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第一章:聖女から冒険者へ
24.夜花祭④
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私達は再び街に出ると、露店を周ったり屋台で何かを食べたりしながらそれなりに夜花祭を満喫していた。
今でも厄介な状態は継続したままではあるが、隣には大好きな人がいて手をずっと握っていてくれている。
いつ元の正常な状態に戻れるのかと考えると不安にはなるけど、隣にイザナがいてくれるから、私は安心感を同時に持つことが出来ているのだろう。
本当に彼が傍にいてくれて良かったと心底感じていた。
「ルナは本当に美味しそうに食べるね」
イザナはクレープを頬張る私を眺めながら微笑ましそうに言った。
「今日はイザナとデートしてるから、いつもよりも美味しく感じるのかも。イザナも食べる?」
私が顔を傾けてイザナの方に視線を向けると、彼は何かに気付いたのか小さく微笑んだ。
そしてゆっくりと顔を近づけて来たかと思えば、私の口端に付いていたクリームをぺろっと舌先で舐めとった。
それは突然で、一瞬の出来事だった。
しかし次の瞬間、私の表情は沸騰するかのように真っ赤に染まっていた。
(なっ、なに!? ここ人前なのにっ!!)
私は慌てるように周囲に視線を巡らせた。
皆思い思いに楽しんでいるようで、私達が注目されることはなかったようだ。
それに気付くと、私は心底ほっとしたように息を深く漏らした。
(良かった……。一瞬のことだったし、見られてないみたい)
もしかしたら誰かに気付かれていたのかもしれないけど、私はそう思い込むようにした。
そして隣を並んで歩いている彼の方に、チラッと視線を向けた。
最近のイザナは人目を気にしないで私に触り過ぎな気がする。
嫌ではないけど、恥ずかしいから少しは周りの目も気にして欲しいものだ。
(王太子じゃなくなったから、周りの目を気にするのをやめたのかな。でも、それだと私が困ることにっ)
私が考え事をしながら彼に目を向けていると、不意に視線が合いドキッと心臓が飛び跳ねる。
イザナは私と視線が絡むと、小さく笑顔を見せた。
「ルナは甘いものを食べている時、良く顔が緩んでいるよね。あれ? 照れているの? 顔が真っ赤だよ」
「……っ、イザナのせいだよっ! ただでさえドキドキして大変なのに。急にこんなことされたら、もうイザナの事しか考えられなくなっちゃう……」
(わあああっ!! そんなこと言わないでっ!! 恥ずかしくて死にそう……)
私は自分の発言に更に顔を赤く染め、心の中で盛大に叫んでいた。
これはなにかの拷問なのだろうか。
今日の私はこの現象のせいで激しく表情を変えてばかりで、端から見たらかなり変な人間に思われているのかも知れない。
(ゼロ、……後で絶対に文句言うっ!!)
「ルナは本当に可愛いことばかり言うね。だけど、私としてはそうなって欲しいかな。いつだってルナを独占したいからね」
彼は顔をこちらに傾けて答えると、どこか満足そうに微笑んでいた。
冗談ぽくも聞こえたけど、彼の真意は私には良く分からない。
こんな風に恥ずかしい台詞ばかり言うようになったのは、本当につい最近になってからだ。
慣れてないこともあり、私はその対応に毎回戸惑ってばかりいる。
「本当に? じゃあ、これからは私のことをいっぱい考えて欲しいな。私もイザナに負けないくらい、いっぱい思うから。私達ってきっと相思相愛だねっ!」
「相思相愛か……。その言葉に負けないように、これからはもっと素直な気持ちを伝えていこうかな。今までルナには寂しい思いばかりさせてしまったからね」
「それは私も一緒だよ。そこまで言ってくれるのなら……。私、もっともっとイザナを独占したい。イザナは一生私だけのものだよ! もうティアラさんと二人で会わないで。強引に迫られたら、逃げちゃえばいいじゃん。無視するとか、方法は幾らでもあるのだし」
「そうだね。ごめん……。ルナのことが一番大切なはずなのに、私は不安にさせてばかりいるな」
私がティアラの名前を出すと、イザナの表情が僅かに曇った。
今の言葉は私の意思では無く勝手に出て来てしまったものだが、彼を困らせている様な気がして私の表情は戸惑ったものへと変わっていく。
「ティアラの事は後で話すよ。今はルナと楽しいデートをしているのだから、この話はやめようか。だけど、これだけは信じて欲しい。私が心から愛しいと思っているは、昔も今もルナだけだよ」
「私、イザナの気持ちを疑っているわけじゃないよ。私の方こそ、なんかごめん。何度も愛して貰ってるし、大丈夫だよっ」
(……っ!! こんな場所で愛して貰っているなんて言わないでっ!!)
