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前編 恋の自覚と両思い
16.風の精霊
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レイモンドに連れて来られたのは、洞窟の入口だ。
「すっごい風……」
というか、洞窟の目の前にいると寒い。
結構外の気温は暑いのに。今って夏になりかけなのかな……。
「今って何月?」
「六月だよ。明日には七月。今月の六日に俺、誕生日だったんだよねー」
「そう。あっちとはズレているんだね。どうでもいいけど何歳になったの」
「十四歳だね、君と一緒」
「――え。私、もうすぐ十五歳だったんだけど。あんた年下だったの」
「月齢まで考えないでよ。それに今の君の体は十三歳でしょ」
「いや待って。それなら学年は私の方が上だったんじゃん。私が中三ならあんた中二じゃん」
「うん、俺のミスのお陰で同じになったわけだ。結果オーライだね」
まさか年下だったとは……。
「精神年齢では私の方が一年近くも上だったの……」
「そっちも同じ十四歳なのになー……って、それはもういいよ」
彼が杖をひゅいっと軽く回すと、白い花びらがひらひらと舞った。洞窟からの風にも煽られて、狂ったように私の周りを飛び交う。
白く白く、目の前が白で埋め尽くされるように――、
「こ、これはやりすぎ……」
「はは、もう俺じゃないよ」
また、甲高い音がする。笑い声のような音にのせて、緑色の羽の精霊が周囲をひらひらと舞っている。
次第に花びらと一緒に緑の鱗粉も踊り狂う。
「アリス」
視界を遮るような白の中、レイモンドに軽く手を引っ張られて洞窟の前から少しずれた。
風もやみ、精霊の数も減っていく。
「もう一度、見せてってお願いしてみて」
レイモンドに促され、精霊に向かって話しかける。
「も、もう一度花びらを踊らせて」
お願いした瞬間に、白い花びらがまた舞い始めた。
「わわわ……!」
すごい勢いに髪までぶわんぶわんとはためく。
花びらが私にめがけて、たくさん降りかかる。くるくるとまわりながら、私の全身にピタピタと張り付いていく。
「ス、ストップストップ! ありがとう! もうおしまい!」
そう言うと、ピタっと止まって……。
「なんか私……花びらのお化けみたいになってない……?」
「うん、風の精霊は悪戯っ子だしね。調整も難しいんだ。だから空を飛ぶのに安定感のない人も多くなる。漠然としたイメージでお願いすると、こうなるんだよ」
「そうなんだ……」
わざとこうなるように仕向けたでしょ、レイモンド……。
「でも怖がっていたら上達しない。アリス、杖を両手で持って上に掲げて。鉄棒にぶら下がるようにさ」
もうお願いしたくないなぁと思ったのを、見抜かれたのかもしれない。
……この世界に鉄棒はあるのかな。室内用の鉄棒が弟の逆上がりの練習のために自宅にあったから、それで知ったのかな。最近は私の筋トレに使っていた。
「こう?」
「そう。しっかり持ってね。軽く浮いて」
「う、浮いた! 浮いたんだけど! 怖い! あと手が疲れる!」
「いきなり杖にまたがったら落ちるかもしれないしね。疲れるって君……部屋にあった鉄棒で斜め懸垂もしていたじゃないか。はい、降りて」
だから覗き見しすぎでしょ!
「……杖って、使ったり使わなかったりなの?」
「調整や増幅がしやすくなるだけだよ。イメージさえしっかりしていれば、言葉だけでも大丈夫だ。アクションや言葉、何かは必要だけどね。そうでないと伝わらない」
「……そうなんだ」
「極端な話、イメージさえあれば幼児の『あ!』とかでも使えてしまう。アリスもやってみて。失敗しても助けるから」
風は……怖いな。何かあったら吹き飛ばされそう。
イメージイメージ……軽く浮く軽く浮く……。
「か、軽く浮かせて」
精霊たちが集まってくる。緑の鱗粉と彼らの羽ばたきに呼応するように杖が持ち上がる。
「ま、待って待って、高い」
さっきは十センチくらいだったけれど、今度は三十センチ以上……かな、浮いてしまった。
「こ、こわ……もういい、ありがと」
そう言うと、突然浮遊感が消えてドサッと……レイモンドの腕の中に抱きとめられた。
「レイモンド……このくらいの高さなら助けは必要なかったと思うけど……」
「えー、だって君、落ちる体勢になっていなかったじゃないか。ちゃんと膝とか少し曲げておいてよ。それから、ゆっくり降りるようにお願いして。いきなりやめたらこうなるよ」
そっか……空中で飛ぶの終わりーとかお願いしたら、真っ逆さまに落ちるのか……確かに難しいな。
「言いたいことは分かったから、離して」
「もう少しいいじゃないか。せっかく君から俺の腕の中に飛び込んでくれたのに」
「不可抗力でしょ!」
「んー、アリスっていい匂いがするよね」
「だから、はーなーせ!」
強く身じろぎをすると、解放された。
「あれ? 顔が赤い?」
「うっさいわ、変態!」
なんでコイツに抱きしめられたくらいで……! 四歳の光樹にはよく抱きつかれていたのに!
