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第二章:私の心を掻き乱さないでくださいっ!
54.公爵令嬢
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「は、はじめまして……、イルメラ様」
私が戸惑いがちに答えると、イルメラはじっと私のことを見つめていた。
その間、私の頭の中では色々な考えがぐるぐると巡り、次第に不安になっていく。
(あ……、思わず名前で呼んじゃった。皆がイルメラ様って呼んでいたから、つい。相手は公爵家の方なのに、どうしよう!)
「あ、あの、申し訳ありませんっ」
「え?どうして謝るの?」
私がおどおどしながら勢い良く頭を下げて謝ると、不思議そうに問いかける声が頭上から聞こえてきて、恐る恐る顔を上げた。
「勝手に名前で呼んでしまうなんて、失礼でしたよね」
「構わないわよ。皆もそう呼んでいるのだし。わたくしもフェリシアさんと呼んで、よろしいかしら?」
「は、はいっ。是非、そう呼んでください」
「それではこれからはフェリシアさんと呼ばせていただくわね」
イルメラの顔からは僅かな笑みが零れていて、怒っている様子は窺えない。
その姿を見て、私は内心ほっとしていた。
(良かった。怒っていないみたい)
「あなたはイリアさん、だったわよね」
「はい」
「二人とも、あの非道な、……ごほん。王女殿下の被害者よね」
「「…………」」
イルメラはミレーユの話を始めると、不機嫌そうに顔を顰める。
その表情の変化を見ているだけでも、嫌っているのがはっきりと伝わってくる。
イルメラもミレーユの被害者で間違いなさそうだ。
「フェリシアさん、そのことで少しお話があるのだけど。宜しいかしら?そちらのイリアさんもご一緒で構わないわ」
そうイルメラから言われ、私はイリアの方に視線を向けた。
突然のことでイリアも困惑した表情を浮かべている。
私は「どうする?」という顔を彼女に向けた。
「そんなに深く考えないで。これは自衛する為でもあるの。あの王女殿下のことだから、簡単に引き下がるとは到底思えない」
「たしかに……」
私はイルメラの言葉に苦笑いを浮かべた。
今はまだ塔の中に閉じ込められているようだが、いつ表に出てくるか分からない。
ロジェと婚約する話がある以上、近い時期に必ずそうなるはずだ。
「わかりました」
私が小さく答えると、イルメラは表情を緩めて微笑んだ。
公爵令嬢であるため少し身構えてしまったが、案外イルメラは話しやすい人間なのかもしれない。
「ありがとう、フェリシアさん。今、一番辛いのは貴女なのに」
「いえ、もうロジェ……元婚約者のことは気にしていないので大丈夫です。お気遣い感謝いたします」
「そう。フェリシアさんは強い方なのね」
「そんなことはありませんっ!力になってくれた方がいて。その人のおかげで……」
その人というのはエルネストなのだが、イルメラの前で彼の名前を出すことは出来なかった。
イルメラはきっとエルネストのことを慕っている。
そんな気がしたから。
「フェリシアさんにとって、その方は特別な方なのね」
「え……」
イルメラの言葉にドキッと心臓が飛び跳ねる。
今の彼女の表情は柔らかく微笑んでいて、その相手がエルネストだとは気付いていないのだろう。
もし私が彼の名前を出してしまったら、どんな表情に変わるのか考えると怖くなってしまう。
「今日の放課後、三人で作戦会議をしない?お互いの持っている情報を集めて、今後の対策を考えるの」
「今日、ですか?」
イルメラは乗り気になっている様子で、話をどんどん進めていく。
ミレーユの脅威はまだ感じているし、公爵令嬢であるイルメラと協力関係になれたら、不安も今よりは拭えるはずだろう。
しかし今日の放課後はエルネストと会う約束がある。
「あの、ごめんなさい。今日はちょっと……」
「あら、何かご予定が?」
私は言いずらそうに、小声で呟いた。
正直に話す勇気はないので、理由を聞かれたらどうしようと内心かなりビクビクとしていた。
「……はい」
「まあ、それは残念ね」
「イルメラ様、申し訳ありません。私も今日は予定が入っていて」
どうやらイリアにも予定があるようだ。
私だけではなかったのだと思うと、妙に安心して強ばっていた肩の力がすっと抜けていった。
(イリアも予定があったんだ。良かった……)
「さすがに今日は急過ぎよね。わたくしの方こそごめんなさい。それなら明後日はいかがかしら?」
「明後日なら大丈夫ですが、学園はお休みですよね?」
「そうね。折角だから私の屋敷に招待するわ。その方が周りの目も気にせず話が出来そうだし。イリアさんはどうかしら?」
「私も、多分大丈夫だと思います」
ミレーユは仮にも王族だ。
周りに聞かれると困る内容が含まれていそうだし、イルメラの屋敷で話した方が安全と言えるだろう。