再び私は心の中で盛大に叫んでいた。
以前の私なら、ティアラとの関係を疑っていただろう。
しかし、今は違う。
彼はちゃんと私の事を見ていてくれるし、話も聞いてくれて、傍にもいてくれる。
手の届く距離にいて、いつも私のことを見守ってくれているのだから。
だからこそ、私はイザナのことを前よりも信じられるようになったのだと思っている。
ティアラの事を突き放せない理由は、なんとなく想像が付く。
彼は優しいから、これ以上彼女の事を傷付けたくはないのだろう。
だけど、イザナ自身もこのままにはしておけないと思うし、きっと近いうちに決着を付けるはずだ。
私は彼の事を信じようと決めたので、イザナの判断に従おうと思っている。
そして、私の心の声が漏れてしまう現象はその後も暫く続いた。
症状が切れたのは、それから数時間後のことだった。
***
辺りは一段と薄暗くなり、真っ赤に染まった夕日が夜の闇に飲み込まれようとしていた。
私達は一通り街を見て回った後、宿屋に戻って来た。
泊っている部屋のバルコニーからは海が一望出来るため、混雑した場所で見るよりもゆったりと眺めることが出来そうだ。
そして何より、今日は一日中街を歩き回っていたせいで疲れていたこともあり、夜になるまで少し休憩をとりたかった。
あんなことがあったせいで、私は完全に気疲れしてしまったようだ。
「ルナ、疲れた顔をしているように見えるけど大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ」
(本当は全然大丈夫なんかじゃない。あんなに恥ずかしい事を言いまくったせいで、どんな顔を見せたらいいのか分からないよ……)
私達はソファーに並ぶようにして座り寛いでいた。
しかし私の心はちっとも寛げてはいない。
私の口元からは溜息ばかりが漏れ、イザナは心配そうに私の顔を覗き込んできた。
「ルナの溜息、これで10回目だ」
「か、数えてたの……?」
私が慌ててて顔を上げると、彼は「嘘だよ」と言って笑っていた。
「え、嘘って……、酷いっ!」
「ルナがこっちを中々見てくれないからね」
彼にそう言われて私はハッとし再び視線を逸らそうとすると、大きな掌が頬に伸びてきて包むように触れられる。
「そうやってルナはすぐに目を逸らそうとする。そんなに恥ずかしい?」
「……っ」
(分かっているのなら聞かないでっ)
私がその言葉に困って目を泳がせていると、そのまま唇を奪われた。
「相変わらずルナは分かりやすい反応をするね。顔を見ればすぐに分かるから、私に嘘は通用しないよ」
「そんなことっ……んっ!」
私が喋ろうとすると彼は目を細め、まるで言葉を封じるかのように再び唇を塞がれる。
「素直なルナも可愛かったけど、照れて素直になれないルナも私は大好きなんだよ」
「……っ……」
イザナの言葉に私の頬は真っ赤に染まり、何も答えられないでいると再び唇が重なった。
そして私の薄く開いた唇の合間から、熱を持ったイザナの舌先が滑り込んできた。
「やっぱり、ルナの唇は甘いな」
「んんっ、はぁっ……」
口の中の温度が一気に上がり、顔が更に火照っていくのが分かる。
私は目を閉じて彼のキスに答えようとしていると、不意に外から歓声が響き渡った。
そしてゆっくりと唇が剥がされていく。
「どうやら始まったみたいだね。残念だけど、続きは後にして見に行こうか」
「……うん」
キスが中途半端で終わってしまい、私が残念そうな顔をしていると彼は困ったように笑った。
そして「後で沢山してあげるから、そんなに寂しそうな顔はしないで」と囁かれ、逆に恥ずかしくなってしまう。
イザナはそんな私を眺めながら「可愛いな」と小さく呟いていた。
彼に手を引かれてバルコニーに出ると、私は思わず目を見開いた。
海が蒼く光っていたからだ。
波が来る度に蒼白く変化し、とても幻想的な景色がそこには広がっている。
(すごい……!)
