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3.嘘
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私は夢でもみているのだろうか。
今まで慕っていた兄にベッドで押し倒されて、告白のような言葉を聞かされて。
それに、彼の唇が私の耳に触れて、執拗に愛撫を繰り返している。
これが現実に起きていることだなんて、信じられない。
「んぅっ……」
「なに? ああ、フィーは今、口が聞けなかったね」
私がくぐもった声を上げると、彼は口の中に押し込めていた指を漸く抜いてくれた。
「はぁっ……、はぁっ……」
体の火照りと息苦しさから、私は荒い呼吸を繰り返していた。
私が口元を揺らしていると、ルシエルの顔が直ぐ傍まで降りてくる。
彼の瞳は真っ直ぐに私のことを捉え、大きな掌が頬に添えられた。
その温もりを感じると様々な思いが押し寄せてきて、再び私はドキドキしてしまう。
(これは、夢じゃない、よね……)
「本当に可愛いね、フィーは。少し耳をいじめただけなのに、もうこんなに顔を真っ赤に染めて。その小さく震えている唇も奪ってしまいたくなるな」
「……っ!」
彼の指先が私の唇に触れると、輪郭を撫でるように滑っていく。
その感覚にぞくぞくしてしまい、唇の震えは収まらない。
「フィー、約束して。婚約者は作らないと」
「本気、ですか……?」
私は戸惑った瞳を揺らしながら、小さく問いかける。
先程のルシエルの素振りを見ている限り、自惚れかも知れないけど、私に気があるようにしか思えない。
私は幼い頃から、常に傍にいてくれる優しい兄が大好きだった。勿論、今もその気持ちは変わっていない。
婚約者を作るのを躊躇っていたのは、彼から離れたくないというのが一番の理由だ。
決して抱いてはいけない感情であることは分かっている。
だけど私は、兄であるルシエルのことがずっと好きだった。
(お兄様も、私と同じ気持ちでいてくれたってこと……?)
そうだとしたら、すごく嬉しい。
私の鼓動は期待と興奮から、さらに加速していく。
「本気だよ。僕はずっと前からフィーしか見ていないからね。それにフィーだって同じ気持ちだろう?」
「え?」
彼の言葉に私はハッとする。
「気付いていないとでも思っていた?」
「え、えっと……」
私は戸惑いから視線を泳がせてしまう。
すると、上からクスクスと楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
「残念だけど、ばればれ」
「……っ、いつからですか」
私はかなり動揺していたため、認めるような発言を口にしてしまう。
「フィーはいつも僕といると嬉しそうな顔を浮かべていたし、くっついて来ていたからね。最初は兄としてそうしてくれているのかなとは思っていた。でも時折、顔を赤らめているのを見て、もしかして……って思ったんだ」
「わ、私、そんなこと、いつの間に……」
私があたふたしていると、ルシエルは声は弾ませて「ふふっ、もしかして、自覚なかった?」と聞いてきたので私は頷く。
「フィーの気持ちに確信が持てるまでは、僕もこの感情を表に出すつもりはなかったんだ。だけど、ここに来てフィーの婚約話が持ち上がって、さすがに黙っていられなかった。焦っていたんだよ」
ルシエルは表情を僅かに歪ませ「フィーを奪われるのが怖かった」と呟いた。
その表情は本物にしか見えず、私は戸惑いながら見つめることしか出来ない。
(うそ……。お兄様も私と同じ気持ちだったの? じゃあ、私達って最初から両思いだったってこと……?)
そんな風に考えてしまうと、戸惑いの他に嬉しさが込み上げてきてしまう。
しかしそんな表情を出すわけにも行かず、私は顔を強ばらせてそれを必死に抑えていた。
「フィーの気持ちを聞かせて。もうバレているから、嘘を付く必要なんてないよ。素直な本当の気持ちが聞きたい」
「……っ、私は……」
彼に真直ぐに瞳の中を見つめられて、鼓動がますます速くなる。
本当に自分の気持ちをこの場で伝えてしまって良いのだろうかと悩む反面、ありのままの思いを告げてしまいたいという感情が同時に現れる。
(どうしよう……)
私が困惑して瞳を揺らしていると、ルシエルは困った様に小さく笑った。
「少し急かしすぎたかな」
ルシエルは少しすまなそうに呟くと、息がかかる程の距離にまで顔を近づける。
私は時間が止まったような感覚すら覚えてしまう。
この場には私とルシエルの二人しかいない、そんな錯覚すら感じたくらいだ。
「僕はフィーのことが大好きだよ。妹としてもそうだし、女性としても愛したいと思っている」
「……っ」
彼の声は揺るぎないもので、冗談を言っている時とは表情も全然違う。
私のことをだけを捉え、その瞳は『絶対に逃がさない』と言っているように鋭く感じるほどだ。
その姿を見ていたら、今まで抑えてきた感情が溢れてきて口に出さずにはいられなくなる。
『私も、お兄様が好き』
そう、言ってしまいたかったが、直前でハッと我に返り口を噤んだ。
(私、今何を言おうとしていたの……?)
