします」

 窓口に行くと対応しているギルド員にそう言われて、私とゼロは登録証を机の上に出した。

「イザナ、登録証は?」
「いや、今回私は大事なところで参加出来なかったから報酬は二人で分けて」

 私が問いかけるとイザナはそう答えた。
 どうしようかと私が戸惑っていると、傍にいたゼロが「今回はそうしとこう」と答えたので報酬は二人で分けることになった。

「えーと、Fランク冒険者の魔術師ルナさんと、Sランク冒険者の……、Sランク!?」

 ギルド員はゼロの登録証に書かれている情報に驚くと、何度も彼の顔とカードを交互に見返していた。

(あはは、やっぱり驚くよね。ギルド員さん、その気持ち私も分かりますっ!)

 私は思わず納得してしまったが、ゼロは苦笑している様子だった。

「お姉さん、早く!」
「あっ、ごほん。失礼しました。Sランク冒険者のアサシンのゼロさんですね」

 ゼロに急かされギルド員は慌てて確認をした。

「失礼いたしました。お二人の依頼は、ミストの森の遺跡調査ですね! 任務完了の確認は既に取れています。ルナさんはランクが上がりますね! おめでとうございますっ! これよりEランクに昇格されました。次からはEランクと、Dランクの依頼を受けることが可能になります」
「あ、ありがとうございますっ!」

 私は心の中で『やった!』と叫んでいた。
 声を出して喜びを表現するのは、さすがに少し恥ずかしく感じたからだ。
 満面の笑みを見せる私に対して、イザナとゼロも自分の事のように喜んでくれていた。

「ルナ、おめでとう」
「やったな、ルナ!」
「二人共、ありがとうっ!」

「それから依頼されていた物の鑑定が終わっているようです。今回の報酬も合わせて商業ギルドの方で受け取ってくださいね。任務、お疲れ様でした!」

 ギルド員はねぎらいの言葉と共にニコッと微笑むと、小さく頭を下げた。
 こうして私は無事にランクを一つ上げることが出来たのだった。

 一人で冒険をしていた時は気楽で楽しかったけど、気の許せる者達とパーティーを組んでダンジョンを攻略するのは、それ以上に得るものが大きかった。
 信頼し合える相手だから不安は無いし、一緒に喜びを分かち合うことも出来る。
 それに今は聖女ではなく、ただの一冒険者なので責任や過度の期待を持たれる事もない。
 本当に最高のパーティーだと私は心底思っていた。


 ***


 私達は報告を終えると、その足で隣にある商業ギルドへと向かった。
 商業ギルドは主に冒険者が集めて来た戦利品の鑑定と解体を行っている。
 そして戦利品の一部を販売しており、中には珍しいものが並ぶ時もあるらしい。

 それからここには銀行もあるようだ。
 以前イザナから受け取ったカードが、通帳のような役割をしている。
 私は使う機会が無かった為、まだ一度も確認をしたことがなかったが、ここに来ればいつでも自由に引出しが出来るらしい。

「登録証の提示をお願いします」

 窓口に行くと再び登録証の提示を促され、私とゼロは再び机の上にカードを出した。

「まずは鑑定の結果報告からになります。ゼロさんが持ち込まれた素材は大変希少な素材でして、既に購入を希望している方がおられます。大金貨100枚で買い取らせて頂きますが、宜しいでしょうか?」

「まじか」
「…………」

 まさかの金額に私とゼロは固まってしまった。
 ゼロと話し合った結果、持っていても使う機会は無さそうだったので売ることにした。

 この世界の通貨には低い方から小銅貨、銅貨、銀貨、金貨、大金貨、白銀貨の六種類が存在している。
 これは世界共通で流通していて、小銅貨は私の世界で換算するなら恐らく10円。
 銅貨は100円、銀貨は1000円、金貨は1万円、大金貨10万円と言ったところだろう。
 そして白銀貨に関しては高位貴族のみに流通していて、一枚でおよそ100万円の価値があるとか。
 当然私はそんな高価なものは、お目にかかったことなどない。

 一般的な食堂の一食の価格は、大体銅貨三枚から五枚程度だ。
 そう考えると、大金貨100枚がどれだけ大金なのかが分かると思う。
 
「ありがとうございます。それから今回の依頼の報酬額は大金貨10枚になります。ですので合計で大金貨110枚ですね。二人で分配で宜しいですか?」
「ああ、それで頼む」

 二人で分配すると私の取り分は大金貨55枚。
 暫く遊んで暮らせそうな程の大金だ。
 しかも一回の依頼でこんなに稼いでしまうなんて驚きしかなかった。

 高額報酬から想像するに、これは複数のパーティーで集まって攻略するものだったのだろう。
 遺跡内にいたドラゴンを考えると、妥当な金額とも思えてきてしまう。
 普段の私の報酬は一度の依頼で良くて銀貨2枚程度だ。
 あまりにも桁違い過ぎて、金銭感覚がおかしくなってしまいそうだった。

「こちらはカードに入れておきますか? それとも直接お渡ししますか?」
「ルナはどうする? 俺はカードで」
「私もカードで!」

 こんな大金をそのまま持ち歩くなんて怖くて出来ない。
 私は即答すると、バックの中からカードを取り出して机の上に置いた。

「あのっ、いくら入っているか確認って出来ますか?」
「はい。それでは確認させて頂きますね。今回の大金貨55枚と、既に入っている大金貨5000枚で合計5055枚ですね」

「5055枚ですか。……5000? ってなんですか?」

 私は自分の耳を疑った。

(今5000って聞こえたけど、ギルド員さん言い間違えたのかな?)