私はその光景に圧倒されて、口を閉じるのも忘れてしまう程見入ってしまった。
そしてこの光景は一生忘れないだろう。
それくらい綺麗だった。
今でも厄介な状態は継続したままではあるが、隣には大好きな人がいて手をずっと握っていてくれている。
いつ元の正常な状態に戻れるのかと考えると不安にはなるけど、隣にイザナがいてくれるから、私は安心感を同時に持つことが出来ているのだろう。
本当に彼が傍にいてくれて良かったと心底感じていた。
「ルナは本当に美味しそうに食べるね」
イザナはクレープを頬張る私を眺めながら微笑ましそうに言った。
「今日はイザナとデートしてるから、いつもよりも美味しく感じるのかも。イザナも食べる?」
私が顔を傾けてイザナの方に視線を向けると、彼は何かに気付いたのか小さく微笑んだ。
そしてゆっくりと顔を近づけて来たかと思えば、私の口端に付いていたクリームをぺろっと舌先で舐めとった。
それは突然で、一瞬の出来事だった。
しかし次の瞬間、私の表情は沸騰するかのように真っ赤に染まっていた。
(なっ、なに!? ここ人前なのにっ!!)
私は慌てるように周囲に視線を巡らせた。
皆思い思いに楽しんでいるようで、私達が注目されることはなかったようだ。
それに気付くと、私は心底ほっとしたように息を深く漏らした。
(良かった……。一瞬のことだったし、見られてないみたい)
もしかしたら誰かに気付かれていたのかもしれないけど、私はそう思い込むようにした。
そして隣を並んで歩いている彼の方に、チラッと視線を向けた。
最近のイザナは人目を気にしないで私に触り過ぎな気がする。
嫌ではないけど、恥ずかしいから少しは周りの目も気にして欲しいものだ。
(王太子じゃなくなったから、周りの目を気にするのをやめたのかな。でも、それだと私が困ることにっ)
私が考え事をしながら彼に目を向けていると、不意に視線が合いドキッと心臓が飛び跳ねる。
イザナは私と視線が絡むと、小さく笑顔を見せた。
「ルナは甘いものを食べている時、良く顔が緩んでいるよね。あれ? 照れているの? 顔が真っ赤だよ」
「……っ、イザナのせいだよっ! ただでさえドキドキして大変なのに。急にこんなことされたら、もうイザナの事しか考えられなくなっちゃう……」
(わあああっ!! そんなこと言わないでっ!! 恥ずかしくて死にそう……)
私は自分の発言に更に顔を赤く染め、心の中で盛大に叫んでいた。
これはなにかの拷問なのだろうか。
今日の私はこの現象のせいで激しく表情を変えてばかりで、端から見たらかなり変な人間に思われているのかも知れない。
(ゼロ、……後で絶対に文句言うっ!!)
「ルナは本当に可愛いことばかり言うね。だけど、私としてはそうなって欲しいかな。いつだってルナを独占したいからね」
彼は顔をこちらに傾けて答えると、どこか満足そうに微笑んでいた。
冗談ぽくも聞こえたけど、彼の真意は私には良く分からない。
こんな風に恥ずかしい台詞ばかり言うようになったのは、本当につい最近になってからだ。
慣れてないこともあり、私はその対応に毎回戸惑ってばかりいる。
「本当に? じゃあ、これからは私のことをいっぱい考えて欲しいな。私もイザナに負けないくらい、いっぱい思うから。私達ってきっと相思相愛だねっ!」
「相思相愛か……。その言葉に負けないように、これからはもっと素直な気持ちを伝えていこうかな。今までルナには寂しい思いばかりさせてしまったからね」
「それは私も一緒だよ。そこまで言ってくれるのなら……。私、もっともっとイザナを独占したい。イザナは一生私だけのものだよ! もうティアラさんと二人で会わないで。強引に迫られたら、逃げちゃえばいいじゃん。無視するとか、方法は幾らでもあるのだし」
「そうだね。ごめん……。ルナのことが一番大切なはずなのに、私は不安にさせてばかりいるな」
私がティアラの名前を出すと、イザナの表情が僅かに曇った。
今の言葉は私の意思では無く勝手に出て来てしまったものだが、彼を困らせている様な気がして私の表情は戸惑ったものへと変わっていく。
「ティアラの事は後で話すよ。今はルナと楽しいデートをしているのだから、この話はやめようか。だけど、これだけは信じて欲しい。私が心から愛しいと思っているは、昔も今もルナだけだよ」
「私、イザナの気持ちを疑っているわけじゃないよ。私の方こそ、なんかごめん。何度も愛して貰ってるし、大丈夫だよっ」
(……っ!! こんな場所で愛して貰っているなんて言わないでっ!!)