ただ余りにも唐突な展開に、私は戸惑いを隠しきれなかった。
「それでは決まりね。明日、楽しみにしているわ」
イルメラは満足そうな顔で答えると、自分の席へと戻っていった。
私とイリアはイルメラがいなくなった後、顔を合わせてお互い渋い顔を浮かべていた。
(びっくりした……)
「なんか面倒なことになったわね」
「……あ、はは」
イルメラがどういう人物かはあまり良く知らない。
今の姿だけ見ると良さそうな印象を受けるが、噂で聞いていたものと大分イメージが違っている。
「イルメラ様と王女殿下の不仲説は本当な気がするし、仲間に引き入れておくのは悪くない話なのかも。公爵家なら王家との繋がりも深いものだと思うし、いざとなったら上手く動いてくれるかもしれない」
「たしかに」
イリアが言うとおり、イルメラと協力関係を結べば、私達に取ってはいいことの方が多い気がしてきた。
今は大人しくしているようだが、何もしてこないという保証はどこにもない。
私達にとってはミレーユの存在自体が脅威になっている。
私の表情は先程から曇ったままだった。
そんな私に気付きイリアは「大丈夫?」と声をかけてくれた。
「もしかして、エルネスト殿下のこと気にしてる?」
「……っ!!」
「ふふ、フェリシアって本当に分かりやすいね。たしかに二人がそういう関係になってしまったら、厄介なことになりそうだけど、そうなれば殿下が守ってくれるんじゃない?イルメラ様からも、王女殿下からも、ね」
「私達そういう関係じゃっ……」
私が慌てるように答えると、イリアは「本当に?」と疑いの目を向けてきた。
やっぱり私達の関係を疑っているようだ。
「今から話すことは友達としての忠告、とでも思って聞き流しておいて」
「え?」
「権力を持っている人間を簡単に信じたらだめ。ああいう人達は惑わせるのが上手いから。フェリシアみたいに簡単に人を信じてしまう人間は、特に狙われやすい。痛い目をみたくないのなら、警戒することを怠らない方が良いわ。それが最終的には自衛にも繋がるのだし」
「どういう、こと?」
それは誰のことを言っているのだろうか。
イルメラのことだろうか、それともエルネスト?
今の話に困惑し、私は怪訝そうな表情を浮かべていた。
「ごめんね、不安にさせちゃった?だけど頭の片隅にでも入れておいて」
「……分かました」
今の私は腑に落ちないような表情をしているのかもしれない。
何を思ってイリアはこんな発言をしているのか、その真意は私には良く分からなかった。
だけどその時のイリアの表情は、どこか悲しそうに見えた。
私ではない、何か別なものを遠くに見ているかのように。
私が戸惑いがちに答えると、イルメラはじっと私のことを見つめていた。
その間、私の頭の中では色々な考えがぐるぐると巡り、次第に不安になっていく。
(あ……、思わず名前で呼んじゃった。皆がイルメラ様って呼んでいたから、つい。相手は公爵家の方なのに、どうしよう!)
「あ、あの、申し訳ありませんっ」
「え?どうして謝るの?」
私がおどおどしながら勢い良く頭を下げて謝ると、不思議そうに問いかける声が頭上から聞こえてきて、恐る恐る顔を上げた。
「勝手に名前で呼んでしまうなんて、失礼でしたよね」
「構わないわよ。皆もそう呼んでいるのだし。わたくしもフェリシアさんと呼んで、よろしいかしら?」
「は、はいっ。是非、そう呼んでください」
「それではこれからはフェリシアさんと呼ばせていただくわね」
イルメラの顔からは僅かな笑みが零れていて、怒っている様子は窺えない。
その姿を見て、私は内心ほっとしていた。
(良かった。怒っていないみたい)
「あなたはイリアさん、だったわよね」
「はい」
「二人とも、あの非道な、……ごほん。王女殿下の被害者よね」
「「…………」」
イルメラはミレーユの話を始めると、不機嫌そうに顔を顰める。
その表情の変化を見ているだけでも、嫌っているのがはっきりと伝わってくる。
イルメラもミレーユの被害者で間違いなさそうだ。
「フェリシアさん、そのことで少しお話があるのだけど。宜しいかしら?そちらのイリアさんもご一緒で構わないわ」
そうイルメラから言われ、私はイリアの方に視線を向けた。
突然のことでイリアも困惑した表情を浮かべている。
私は「どうする?」という顔を彼女に向けた。
「そんなに深く考えないで。これは自衛する為でもあるの。あの王女殿下のことだから、簡単に引き下がるとは到底思えない」
「たしかに……」
私はイルメラの言葉に苦笑いを浮かべた。
今はまだ塔の中に閉じ込められているようだが、いつ表に出てくるか分からない。
ロジェと婚約する話がある以上、近い時期に必ずそうなるはずだ。
「わかりました」
私が小さく答えると、イルメラは表情を緩めて微笑んだ。
公爵令嬢であるため少し身構えてしまったが、案外イルメラは話しやすい人間なのかもしれない。
