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グレンの様子1

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「グレンの様子がおかしいの」

久しぶりに遊びに来た親友であるアリエッティが開口一番に口にしたのが、それだった。

「あの人はいつもおかしい人でしょ」

久しぶりに元婚約者の名前を聞いたが、何の気持ちも湧き上がってこない。というか名前を聞いただけで、気が重くなった。

「そうなのだけど、ノアもおかしいと心配してたし、私も家に行ったとき様子を見たのだけど明らかに変なの」

アリエッティがきっぱりと私を見ながら言ったが、すぐに不安そうに並べられた豪華なお菓子や、お茶の用意をしてくれたグラリンを緊張した面持ちで何度も見ていた。

あ、そうだった、とお茶を飲みながら思い出した。

「この方は、グラリン様、と言って公爵子息が無理やり置いていった私の護衛なの。あとこのお菓子も、公爵子息が勝手に置いていったから好きなだけ食べてよ」

「酷い言い方だな。だが、否定は出来ないな。主様の命令とは言え、スティール様の了解は得てないからな。あと、その菓子や、茶葉については主様からスティール様のご機嫌を損なう事ないように、と幾らでも用意するように言われている」

グラリン様が肩を竦めながらも楽しそうに答えてくれた。

「ご機嫌なんて、いつも損なうことしかされてないわよ」

正式な騎士の服装では無く軽装だが、着ているシャツの左腕にヴェルディ公爵家の紋章が刺繍されているし、腰に剣をさしているから気になるのは仕方がないだろう。

「ねえ」

とても真剣な顔して、前に座っていたアリエッティが私の横に来た。

「な、何?」

「ま、まさか、公爵子息と婚約をするの!?」

がっと私の両肩を掴んだかと思えば、そんな恐ろしい事を真面目に聞いてきた。

「し、しないわよ!!する訳ないでしょ」

「だって、護衛までついてこんな豪華なお菓子とか準備して貰ってるのよ!大切にされてるという事でしょ!?」

「だから違うって。ともかく落ち着いてよ。ほら、お茶飲んで」

はい、と渡すと冷めていたから一気に飲み干した。

「ふう、確かに美味しい」

「どう?落ち着いた?」

「うん。本当に婚約しないのね」

「そんなに念を押さなくてもしないってば。グラリン様も説明してあげてよ」

「そうですね、私から説明しましょう。スティール様にとっては、私は勝手に置いていかれた護衛、程度ですからね」

にこやかに微笑みながらお茶のおかわりをいれてくれた。

「その通り」

「正直な所、公爵家だけでなくいわゆる上級貴族には護衛はつきものです。政治的にも、金銭的にも襲撃される事が多々あります。その反面、誤解をまねく言い方になるかもしれませんが、ニルギス子爵家キャーディ男爵家につきましては、政治的にも金銭的にも表立った立場も無い為護衛が必要なかったのです」

「その通り」

「大丈夫よ、そんな申し訳なさそうな顔しないでいいよ」

内容が内容だけにとても気遣うように私を見たが、笑って流した。

だって本当に気にしてないもの。

「ありがとうございます。今回、物資事業にニルギス子爵様と令嬢が関わってしまった。その為当主であるニルギス子爵様が領地外に出向き、長期間屋敷を開ける事となりました。これは非常事態でございます。ですから、殿下と主が話し合いをした結果、私をスティール様の護衛という名で屋敷の留まれば、狼藉を働くものがいない、ということです」

「だから、わざわざヴェルディ公爵家の家紋を入りの服を着ているのね」

「その通り、です。これを見て手を出す馬鹿はいないでしょう。ちなみに、屋敷の周りにも何人か騎士団が見張ってますよ」

「マジ!?」

「マジ、です。当たり前でしょ?これで本当に何かあれば、殿下も主も貴族や民に顔向けできません。使うだけ使って、捨て駒のように捨てた、と言われますよ」

淡々というグラリン様に、物資事業という人助けの裏で、陰湿な貴族争いや政治争いなんかがあるんだろうな、感じた。

そう思うくらい瞳が剣呑な光を見せていた。                                      
ガルマン侯爵様の提案を受け入れなくてよかった。変に目をつけられて嫌がらせされたら大変だ。ここは素直に、今回の謝礼はがっぽり現金でもらうようにお父様に提案しよう。そのほうが後腐れない。

「ともかく、私がスティール様の護衛をしているのは主様の婚約者として、ではなく、ニルギス子爵家を護るため、ということです。それとお二人が婚約するのなら大騒ぎになってますよ。身分が違いすぎますからね」

「なあんだ良かったぁ。だよね。もし、そうなら会えなくなっちゃうと不安になったもん」

「ある訳ないでしょ。まず公爵子息の顔見た?あの顔が私の好みなわけないでしょ?ほら、食べて食べて。せっかくタダで高価なお菓子やお茶が飲めるんだよ。今度いつ食べられるかわかんないよ」

私がクッキーを一つ食べたらアリエッティも安心した様にクッキーを食べだした。


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