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3章
幻影よ、こんにちは 3
しおりを挟むガラガラガラガラッ! ……ゴトンッ!
猛スピードで走り続けていた馬車が、ついに止まった。
「殿下! 魔物が現れましたっ」
先頭を走っていた馬車に乗っていた兵が、大声で空を指さし叫んだ。
「なんだありゃあ……。こんな大きい魔物、見たことがない……!」
「これが……幻影だと!?」
「もしこんなのでかいやつの攻撃を、まともに食らったら……」
怯えを多分に含んだ兵たちのざわめきが聞こえてくる。
「皆の者! 十分に距離を取れっ。近づき過ぎるな! 遠隔攻撃で少しずつ力を削るんだっ」
リンドの指示に、兵たちが馬車からわらわらと降り立ちそれぞれの配置につく。
その間も、大気を震わせるようなとんでもない咆哮が響き渡っていた。
グギュアァァァァァッ!
「幻影とは言え、攻撃力は本物とさして変わらないっ。防御に徹してやつの動きをできるだけ封じるんだ!」
「はっ!」
目の前にそびえ立つ、魔物の大きな体。全身が黒い鱗に覆われたそれは、怒りに燃えた赤い目をぎらつかせながらゆっくりと兵たちをにらみつけた。
グワオオオオォォォォォンッ!
「シェイラ! 君はできるだけ魔物の視界に入らないよう、遠くから聖力を放ってくれっ。君に万が一のことがあればそれこそ大打撃だからな!」
「はいっ! もっちーズちゃんたちっ、ここは私ひとりで大丈夫だから皆は兵たちの防御に回って!」
もっちーズたちはもとがパン種でできているせいか、魔物の攻撃が効かない。どうやらどんな攻撃も力を吸収してしまうらしいのだ。となれば兵たちを守る壁にもなれるはずだ。
「にんっ!」
「ぬんっ!」
「みゅんっ!」
実に勇ましい足取りでもっちーズちゃんたちが馬車を下り兵たちの方へと向かっていくのを見届け、さっそく猛然とパンこねを再開した。
こねこねこねこね……。
ポスンッ! ペチンッ!
こねこねこねこね、こねこねこねこね……。
ベチンッ! バチンッ!
パンをこねる毎に新たに生まれるもっちーズたちが、次々と魔物からの攻撃から兵たちを守るべく走っていく。
力いっぱい全力で聖力を放っているせいか、生まれるもっちーズたちの数も半端ない。
けれど、いくらもっちーズちゃんたちが魔物の攻撃に耐性があるとは言っても何せ体があまりにも小さすぎる。なにしろ相手は見上げるほどの巨体なのだ。となれば、魔物からすればありんこほどにしか見えないだろう。
グガオオォォォォォォンッ‼
目の前をうろちょろとするもっちーズちゃんたちが目障りなのか、魔物が棘のついた長い尻尾を大きく振り回しなぎ倒そうとした。
「もっちーズちゃんっ! 逃げてっ!」
思わず叫んでいた。
いくら力を吸収するとは言っても風圧などの影響をまったく受けないわけじゃない。むしろ体が小さい分、そうしたダメージには滅法弱いはず。
となればいくらもっちーズちゃんたちとは言え、魔物の攻撃にやられてしまうかもしれない。
けれど目の前に、おかしな光景が広がっていた。
「えっ⁉ もっちーズちゃん……!? これは……!」
ずらりと居並ぶもっちーズたちの様子がおかしい。なぜか皆力を溜めるように力いっぱい踏ん張っている。
「何……してるの……?」
逃げるでも怯えるでもなく、もっちーズたちは一堂に集まり同じ体勢でぐぐぐっと足を踏ん張ったまま動かない。兵たちも皆何をするつもりなのかとけげんそうな表情でもっちーズたちを見つめていた。
けれどこのままでは魔物にやられてしまう。
咄嗟にもっちーズたちのもとにかけ出そうとした、その時だった。
「お、おい……! 何か変だぞっ!?」
「もっちーズたちが……積み上がっていく!?」
「これは……一体!?」
兵たちのざわめきをよそに、もっちーズたちがまるで組体操のように積み重なり、みるみる大きな一塊に変身していく。
「ふみーっ‼」
「ぬあーっ‼」
「ぬぬんっ‼」
「みうーっ‼」
一体、また一体ともっちーズたちはうず高く積み上がり、ついには魔物に匹敵するだけの大きさに合体したのだった。
「え!? ええええっ……!?」
突然とんでもない姿へと進化したもっちーズたちを、呆然と馬車の中から見やった。
その大きな真っ白な後ろ姿の雄々しさといったらない。「ぬぬぬぬぬぬぬーんっ!」という辺り一帯に響き渡る雄叫びも、なんとも力強い。
これがまさかついさっきまで小さな体で奮闘していたもっちーズちゃんたちと同じものだなんて、到底思えない。
あんぐりと口を開いたまま、もっちーズを見やっていたのは自分だけではなかった。リンドも、兵たちも当然のことながら、突如目の前で起きた進化に言葉を失っていた。
「もっちーズちゃんたちがまさか合体するなんて……!? すごい進化だわっ! もっちーズちゃんたち、すごいっ!」
突如誕生した巨大なもっちーズが、ゆらりと魔物の前に立ちはだかる。魔物の目はすでに目の前に現れたその不思議な姿に釘付けだった。
もっちーズは見た目は相変わらずどこか緊張感に欠けるかわいらしさを漂わせているのだが、そのもっちりとした重そうな体はなんとも迫力満点だった。その迫力に、幻影も圧されているのだろう。
「ぬああああああんっ!」
新生もっちーズの魔物を威圧する声が、一帯に響き渡った。
大地をビリビリと震わせるその奇妙な――、いや力強い声に、魔物の動きが止まった。
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