「ありがとう、フェリシアさん。今、一番辛いのは貴女なのに」
「いえ、もうロジェ……元婚約者のことは気にしていないので大丈夫です。お気遣い感謝いたします」
「そう。フェリシアさんは強い方なのね」
「そんなことはありませんっ!力になってくれた方がいて。その人のおかげで……」
その人というのはエルネストなのだが、イルメラの前で彼の名前を出すことは出来なかった。
イルメラはきっとエルネストのことを慕っている。
そんな気がしたから。
「フェリシアさんにとって、その方は特別な方なのね」
「え……」
イルメラの言葉にドキッと心臓が飛び跳ねる。
今の彼女の表情は柔らかく微笑んでいて、その相手がエルネストだとは気付いていないのだろう。
もし私が彼の名前を出してしまったら、どんな表情に変わるのか考えると怖くなってしまう。
「今日の放課後、三人で作戦会議をしない?お互いの持っている情報を集めて、今後の対策を考えるの」
「今日、ですか?」
イルメラは乗り気になっている様子で、話をどんどん進めていく。
ミレーユの脅威はまだ感じているし、公爵令嬢であるイルメラと協力関係になれたら、不安も今よりは拭えるはずだろう。
しかし今日の放課後はエルネストと会う約束がある。
「あの、ごめんなさい。今日はちょっと……」
「あら、何かご予定が?」
私は言いずらそうに、小声で呟いた。
正直に話す勇気はないので、理由を聞かれたらどうしようと内心かなりビクビクとしていた。
「……はい」
「まあ、それは残念ね」
「イルメラ様、申し訳ありません。私も今日は予定が入っていて」
どうやらイリアにも予定があるようだ。
私だけではなかったのだと思うと、妙に安心して強ばっていた肩の力がすっと抜けていった。
(イリアも予定があったんだ。良かった……)
「さすがに今日は急過ぎよね。わたくしの方こそごめんなさい。それなら明後日はいかがかしら?」
「明後日なら大丈夫ですが、学園はお休みですよね?」
「そうね。折角だから私の屋敷に招待するわ。その方が周りの目も気にせず話が出来そうだし。イリアさんはどうかしら?」
「私も、多分大丈夫だと思います」
ミレーユは仮にも王族だ。
周りに聞かれると困る内容が含まれていそうだし、イルメラの屋敷で話した方が安全と言えるだろう。
ただ余りにも唐突な展開に、私は戸惑いを隠しきれなかった。
「それでは決まりね。明日、楽しみにしているわ」
イルメラは満足そうな顔で答えると、自分の席へと戻っていった。
私とイリアはイルメラがいなくなった後、顔を合わせてお互い渋い顔を浮かべていた。
(びっくりした……)
「なんか面倒なことになったわね」
「……あ、はは」
イルメラがどういう人物かはあまり良く知らない。
今の姿だけ見ると良さそうな印象を受けるが、噂で聞いていたものと大分イメージが違っている。
「イルメラ様と王女殿下の不仲説は本当な気がするし、仲間に引き入れておくのは悪くない話なのかも。公爵家なら王家との繋がりも深いものだと思うし、いざとなったら上手く動いてくれるかもしれない」
「たしかに」
イリアが言うとおり、イルメラと協力関係を結べば、私達に取ってはいいことの方が多い気がしてきた。
今は大人しくしているようだが、何もしてこないという保証はどこにもない。
私達にとってはミレーユの存在自体が脅威になっている。
私の表情は先程から曇ったままだった。
そんな私に気付きイリアは「大丈夫?」と声をかけてくれた。
「もしかして、エルネスト殿下のこと気にしてる?」
「……っ!!」
「ふふ、フェリシアって本当に分かりやすいね。たしかに二人がそういう関係になってしまったら、厄介なことになりそうだけど、そうなれば殿下が守ってくれるんじゃない?イルメラ様からも、王女殿下からも、ね」
「私達そういう関係じゃっ……」
私が慌てるように答えると、イリアは「本当に?」と疑いの目を向けてきた。
やっぱり私達の関係を疑っているようだ。
「今から話すことは友達としての忠告、とでも思って聞き流しておいて」
「え?」
「権力を持っている人間を簡単に信じたらだめ。ああいう人達は惑わせるのが上手いから。フェリシアみたいに簡単に人を信じてしまう人間は、特に狙われやすい。痛い目をみたくないのなら、警戒することを怠らない方が良いわ。それが最終的には自衛にも繋がるのだし」
「どういう、こと?」
それは誰のことを言っているのだろうか。
イルメラのことだろうか、それともエルネスト?
今の話に困惑し、私は怪訝そうな表情を浮かべていた。
「ごめんね、不安にさせちゃった?だけど頭の片隅にでも入れておいて」
「……分かました」
今の私は腑に落ちないような表情をしているのかもしれない。
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