「元々ルナ様のカードには、5000枚の大金貨が入っておられますよ」

 聞き直してみたが、どうも間違えでは無さそうだ。

「…………」

 私は絶句した。

「ルナ、大丈夫か?」

 固まっている私にイザナは声を掛けてくれた。

「イザナ、私このカード今まで使ったことがないんだけど、金額間違った?」
「間違ってないよ」

 イザナは表情を変えることなく、当然の様にさらりと答えた。
 私は暫くの間放心状態になってしまった。
 貴族にとってはこんな金額普通なのだろうか。
 イザナは王子だし、いつも高そうな部屋に泊まっているくらいだから、こんな金額で驚いたりはしないのだろう。
 しかし私は違う。
 一般人の私には到底理解が追い付かなかった。

(大金貨5055枚。私のいた世界で換算したら5憶……、5億ってなに!?)

「あの、すみません。イザナ様ですよね。少々お話があるのですが、お時間宜しいでしょうか?」
「ああ、構わない。悪いが少し待っていて貰ってもいいかな?」

(どうしたんだろう)

「うん」
「俺達はその辺で待ってるな」

 突然ギルド員の一人からイザナは呼び止められ、それを受け入れると奥の部屋に入って行った。
 私達は彼が戻って来るまで、端にある椅子に腰掛けながら待つことにした。

「イザナに話ってなんだろう」
「多分だけど、国からの連絡じゃないか? それか依頼か」

 私がぽつりと言葉を漏らすと、ゼロは少し考えながらそう答えた。
『国』という言葉を聞くと、私は少し不安を感じてしまう。
 やっと自由になれたのだから、もう私の事はそっとしといて欲しい。
 イザナの事は好きだけど、もうあの王城には戻りたくはなかった。

「ルナ、イザナといい感じになれたんだな。良かったな」
「……っ、う、うん」

 ゼロはニヤニヤしながら私の顔を覗いてきた。
 朝部屋にゼロが来たってイザナが言っていたから、きっと私があの部屋に泊まったことは既に気付いているはずだ。
 あのにやけた顔を見れば、確実にバレているのが分かる。

「俺の言った通りだったろ? イザナはルナにぞっこんなんだよ。ルナもイザナ大好きオーラ出てるし、バレバレだ」
「うっ……」

 はっきりと言われると、急に恥ずかしくなってしまう。

(私、そんなに顔に出てた……? ゼロにバレてるって事は、イザナも最初から私の気持ちには気付いていたの!? ……っ、恥ずかしいよ)

「ルナの所為で俺、宿屋探し大変だったんだからな!」
「……ごめん」

 私が済まなそうに答えると、ゼロは「うそうそ」と慌てて撤回した。

「この時期っていうか、明日から始まる夜花祭の所為で、宿屋はどこもいっぱいで取るのが大変だったってのは事実だけどな。だけど部屋はちゃんと取れたから、ルナは安心してイザナと一緒に泊まってくれ」
「私、イザナと一緒の部屋とか、まだ決めてないよ!」

(毎晩一緒とか無理だよ……)

「そうなのか? だけど多分もう無理だと思うぞ。今からじゃ、どこも埋まって取れないと思うけどな」
「そんなっ……」

「良いじゃん。折角気持ちが通じ合ったんだろ? だったら大人しく愛されとけよ」
「……っ」

 私だってもちろん嬉しい。
 イザナの事は大好きだし、ずっと傍に居たい。
 だけど、近くにいるだけでドキドキしっぱなしなのに、一日中ずっと傍にいるなんて心臓がいくつあっても足りない気がする。

「明日は俺、外してやるから上手く頑張れよ!」
「え? 上手くって何を?」

「決まってるだろ? 夜花祭だよ。折角なんだし、二人っきりでイチャイチャしてきたらいい」
「……っ!!」

 ゼロの気遣いは嬉しいけど、そんなことを言われたら今から緊張してきてしまう。
 それにはっきりイチャイチャとか言われると、なんだか妙に恥ずかしい気持ちになる。

「ルナ、俺の前でそんな顔してどうするんだ?」
「だって、ゼロが突然変なことを言うから」

「ルナは奥手だからな。よし! ここは俺が協力してやるよ」

 ゼロはニヤッと何かを企むような笑いを浮かべた。
 ものすごく嫌な予感がする。
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