再び私は心の中で盛大に叫んでいた。
以前の私なら、ティアラとの関係を疑っていただろう。
しかし、今は違う。
彼はちゃんと私の事を見ていてくれるし、話も聞いてくれて、傍にもいてくれる。
手の届く距離にいて、いつも私のことを見守ってくれているのだから。
だからこそ、私はイザナのことを前よりも信じられるようになったのだと思っている。
ティアラの事を突き放せない理由は、なんとなく想像が付く。
彼は優しいから、これ以上彼女の事を傷付けたくはないのだろう。
だけど、イザナ自身もこのままにはしておけないと思うし、きっと近いうちに決着を付けるはずだ。
私は彼の事を信じようと決めたので、イザナの判断に従おうと思っている。
そして、私の心の声が漏れてしまう現象はその後も暫く続いた。
症状が切れたのは、それから数時間後のことだった。
***
辺りは一段と薄暗くなり、真っ赤に染まった夕日が夜の闇に飲み込まれようとしていた。
私達は一通り街を見て回った後、宿屋に戻って来た。
泊っている部屋のバルコニーからは海が一望出来るため、混雑した場所で見るよりもゆったりと眺めることが出来そうだ。
そして何より、今日は一日中街を歩き回っていたせいで疲れていたこともあり、夜になるまで少し休憩をとりたかった。
あんなことがあったせいで、私は完全に気疲れしてしまったようだ。
「ルナ、疲れた顔をしているように見えるけど大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ」
(本当は全然大丈夫なんかじゃない。あんなに恥ずかしい事を言いまくったせいで、どんな顔を見せたらいいのか分からないよ……)
私達はソファーに並ぶようにして座り寛いでいた。
しかし私の心はちっとも寛げてはいない。
私の口元からは溜息ばかりが漏れ、イザナは心配そうに私の顔を覗き込んできた。
「ルナの溜息、これで10回目だ」
「か、数えてたの……?」
私が慌ててて顔を上げると、彼は「嘘だよ」と言って笑っていた。
「え、嘘って……、酷いっ!」
「ルナがこっちを中々見てくれないからね」
彼にそう言われて私はハッとし再び視線を逸らそうとすると、大きな掌が頬に伸びてきて包むように触れられる。
「そうやってルナはすぐに目を逸らそうとする。そんなに恥ずかしい?」
「……っ」
(分かっているのなら聞かないでっ)
私がその言葉に困って目を泳がせていると、そのまま唇を奪われた。
「相変わらずルナは分かりやすい反応をするね。顔を見ればすぐに分かるから、私に嘘は通用しないよ」
「そんなことっ……んっ!」
私が喋ろうとすると彼は目を細め、まるで言葉を封じるかのように再び唇を塞がれる。
「素直なルナも可愛かったけど、照れて素直になれないルナも私は大好きなんだよ」
「……っ……」
イザナの言葉に私の頬は真っ赤に染まり、何も答えられないでいると再び唇が重なった。
そして私の薄く開いた唇の合間から、熱を持ったイザナの舌先が滑り込んできた。
「やっぱり、ルナの唇は甘いな」
「んんっ、はぁっ……」
口の中の温度が一気に上がり、顔が更に火照っていくのが分かる。
私は目を閉じて彼のキスに答えようとしていると、不意に外から歓声が響き渡った。
そしてゆっくりと唇が剥がされていく。
「どうやら始まったみたいだね。残念だけど、続きは後にして見に行こうか」
「……うん」
キスが中途半端で終わってしまい、私が残念そうな顔をしていると彼は困ったように笑った。
そして「後で沢山してあげるから、そんなに寂しそうな顔はしないで」と囁かれ、逆に恥ずかしくなってしまう。
イザナはそんな私を眺めながら「可愛いな」と小さく呟いていた。
彼に手を引かれてバルコニーに出ると、私は思わず目を見開いた。
海が蒼く光っていたからだ。
波が来る度に蒼白く変化し、とても幻想的な景色がそこには広がっている。
(すごい……!)
私はその光景に圧倒されて、口を閉じるのも忘れてしまう程見入ってしまった。
そしてこの光景は一生忘れないだろう。
それくらい綺麗だった。
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