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本編

741 取り返しのつかないことに

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 もはや死に体となりながらも、キモキバくんことロブリーは言う。

「テメェの能力は、俺の目を通してグリード様とビシャスが見てる」

「ふーん……で?」

 ダンジョンコアが作り出したガーディアンの目を利用できることなんて、知ってんだ。
 それを今更聞かされて「えっ、見てるだと!?」って言って欲しかったのか?

「で、だと? 貴様のスライムキングの強さ、しかと俺が記憶したんだぜえ?」

 口が減らない奴だな、一応やっておくか。

「なにー! 見てるだとー! ああーっ! しまったー!」

「……プルァ」

 頭を抱えてゴロゴロ転がって見せると、キングさんがゴミを見る目になっていた。

「ゴホン、で……マジでそれがどうした?」

 転がったまま咳払いを一つして、倒れたロブリーと同じ目線になりながら言う。

「見てるんなら、この際言っておくけど……俺は勇者とは無関係だぞ、ビシャス」

 あくまで巻き込まれた異世界人であり、勇者とは無縁の人物だ。
 まったく本当に勇者にご熱心だよなビシャス。
 だが、お前はお前で勝手に自分の物語を進めてろって話だ。

 俺を巻き込むな。
 それでもお前が巻き込むってんなら、相応の覚悟を決めておけ。

「キングさんと一緒にお前の顔面ボコボコにしに行くぞ?」

 ダンジョン攻略。
 リソース合戦。
 俺のもっとも得意とする分野だからな、それ。

「伝えろキモキバくん、敵対するなら容赦しないってな」

 カルマの限りを尽くしてでもお前を倒しに行く。
 この世界の魔物という魔物を借り尽くし。
 資源という資源を根こそぎ手中に収めるくらい準備するのだ。

 なんなら、封じているダンジョンを使った無限レベル上げ。
 無限ドロップアイテム稼ぎを使用したって良い。

 あんまり周りと違い過ぎるのもあれだと思って、俺はレベル上げを急いでない。
 だが、決戦だというならできる限りの時間で最大限の準備をする。

 ネトゲ廃人で。
 装備の火力バカで。
 効率厨で、理論厨。

 正直、ギリギリいっぱいだった今までとは違い。
 潤沢を超える潤沢。
 まさに無限大とも言える資源が俺にあり、足りないのは時間だけだ。

「おいキモキバくん、そっちの声は聞こえないのか?」

「はあ? 命令すんなうぜえ」

「なんとかしろ。ビシャスじゃなくてお前の主人のグリードの意見でも良い」

「黙れ」

「うん、それ無理。雑魚のくせに立場わきまえようね」

 にっこり微笑み、こいつの目の向こう側にいるダンジョンコアに告げる。

「グリードってのさあ、強欲だから色々奪う能力持ってんだよねえ?」

 だったら、一個だけ奪えてないものがあるんだよなあ。

「昔の聖女、お前が何かを奪おうとしたんだろ? 奪えてないぞ~?」

 骨が骨になったのは、砂漠を歩いている時だったそうだ。
 砂漠に飲まれた人間が白骨化するのは、まあわからんでもない。
 どっちかと言えば、ミイラになりそうだが……。

 しかし、骨状態になりながらも生きながらえるなんて、ありえない。
 昔の、戦乱時の聖女レベルであればそもそも砂漠で死なないだろう。

 その辺を考えてみれば、上位存在によって与えられた呪いみたいな。
 そんな感じのものを俺は想定していた。
 ウィンストが怨嗟の鎖に束縛され、不死身になっていたように。
 何かしらの運命が、骨を、ビスマルコを縛り付けているのだ。

「お前が奪ったのか? 聖女から、なんかを」

「……ッ!」

 キモキバくんの目つきが変わった。
 なんとも目の奥底で何かが俺に牙を剥き叫んでいるような、そんな感覚。

「さてはグリード、お前巨乳フェチか?」

「テメェ、主をあんまバカにしてんじゃねえよ……! おい!」

「その反応は肯定とみなします! ははっ、まさに強欲じゃん! あははは!」

「テメェエエエエエエ!」

「キモキバくんが何か言ったとて」

 ぷーくすくすと笑いながら、俺はさらに煽った。

「向こうの声が聞こえんから俺はグリード巨乳フェチだって覚えとくからね?」

 勝ち逃げ理論である。
 いや、言い逃げか。

「撤回しろ! 撤回しろやテメェ!」

「違うと言っても、もう俺の中ではそうなんだよ。俺の中ではな?」

「くそが! くそがくそがくそが!」

 体はもうキングさんの一撃でボロボロ。
 口しか動かせないキモキバくんはひとしきり俺を罵倒していた。

 効かんぞ、敵の罵倒なんか。
 社会の底辺で生きてきた俺が晒されていたのは、言い知れぬ重圧。
 冷たい視線、心無い言葉。

 なんの力も持ってないと。
 その重圧に耐えるためには心に毛が生えるレベルじゃないといけない。

 しかし今は圧倒的強者!
 何を言われても負け犬の遠吠えにしか聞こえん。
 ノーダメだ、ノーダメ。

「……あ? そうだあ」

 何かに気づいたように、キモキバくんがニヤついた。
 まだ何かあるのか、そろそろ面倒なんだけど。
 向こう側からのメッセージがあるなら聞いておこう。

「サービスで言っておくことまだあったんだわあ?」

「ん?」

「お前、俺に噛み付かれてたよなあ?」

 セブンスを助けた時か。
 若干痛かったけど、別に平気である。
 ダメージも少ないし。

「俺は一人につき一個だけ奪う権利をグリード様からもらってんだあ」

「で?」

「その時なんだったっけなあ……あのマセガキの何を奪おうとしてたっけなあ俺え……」

 気持ち悪い間延びした声で、こいつは続ける。

「あっ、そうだあ、未来……奪おうとしてたんだわ」

「未来?」

「女の話してたからよお、一生性欲が湧かねえようにしたら、こいつ女に囲まれても楽しく無くなるだろうなって思ってよお! アヒャハハハハ!」

 キモキバはあざ笑う。

「本当はスキル盗るつもりだったけどよお! まあテメェが今後2度とヤれねぇって想像したら笑えてきてしょうがねえよ! ウヘハハハハハ! クヒヒヒヒヒ、ウッヒヒ!」

「……お前セブンスにそんなことしようとしてたのか」

「アヒッ! なんか楽しそうな人生相談みたいなことしてたからよお! 奪って苦しむところを見るのが一番楽しんだあ。おっと、俺を殺しても無駄だぞぉ? 奪ったものは全てグリード様に行くから意味なぁい! アヒャハハハ!」

 狂気に満ちた目で笑うキモキバに告げる。

「そっか、俺でよかったよ。知っての通り、俺は流れ者で今年30だからな」

「強がっても無駄だぜ! お前はたった今男として死んだ! はい死んだあ!」

「お前が死ね」

 顔を見てたらムカついてきたから、さっさと剣で斬り殺した。
 まったく……性欲を奪うとか、そういうこともできるんだな。

 …………さて、強がってみたは良いがどうしよう。
 真面目にどうしよう。
 イグニールに説明したほうがいいのかな、これ。




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