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本編
685 今の〈新緑の風〉は、2
しおりを挟むそれから、イグニールとポチ、ジュノーを連れてエリーサの家へと向かった。
大所帯で行くのも迷惑かと思ったので、残りは船に残している。
生活空間的には魔導機器のものが全て揃った船内部の方が宿より充実していた。
さて、でかい飛空船がどこにあるのかと言えば……。
空に浮かべて、ジュニアのドアで下に繋いでいるのだ。
俺の持つダンジョン・コアを使おうと思ったのだが、ジュニアで十分である。
本当に便利だよ、ダンジョンコア。
もう生活必需品となってしまっている、ジュノーがいないとダメな体だ。
「……ここか」
木造2階建てのアパートメント、それがエリーサから指定された場所である。
外観とドアの数からして、家族持ち向けのなかなか広いタイプのものだった。
「とても広くて良い部屋そうな外観ね」
「そうだな」
ただ、一つ疑問に思ったのは、暮らしているのはエリーサだけではないということ。
解散してもなお、あの頃と一緒のようにパーティー単位で暮らしているのだろうか。
同居に関して、俺も一つのアパートにみんなで過ごしているから何も言えないな。
──コンコン。
ドアにつけられたノッカーを鳴らすと、奥からエリーサの声が響いて来た。
「はいはーい。いらっしゃい、トウジ」
「お邪魔します」
そのまま中に招かれると、夕食を作っていたようで良い匂いが鼻をくすぐる。
夕食までお世話になってしまうことを考えると、なんだか申し訳ないな。
後でお金を払っておくべきか迷うのだが、それはそれで失礼というもの。
何か別の贈り物を、あの時助けてもらったお礼だということで渡すことにした。
「お久しぶりです、トウジさん」
「久しぶりだ」
「わあ、本当に来てたんだ? 荷物持ちさん」
案内されてリビングへ向かうと、テーブルを囲むソファや椅子にみんなが座っていた。
アレス、クラソン、フーリ。
みんな、装備ではなく普通の服を身につけている。
「みなさん、お久しぶりです」
この再会は、なんとも泣きそうになってしまう程、懐かしかった。
「トウジたちは、こっちに座ってて? もう少しで料理できるから」
「手伝いますよ」
「アォン」
「いやいや、お客さんにそんなことさせるわけにはいかないわよ~」
ポチも手伝いをしようと挙手するのだが、お客さんだからってことで断られた。
ここはご厚意にあずかって、ポチを膝の上に乗せてソファーに座る。
イグニールもジュノーを肩に乗せて俺の隣に。
「あれ?」
そこで気がついた。
ソファーに座るアレスの両手、ブランケットに包まれた小さな存在。
クラソンの隣に座るフーリのお腹が、少し大きくなっていることに。
「赤ちゃん……?」
「ああ、紹介が遅れました。僕とエリーサの子供で名前はエレン」
「えっ」
まさか子供ができていたなんて、と思いながら固まっていると。
「フフフ、荷物持ちさん、驚いて固まってるね? クラソン」
「この表情を見るのも久しぶりだな」
俺の様子を見ながらフーリとクラソンが笑う。
彼らに続いてアレスが説明してくれる。
「ちなみに、フーリももう直ぐ出産予定です。父はクラソン」
「えっ」
フーリも!?
それに父親がクラソン!?
「驚いてばかりですけど、エリーサから聞いてなかったんですか?」
「ええ、まあ……」
「ちょっと驚かせたくて、解散したってことしか言ってなかったの」
「ダメじゃないかエリーサ。しっかり説明しないと混乱させてしまう」
「ごめんごめん。でも、良い顔見れたでしょ?」
「ハハ、そうだね。トウジさんの驚く顔が見れて、良かったよ」
どうやら、彼らが冒険者を辞めた理由は、子供ができたからだった。
冒険者をやめるとともにパーティーも解散となったようである。
だが、解散後もこのアパートの隣同士となって、交流は続けられているようだ。
「いつのまに……」
そろそろ異世界に来て一年近く経とうとしてるから、タイミング的には問題ないのか。
それにしても、子供を産んで直ぐに働き始めているとは……母強し。
「なんだか忙しい時にお邪魔してしまっても良かったんですか?」
赤子がいて、もう一人は身重。
そんな中でお持て成しさせてしまうのは、気がひける。
「良いのよ。好きでやってるんだから。ね?」
「はい。トウジさんにはお世話になりましたし、お返しさせてください」
「いや、そんな……お世話になったのは俺の方です」
そこで俺は改めて、あの時助けてもらったお礼を述べることにした。
伝えておくのは今しかない、と思ったから。
「あの時、王都脱出を手伝ってもらえて、本当に助かりました」
彼らがいなかったら、俺は自由に過ごせていたかわからない。
俺と関わったことで、誰かに目をつけられていたらどうしようか。
そんな漠然とした不安もあったのだけど……。
子供を抱えるアレスとエリーサ。
大きくなったお腹を優しく撫でるフーリと隣のクラソン。
彼らの表情を見ると、なんだかホッと胸をなでおろす俺がいた。
幸せそうで良かった。
「……とりあえず、募る話はご飯を食べながらでもしましょうよ」
「そうですね。トウジさん、緊張せずにどうぞくつろいでください」
=====
トウジの理想のパーティー像が子供を作っていた。
これがひと押しに繋がるか……。
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