文字の大きさ
大
中
小
481 / 650
本編
781 墓ドロ
「よし、すぐ蘇生に取り掛かる。だから待機していてくれ」
「ん? 処置ってどう言うことなん──はあっ!?」
担ぎ込まれた死体を前に、ちょうど部屋に帰って来ていたマイヤーが驚く。
片足は膝上から下が存在せず、右腕は全体的に焼けただれボロボロだった。
「ト、トウジ!?」
すぐに後ろに控えていたイグニールの元に詰め寄る。
「これは一体、どう言うことなん!」
「……」
「黙ったままじゃわからんやろ! 何やってん、どうしてん!」
イグニールの両肩を掴み、取り乱すマイヤー。
だが、彼女は俯いて答えきれないままだった。
「落ち着け、ダンジョンで怪我を負っただけだ」
代わりに、ウィンストが状況を説明する。
「憤怒の戦闘での重傷だ。心配するな、治る」
「心配するなて、するに決まっとるやろ! なんやねん!」
「マイヤーお嬢様、落ち着いてください」
難しい顔をしたリクールの制止を振り切って、マイヤーは叫ぶ。
「あんたら、毎回こんな怪我しとるん!? なあて!?」
「……しないわよ」
ぽつり、とイグニールが呟いた。
噛み締めていた唇が血で滲んでいた。
「いつもだったら、平気な顔して笑ってるわよ!!」
「イ、イグ姉……」
声を荒げた姿に、思わず怯えるマイヤー。
その姿を見たイグニールは、ハッとして額を押さえていた。
「ごめんマイヤー……部屋で頭冷やしてくる……」
返事も聞かず、スタスタと自室に向かうイグニール。
みんな、どうして良いのかわからない表情でその様子を見ていた。
「マイヤー……トウジ、ちょっと疲れただけなんだし……」
「ジュノー……それなら、ええねんけど……」
「うむ、小さな賢者と呼ばれる私がいるから心配するな」
安心させるように振る舞うウィンスト。
みんなその言葉を信じるしかなかった。
「蘇生とか物騒なこと言っとったけど……ほんま頼むで?」
「任せてくれ、トウジは私が必ず救い出す」
ウィンストは、動かなくなった体を抱えて空き部屋へと向かう。
「と、とにかく飯にしよう! こういう時は飯だ、飯!」
重たい空気を払拭するべく、パインが前掛けをして厨房に立った。
「まったく……シケた面してんじゃねぇよ」
「うん……なんかお腹空いたし……」
「おう。待ってろ待ってろ。美味い匂いさせてたらひょっこり顔を出すさ」
快活そうに笑うパインを見て、少しだけ空気が和らいだ。
「そうですね、酒盛りして待ってましょう」
「いやリクール……うち今日は酒ええわ……」
「えっ! お嬢様が!?」
「なんやの、その驚いた顔……うちかて飲みとうない日もあんねん」
マイヤーはため息をつくと、この場をつかつかと後にした。
「ちょっとイグ姉の様子だけ見てくる。このままじゃ、心配やから」
「おう、すぐ飯つくっから呼んでこい呼んでこい」
はあ、なんと重っ苦しい雰囲気なのだろうか。
何もできないこの状況が、すごくもどかしい。
俺は、みんなの目の前にいるんだけどな……。
なんとか、おーいとアクションを取っても反応はない。
それもそのはず、死んでいるからだ。
俺の死体はウィンストが客間に連れてって、なんかごつい魔法陣の上に乗せてある。
片足は失われ、服もボロボロ、右手から腕と肩にかけて焼けただれて……。
改めて客観視すると、俺やべえ。
こら死ぬわ……うん……。
え?
今こうして語ってるのはどこのどいつかって?
死んだ俺だ。
詳しくいうと、オンラインゲームで死亡した後の、いわゆる墓ドロ状態。
感想 9,840
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
「お前さえいなければ」と言われたので死んだことにしてみたら、なぜか必死で捜索されています(旧:いらないと言ったのはあなたの方なのに)
水谷繭※7/30書籍発売予定です!6/29まで公開します。
完結まで一括投稿済。
なろうの方では削除する予定はありませんので、読み途中たけれど読みきれないという場合はそちらでお願いします☺️
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。
セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。
エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。
ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。
しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。
◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました
◆小説家になろうにも投稿しています
凱旋した英雄は聖女を選びました。~冬の補給路を守っていた私は静かに軍を去ります~
握夢(グーム)「君は後方にいただけだ」――
凱旋した英雄の婚約者からそう切り捨てられた私は、
静かに軍を辞職しました。
――冬の補給路管理。
――兵糧配分。
――医薬品輸送。
――損耗率管理。
全部、私の仕事だったのですが。
三週間後、
王国軍は補給崩壊。
「なぜ食糧が届かない!」
「なぜ兵が飢える!」
……逆にお聞きしますが、
今まで“なぜか全部上手く回っていた”理由を、
一度でも考えたことはありましたか?
これは、
誰にも評価されなかった兵站官(へいたんかん)が、
隣国の辺境伯にだけ価値を見抜かれ、
人生を取り戻す物語。
今更「戻ってきてくれ」と泣きつかれても、
私は隣国の最高機密ですので――!
真の皇帝は俺です ~面倒だから幼なじみに帝位を任せていたら、婚約者に捨てられました。正体を明かしたら全員後悔してももう遅い~
由香皇帝の仕事が面倒だったレインは、信頼する幼なじみアレクシスに表向きの皇帝を任せ、自身は陰から帝国を支えていた。
だがある日、婚約者エミリアは「権力も将来性もない」と彼を見限り婚約破棄を宣言する。
しかし彼女は知らなかった。
帝国を動かしていた真の支配者が誰なのかを。
これは全てを持ちながら隠していた男と、見るべきものを見失った者たちの後悔の物語。
悪役令嬢ですが、兄たちが過保護すぎて恋ができません
由香乙女ゲームの悪役令嬢・セレフィーナに転生した私。
破滅回避のため、目立たず静かに生きる――はずだった。
しかし現実は、三人の兄による全力溺愛&完全監視生活。
外出には護衛、交友関係は管理制、笑顔すら規制対象!?
さらに兄の親友である最強騎士・カインが護衛として加わり、
静かで誠実な優しさに、次第に心が揺れていく。
「恋をすると破滅する」
そう信じて避けてきた想いの先で待っていたのは、
断罪も修羅場もない、安心で騒がしい未来だった――。
処刑されるはずだった没落令嬢ですが、姫様の初夜を身代わりしたら子を授かりました
新 星緒没落伯爵令嬢のエルゼは大恩がある姫様を救うために、初夜の身代わりを引き受ける。
そして姫様や国を守るために誰にも行く先を告げずに国を去った。
三年後。初夜の晩に息子ヴァルターを授かっていたエルゼは、ひっそりと暮らしていた。ところが元婚約者に拉致られて、あわやというところに初夜の相手であるハインツ王子が現れる。
「ようやく見つけた。エルゼ、愛している」
「初夜の相手が君だと最初からわかっていたが?」
――身代わり初夜から始まる、純愛溺愛執着愛のお話!