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前編 恋の自覚と両思い
34.魔導保育士シルビア
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「こちらが、一級魔導保育士のシルビア先生です。魔法教育施設、通称『教えの庭』の責任者でもあります。本日のご案内をさせていただきます」
「はじめまして、シルビア・ロマーノと申します」
事務室で一通り保育理念や方針や歴史、特徴や一日の流れ、年間予定などなどの説明を受けてから、魔導保育士さんなる人を紹介された。
めっちゃ綺麗な女性……それに腕もしなやかな筋肉……。長い銀髪をポニーテールにしていて、切れ長の藍色の瞳には知性が宿っている。
文武両道って感じ……え、保育士さんなんだよね。女性騎士って印象も受けてしまう。エプロンはしているけど。
「アリス・バーネットです。よろしくお願いします」
レイモンドに対しては少し笑みを浮かべただけだった。絶対に知り合いだ。ただの顔見知りにしては親しすぎるような視線を交わしていた気が……。
私の疑問が伝わったのか、言いにくそうにレイモンドが口を開いた。
「……シルビア先生はね、僕の最後の乳母だったんだ。十歳までね。そのあとに妊娠や出産もあったから、責任者になってまだ三ヶ月なんだ。それまでは王都から一級の先生を派遣してもらっていた。子供連れでここには来ていたし、よく知ってはいる。その子供も保育しているよ。担当保育士は別だけどね」
「乳……母……?」
シルビア先生、全然それっぽくないけど。
それと……今度は一人称が僕になった。先生の前で私に話しかけているからかな。三つも使い分けるんだ……。
「養育兼教育係だよ。幼い頃からのびのびと魔法を使わせて育てたらどうなるでしょうってプロジェクトに僕も参加させられていて、シルビア先生はラスト二年だけ。実験や調査によって有効だと証明されて魔導保育士課程が設けられ、資格に級分けもされるようになった二年目の学園の卒業者だ。被験者には才能や身分も含めてバラつきはあった方がいいしデータも多い方がいい。調査は今も続いている。シルビア先生には王都から夫婦で来てもらって、そのままここで暮らしているんだ」
「レイモンド様に対抗できる乳母はなかなかいないので、お父上からとにかく強い者をと依頼され、王都より派遣されたのです。ここは居心地がいいので、居着いてしまいました」
「そ……うなんですか」
だから親しそうなのか。
レイモンドに対抗できる乳母……この人が養育係さんになるまで、何があったんだろう。
じっとレイモンドを見上げると、いつもより子供っぽい顔をして肩をすくめた。
「若気の至りだよ」
ううん……何をしたのか気になるな……。
「レイモンド様は相手をお試しになるのと、論破されるのがお好きでしたから」
「うっ……も、もうやめてください。僕も成長したんです」
「未来の奥方に隠し事をされてはいけませんよ。気になるお顔をされていたら説明をしなくては」
「…………」
少し……ごめんねって顔をされた。
正体不明の女の子を見学させるわけにはいかないもんね。身元も不明な私を連れてくるのに、その肩書きしか使えないってことは分かっている。
レイモンドの婚約予定の女の子。未来の奥方。それしか……今の私を保証するものはない。
「ご説明ありがとうございます。今度時間がある時に、もっと彼のことを教えてください」
にっこりと微笑むと、微笑み返された。
笑うと……保育士って感じかな。突然人懐っこい印象に変わった。
「はい、いくらでも。私もアリス様とお話をしてみたかったので。それではご案内いたしますね」
「お願いします」
そうして、一般向けの保育施設とは別に設けられた、一風変わったその場所へと足を踏み入れた。
「はじめまして、シルビア・ロマーノと申します」
事務室で一通り保育理念や方針や歴史、特徴や一日の流れ、年間予定などなどの説明を受けてから、魔導保育士さんなる人を紹介された。
めっちゃ綺麗な女性……それに腕もしなやかな筋肉……。長い銀髪をポニーテールにしていて、切れ長の藍色の瞳には知性が宿っている。
文武両道って感じ……え、保育士さんなんだよね。女性騎士って印象も受けてしまう。エプロンはしているけど。
「アリス・バーネットです。よろしくお願いします」
レイモンドに対しては少し笑みを浮かべただけだった。絶対に知り合いだ。ただの顔見知りにしては親しすぎるような視線を交わしていた気が……。
私の疑問が伝わったのか、言いにくそうにレイモンドが口を開いた。
「……シルビア先生はね、僕の最後の乳母だったんだ。十歳までね。そのあとに妊娠や出産もあったから、責任者になってまだ三ヶ月なんだ。それまでは王都から一級の先生を派遣してもらっていた。子供連れでここには来ていたし、よく知ってはいる。その子供も保育しているよ。担当保育士は別だけどね」
「乳……母……?」
シルビア先生、全然それっぽくないけど。
それと……今度は一人称が僕になった。先生の前で私に話しかけているからかな。三つも使い分けるんだ……。
「養育兼教育係だよ。幼い頃からのびのびと魔法を使わせて育てたらどうなるでしょうってプロジェクトに僕も参加させられていて、シルビア先生はラスト二年だけ。実験や調査によって有効だと証明されて魔導保育士課程が設けられ、資格に級分けもされるようになった二年目の学園の卒業者だ。被験者には才能や身分も含めてバラつきはあった方がいいしデータも多い方がいい。調査は今も続いている。シルビア先生には王都から夫婦で来てもらって、そのままここで暮らしているんだ」
「レイモンド様に対抗できる乳母はなかなかいないので、お父上からとにかく強い者をと依頼され、王都より派遣されたのです。ここは居心地がいいので、居着いてしまいました」
「そ……うなんですか」
だから親しそうなのか。
レイモンドに対抗できる乳母……この人が養育係さんになるまで、何があったんだろう。
じっとレイモンドを見上げると、いつもより子供っぽい顔をして肩をすくめた。
「若気の至りだよ」
ううん……何をしたのか気になるな……。
「レイモンド様は相手をお試しになるのと、論破されるのがお好きでしたから」
「うっ……も、もうやめてください。僕も成長したんです」
「未来の奥方に隠し事をされてはいけませんよ。気になるお顔をされていたら説明をしなくては」
「…………」
少し……ごめんねって顔をされた。
正体不明の女の子を見学させるわけにはいかないもんね。身元も不明な私を連れてくるのに、その肩書きしか使えないってことは分かっている。
レイモンドの婚約予定の女の子。未来の奥方。それしか……今の私を保証するものはない。
「ご説明ありがとうございます。今度時間がある時に、もっと彼のことを教えてください」
にっこりと微笑むと、微笑み返された。
笑うと……保育士って感じかな。突然人懐っこい印象に変わった。
「はい、いくらでも。私もアリス様とお話をしてみたかったので。それではご案内いたしますね」
「お願いします」
そうして、一般向けの保育施設とは別に設けられた、一風変わったその場所へと足を踏み入れた。
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