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本編
588 トウジの心持ちと変な声
しおりを挟むアドラーの目的は、ダンジョンを用いた資源管理の様な物。
俺が呼ばれた理由は、そのダンジョンとの交渉。
いったいどこで知られたのか、どこから漏れたのか。
奴は俺の行動域を粗方言い当てていた。
監視下に置かれていたとするならば、あの時洗い出したはず。
なのに、ロイ様を用いた検索にも全てひっからなかったのだ。
あ、ちなみに自我崩壊させてしまったアホはまだうちにいるぞ。
カリプソに送り返そうかとも思ったのだが、レベル高いし使える。
どっかの国に配属して、直属の密偵扱いにしようと思っていた。
全員を賄うことはできないが、一人くらいならば子飼いにしていい。
それも信用できるという一点において、洗脳染みた状態は好都合。
人でなし、と言われるかもしれないが……。
ふはは、それが世の中だバーカ。
俺は勇者でもなんでもない一般人なんだから許される。
変な宗教にも入ってないしな!
さて、話が脱線してしまったが、もっと厄介なのがいる。
そもそもデプリの魔法陣と魔国の魔法陣。
二つを掛け合わせてハイブリットタイプにすること。
複数の国が絡んでいる様な、力添えをした様な。
そんなところだろうと判断した。
ギリスにいる大切な人たちを守るためには、力を貸すことが一番だ。
「それにしても」
なんともふかふかなベッドに一人で転がって天井を見上げる。
いつもと違う、ポチもジュノーも、マクラス2号もいない。
「──寂しいな」
三十路にして人恋しくなるなんて、もう歳かな?
異世界に来て親のことを思い出し。
みんなと離れて、今までそばにいてくれたみんなを思い出す。
人生、いつだって終わってから気づくもんだと痛感した。
考える、予測する。
歴史に学ぶ。
事前にできることはたくさんあるんだが、やはり。
やはり人間とは、常々後悔する生き物である。
こういう危険な目に遭わせたくないから……。
やっぱり……。
「……」
コトが全て済むまでみんなと距離をとったほうが良い気がした。
面倒ごとから逃れているだけじゃ、いつまでたっても変わらん。
変わらんのだ。
一緒にどこまでも付き合ってくれると言っていたイグニール。
その言葉は大変ありがたくも感じたのだが、荷が重いだろう。
起動自体が複数の人が魔力を全力で出し合い起動する召喚魔法。
じゃあ今から召喚しますと言ってできるものではない。
だが、どこまで逃げても結局こうして、こうして付きまとってくる。
もし、やばい状況で俺だけ離脱してしまったら?
ダンジョンの深部にいて、俺だけこの状況になってしまったら?
一緒について来るであろうイグニールやジュノーは置いてけぼりだ。
「それは不味いな」
彼女ならば生き残れるとは思うが、不安だ。
俺は、彼女に死んでほしくないと、そばにいて欲しいと。
心の底から思っている……気がする。
イグニールがどうかは知らんがな。
「そのためには、一つ区切りをつけるべきだな、こりゃ」
やることは、勇者御一行にお帰りいただくこと。
その上で、もう二度と来れない様にその技術を消す。
魔王を呼ぶ召喚魔法陣も同じだ。
そこまでやってこその、俺にとっての平和が訪れる。
そんでもって。
全てが終わってから……終わってから……。
「俺は彼女に………………」
──貴様は全てが終わってから何を為す?
「……あ?」
なんか声が聞こえて来た。
ベッドから体を起こして左右を確認する。
うん、何もない。
窓の外には月が見えて、クロイツの城下町。
改めて知ったが、この城は丘の上にあるらしい。
どこの城も高いところが好きだな。
高さとは、権威の象徴でもあるのだろうか。
「で、なんだ今の声?」
……しーん。
聞こえなくなった。
だが、なんとなく予測はつくぞ。
混沌たる魔王の力の源さんだろ、これ。
ま、いいかで終わらせるほど俺は甘くない。
もっとも……。
色んな状況を置いてけぼりにしてここにいるがな!
「とりあえず、終わった後に何をするかだって?」
……。
「普通に生活するだけに決まってるだろ、アホか死ね」
──アホではなく、死なない。
答えが返って来たぞ!
この声の持ち主は、煽り耐性ゼロと見た。
「そもそも何かを為すために呼ばれたとか、そんなのもエゴだろ」
役目とやらは、全て勇者に丸投げしているが……。
別に勇者だって何かを為す必要なんてない。
それをすれば帰れる、とかハッピーな頭だからやってるだけ。
「被害者だぞ、こっちは」
勇者召喚なんぞ拉致以外の何物でもない。
そして高校生に使命持たせて、アホか。
「そんなクソ野郎どもの言い成りにも手先にもならんぞ」
正直言って、教団とかいう連中もいけ好かんしな。
──我の力を存分に使い、この世に破滅をもたらすがいい。
「いや、話し聞いてた? 嫌なんですけど」
──たかだか勇者ごときが、その力を使いこなせるとは思うことなかれ。
「俺に言うなよ……」
力もらってないから、そもそも。
カオスアビリティは、もともとプレイヤー強化要素。
名前がぽいってだけで、魔王の力とは無関係なのだ。
「あ、そうだ。今のうちに手持ちのお金で厳選しよっと」
アドラーの話が気になって、自分の新しい要素を忘れていた。
せっかく一つ解放可能なんだから、ゴッド等級で揃えなきゃね!
──おい、聞け。
「ってことで、さっそく解放100万ケテル」
白金貨一枚は重たいコストだが、良いの来てくれ。
こればっかりは運が作用するが、引きが良いときはいいんだよな、俺。
【カオスアビリティ】
・ゴッド/ジャンプ力+1000%
・Lv120より解放
・Lv140より解放
「早速ゴッド来たんず」
──おい。
「ジャンプ力+1000%ってなんだよ……こんなもんゲームにあったっけな……?」
一発で引き当ててしまったジャンプ力10倍アビリティ。
ゲーム内ではジャンプ力なんて最高150%くらいだったんだが……。
異世界改変がこのアビリティにもかかっていると見ていいだろう。
「えっと、今の俺のステータスだと……」
確か本気を出せば結構なジャンプができたはず。
ステータスによって強化された脚力から、力ずくで10メートルくらい垂直跳びできる。
あんまりこう言う部分を見せることはサモンモンスたちのおかげないが、実はそこそこ。
俺だって駆けっこだったらアンカー任されるレベルにはなっていたってこったな。
──聞け。
「どーすっかなー、変えて他の等級引いたらもったいないなー……」
──……。
「ま、しばらくこれで遊ぶか」
カオスアビリティなんて、三つ揃ってからが本番だ。
決めた、俺はしばらくハイジャンプおじさんになる。
──おい聞け。
インベントリでしまっちゃうおじさん。
ダンジョンで超しまっちゃうおじさん。
吸着の靴でくっつき虫おじさん。
潮流の靴であめんぼおじさん。
このゴッドジャンプでハイジャンプおじさん。
──話を聞けおじさん。
「着々とおっさん要素が増えて言ってるな……よし寝よっと」
──……クソ死ね。
「口悪っ……」
それから変な声が諦めた様に聞こえなくなった。
俺と同じ様に勇者にも囁いてるのかな?
影響されやすいタイプかもしれないから、なんだか面倒ごとになりそう。
はあ……あとでキングさんにでも、声の正体を聞いておこうか……。
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