ここで私が本当の気持ちを口にしてしまえば、何もかもが壊れていってしまいそうな気がした。
ルシエルのことは大好きだけど、今まで本当の子のように愛してくれた両親を悲しませたくはない。
どう考えても、ルシエルと結ばれることは許してもらえないと感じたからだ。
本当は好きで仕方がないのに、この思いを口に出せないのは辛い。
だけど、それ以上にこの家族を不幸にさせることだけは絶対にしたくはなかった。
「私は、お兄様のことは好きです。それは妹として慕っているからで、それ以上でもそれ以下でもありませんっ!」
今ならまだ引き返せる気がして、私は嘘を付く。
他に良い方法が思い浮かばなかったから。
今まで慕っていた兄にベッドで押し倒されて、告白のような言葉を聞かされて。
それに、彼の唇が私の耳に触れて、執拗に愛撫を繰り返している。
これが現実に起きていることだなんて、信じられない。
「んぅっ……」
「なに? ああ、フィーは今、口が聞けなかったね」
私がくぐもった声を上げると、彼は口の中に押し込めていた指を漸く抜いてくれた。
「はぁっ……、はぁっ……」
体の火照りと息苦しさから、私は荒い呼吸を繰り返していた。
私が口元を揺らしていると、ルシエルの顔が直ぐ傍まで降りてくる。
彼の瞳は真っ直ぐに私のことを捉え、大きな掌が頬に添えられた。
その温もりを感じると様々な思いが押し寄せてきて、再び私はドキドキしてしまう。
(これは、夢じゃない、よね……)
「本当に可愛いね、フィーは。少し耳をいじめただけなのに、もうこんなに顔を真っ赤に染めて。その小さく震えている唇も奪ってしまいたくなるな」
「……っ!」
彼の指先が私の唇に触れると、輪郭を撫でるように滑っていく。
その感覚にぞくぞくしてしまい、唇の震えは収まらない。
「フィー、約束して。婚約者は作らないと」
「本気、ですか……?」
私は戸惑った瞳を揺らしながら、小さく問いかける。
先程のルシエルの素振りを見ている限り、自惚れかも知れないけど、私に気があるようにしか思えない。
私は幼い頃から、常に傍にいてくれる優しい兄が大好きだった。勿論、今もその気持ちは変わっていない。
婚約者を作るのを躊躇っていたのは、彼から離れたくないというのが一番の理由だ。
決して抱いてはいけない感情であることは分かっている。
だけど私は、兄であるルシエルのことがずっと好きだった。
(お兄様も、私と同じ気持ちでいてくれたってこと……?)
そうだとしたら、すごく嬉しい。
私の鼓動は期待と興奮から、さらに加速していく。
「本気だよ。僕はずっと前からフィーしか見ていないからね。それにフィーだって同じ気持ちだろう?」
「え?」
彼の言葉に私はハッとする。
「気付いていないとでも思っていた?」
「え、えっと……」
私は戸惑いから視線を泳がせてしまう。
すると、上からクスクスと楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
「残念だけど、ばればれ」
「……っ、いつからですか」
私はかなり動揺していたため、認めるような発言を口にしてしまう。
「フィーはいつも僕といると嬉しそうな顔を浮かべていたし、くっついて来ていたからね。最初は兄としてそうしてくれているのかなとは思っていた。でも時折、顔を赤らめているのを見て、もしかして……って思ったんだ」
「わ、私、そんなこと、いつの間に……」
私があたふたしていると、ルシエルは声は弾ませて「ふふっ、もしかして、自覚なかった?」と聞いてきたので私は頷く。
「フィーの気持ちに確信が持てるまでは、僕もこの感情を表に出すつもりはなかったんだ。だけど、ここに来てフィーの婚約話が持ち上がって、さすがに黙っていられなかった。焦っていたんだよ」
ルシエルは表情を僅かに歪ませ「フィーを奪われるのが怖かった」と呟いた。
その表情は本物にしか見えず、私は戸惑いながら見つめることしか出来ない。
(うそ……。お兄様も私と同じ気持ちだったの? じゃあ、私達って最初から両思いだったってこと……?)
そんな風に考えてしまうと、戸惑いの他に嬉しさが込み上げてきてしまう。
しかしそんな表情を出すわけにも行かず、私は顔を強ばらせてそれを必死に抑えていた。
「フィーの気持ちを聞かせて。もうバレているから、嘘を付く必要なんてないよ。素直な本当の気持ちが聞きたい」
「……っ、私は……」
彼に真直ぐに瞳の中を見つめられて、鼓動がますます速くなる。
本当に自分の気持ちをこの場で伝えてしまって良いのだろうかと悩む反面、ありのままの思いを告げてしまいたいという感情が同時に現れる。
(どうしよう……)
私が困惑して瞳を揺らしていると、ルシエルは困った様に小さく笑った。
「少し急かしすぎたかな」
ルシエルは少しすまなそうに呟くと、息がかかる程の距離にまで顔を近づける。
私は時間が止まったような感覚すら覚えてしまう。
この場には私とルシエルの二人しかいない、そんな錯覚すら感じたくらいだ。
「僕はフィーのことが大好きだよ。妹としてもそうだし、女性としても愛したいと思っている」
「……っ」
彼の声は揺るぎないもので、冗談を言っている時とは表情も全然違う。
私のことをだけを捉え、その瞳は『絶対に逃がさない』と言っているように鋭く感じるほどだ。
その姿を見ていたら、今まで抑えてきた感情が溢れてきて口に出さずにはいられなくなる。
『私も、お兄様が好き』
そう、言ってしまいたかったが、直前でハッと我に返り口を噤んだ。
(私、今何を言おうとしていたの……?)
ここで私が本当の気持ちを口にしてしまえば、何もかもが壊れていってしまいそうな気がした。
ルシエルのことは大好きだけど、今まで本当の子のように愛してくれた両親を悲しませたくはない。
どう考えても、ルシエルと結ばれることは許してもらえないと感じたからだ。
本当は好きで仕方がないのに、この思いを口に出せないのは辛い。
だけど、それ以上にこの家族を不幸にさせることだけは絶対にしたくはなかった。
「私は、お兄様のことは好きです。それは妹として慕っているからで、それ以上でもそれ以下でもありませんっ!」
今ならまだ引き返せる気がして、私は嘘を付く。
他に良い方法が思い浮かばなかったから。
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