……し、身長がね、弟よりは高いから。男だって認識しやすいだけ。うん、それだけだよね。……そうだよ、同い年の男子に抱きしめられたことなんてないし。彼氏とかいたこともないし。年頃の女の子なんだから、そーゆーものだよ。私は悪くない。普通……普通のことだ。
「ここはね、風も強いし精霊も集まりやすい場所だから。じゃ、次に行こっか」
精霊も集まりやすい場所……。魔女さんの根城の近くだからかな。魔女さんに教えてもらったのかな。
私が連れていってもらう場所は全部、一度はレイモンドが行ったことがある場所で……だからこそ案内してくれるんだろうけど……。
少しそれが寂しくなった。
「すっごい風……」
というか、洞窟の目の前にいると寒い。
結構外の気温は暑いのに。今って夏になりかけなのかな……。
「今って何月?」
「六月だよ。明日には七月。今月の六日に俺、誕生日だったんだよねー」
「そう。あっちとはズレているんだね。どうでもいいけど何歳になったの」
「十四歳だね、君と一緒」
「――え。私、もうすぐ十五歳だったんだけど。あんた年下だったの」
「月齢まで考えないでよ。それに今の君の体は十三歳でしょ」
「いや待って。それなら学年は私の方が上だったんじゃん。私が中三ならあんた中二じゃん」
「うん、俺のミスのお陰で同じになったわけだ。結果オーライだね」
まさか年下だったとは……。
「精神年齢では私の方が一年近くも上だったの……」
「そっちも同じ十四歳なのになー……って、それはもういいよ」
彼が杖をひゅいっと軽く回すと、白い花びらがひらひらと舞った。洞窟からの風にも煽られて、狂ったように私の周りを飛び交う。
白く白く、目の前が白で埋め尽くされるように――、
「こ、これはやりすぎ……」
「はは、もう俺じゃないよ」
また、甲高い音がする。笑い声のような音にのせて、緑色の羽の精霊が周囲をひらひらと舞っている。
次第に花びらと一緒に緑の鱗粉も踊り狂う。
「アリス」
視界を遮るような白の中、レイモンドに軽く手を引っ張られて洞窟の前から少しずれた。
風もやみ、精霊の数も減っていく。
「もう一度、見せてってお願いしてみて」
レイモンドに促され、精霊に向かって話しかける。
「も、もう一度花びらを踊らせて」
お願いした瞬間に、白い花びらがまた舞い始めた。
「わわわ……!」
すごい勢いに髪までぶわんぶわんとはためく。
花びらが私にめがけて、たくさん降りかかる。くるくるとまわりながら、私の全身にピタピタと張り付いていく。
「ス、ストップストップ! ありがとう! もうおしまい!」
そう言うと、ピタっと止まって……。
「なんか私……花びらのお化けみたいになってない……?」
「うん、風の精霊は悪戯っ子だしね。調整も難しいんだ。だから空を飛ぶのに安定感のない人も多くなる。漠然としたイメージでお願いすると、こうなるんだよ」
「そうなんだ……」
わざとこうなるように仕向けたでしょ、レイモンド……。
「でも怖がっていたら上達しない。アリス、杖を両手で持って上に掲げて。鉄棒にぶら下がるようにさ」
もうお願いしたくないなぁと思ったのを、見抜かれたのかもしれない。
……この世界に鉄棒はあるのかな。室内用の鉄棒が弟の逆上がりの練習のために自宅にあったから、それで知ったのかな。最近は私の筋トレに使っていた。
「こう?」
「そう。しっかり持ってね。軽く浮いて」
「う、浮いた! 浮いたんだけど! 怖い! あと手が疲れる!」
「いきなり杖にまたがったら落ちるかもしれないしね。疲れるって君……部屋にあった鉄棒で斜め懸垂もしていたじゃないか。はい、降りて」
だから覗き見しすぎでしょ!
「……杖って、使ったり使わなかったりなの?」
「調整や増幅がしやすくなるだけだよ。イメージさえしっかりしていれば、言葉だけでも大丈夫だ。アクションや言葉、何かは必要だけどね。そうでないと伝わらない」
「……そうなんだ」
「極端な話、イメージさえあれば幼児の『あ!』とかでも使えてしまう。アリスもやってみて。失敗しても助けるから」
風は……怖いな。何かあったら吹き飛ばされそう。
イメージイメージ……軽く浮く軽く浮く……。
「か、軽く浮かせて」
精霊たちが集まってくる。緑の鱗粉と彼らの羽ばたきに呼応するように杖が持ち上がる。
「ま、待って待って、高い」
さっきは十センチくらいだったけれど、今度は三十センチ以上……かな、浮いてしまった。
「こ、こわ……もういい、ありがと」
そう言うと、突然浮遊感が消えてドサッと……レイモンドの腕の中に抱きとめられた。
「レイモンド……このくらいの高さなら助けは必要なかったと思うけど……」
「えー、だって君、落ちる体勢になっていなかったじゃないか。ちゃんと膝とか少し曲げておいてよ。それから、ゆっくり降りるようにお願いして。いきなりやめたらこうなるよ」
そっか……空中で飛ぶの終わりーとかお願いしたら、真っ逆さまに落ちるのか……確かに難しいな。
「言いたいことは分かったから、離して」
「もう少しいいじゃないか。せっかく君から俺の腕の中に飛び込んでくれたのに」
「不可抗力でしょ!」
「んー、アリスっていい匂いがするよね」
「だから、はーなーせ!」
強く身じろぎをすると、解放された。
「あれ? 顔が赤い?」
「うっさいわ、変態!」
なんでコイツに抱きしめられたくらいで……! 四歳の光樹にはよく抱きつかれていたのに!
……し、身長がね、弟よりは高いから。男だって認識しやすいだけ。うん、それだけだよね。……そうだよ、同い年の男子に抱きしめられたことなんてないし。彼氏とかいたこともないし。年頃の女の子なんだから、そーゆーものだよ。私は悪くない。普通……普通のことだ。
「ここはね、風も強いし精霊も集まりやすい場所だから。じゃ、次に行こっか」
精霊も集まりやすい場所……。魔女さんの根城の近くだからかな。魔女さんに教えてもらったのかな。
私が連れていってもらう場所は全部、一度はレイモンドが行ったことがある場所で……だからこそ案内してくれるんだろうけど……。
少しそれが寂しくなった。
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