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後編 魔法学園での日々とそれから

135.体育大会

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 あの日、レイモンドが買ってくれた本は数打てば当たる戦法だったのか山のようだった。

 オーソドックスに情熱の恋の小説、来年度の保育科を視野に入れたであろう童謡のピアノの楽譜を何冊か、イラストやあやとりや折り紙の本、それから……『冷蔵庫に人間を入れると死ぬんです』とか『ずっと眠っていたいなら今を夢だと思えばいい』とか『ラブレターに使えるフレーズ、ベスト100』とかもう意味の分からない本がそれはもう、たくさん……。

 次から変な課題を与えるのは自重しようと反省した。私の部屋の本棚がカオスだ。最近、反省し続けている気がする。

 一度ニコールさんの昼食を食べるために寮に戻って、午後はまた隠れ家に童謡の楽譜を持って行き、ピアノの練習もした。レイモンドに先に歌ってもらってリズムを覚えたり……私の機嫌が直っていて安心もしていた。

 ソフィと話をしてスッキリしたのもあるけど、あの本のタイトルを見たら笑っちゃうよね。何これ……とパラパラめくっているうちに私たちの間にある空気は表面上は元通りになった。

 そうして六月になり、体育大会が行われた。

 なぜそんなものが一年生だけあるのかは分からない。それを通して親睦を深めようとしているのか、魔法の特訓のためなのか……。

 前の世界のような体育大会ではない。球技大会といってもいいかもしれない。
 
「レシーブ!」
「とるわ!」

 水の球を使った男女別クラス対抗ドッチボールだ。全員がスーパーなんとか人のようになっていて魔法も使う。そもそも水の魔法を使わなければ球体のまま維持ができない。体にあたって消滅したりバシャリと落ちればアウトになって外野行き。どうして光魔法で体を包んでいるかといえば……風魔法による豪速球で怪我をしないためだ。

 球はその形を崩せば、審判によって新しい球を投げ入れられる。しかも、球は三つ存在する。そして……飛ぶのもありだ。邪魔にならないよう皆折り畳んだ状態の杖にまたがっている。私の杖も小さくしている。
 飛びすぎるのはなしで、光の天井が職員によって張られている。

 なぜ私がレシーブをしてしまうか……練習で私の弱点が露呈したからだ。咄嗟のことだと水に対して未だに「来るな」と思ってしまう。それではキャッチしても球の形状が崩れてしまう。バレー部だったことから、球が目に入った瞬間に「レシーブ!」という意識を持つと、球体のまま維持ができることに気付いた。

 ただし……打ち上がってしまうので、誰かにキャッチしてもらわなければならないという……。大体、ジェニーがすぐに受けとって相手クラスにぶん投げてくれる。

「ユリアちゃん下! 狙われてる!」
「止めます!」
「アリス、後ろ!」
「レシーブ!」
「倒すわ!」

 わーわー言いながら……なんだかんだで私たちが優勝だ。
 光魔法、風魔法、水魔法の同時使用……Sクラスが勝ちやすいものの、他のクラスは人数がやや多いのでそれなりに苦戦した。他のクラスの子を発奮させる意味もあったのかもしれない。男子も当然ながらSクラスが勝っていた。……ダニエル様もいるしね。勝ち上がったせいで、レイモンドの見物をする時間はほとんどなかった。

 敗退したチームは、のんびりと隅で私たちを横目に男女は別だけれどクラス内で二チームか三チームに分かれてモルックというスポーツをしていた。
 モルックという木の棒を投げてスキットルという数字の書かれたピンを倒し、五十点ピッタリになるまで得点した方が勝ちだ。超えると二十五点に減点される。

 あれ、やりたかったなぁ……。健康増進クラブで二チームに分かれてやろうかなぁ……。

「さすが、ジェニファーさんとアリスさんはすごかったわね」

 のんびりと女子だけでグラウンドの隅に集まる。グラウンドは校舎の横に広いエリアで設けられている。普段は戦術学科の技能訓練にも使われていそうだ。

 女子全員なので、私も口調には気を付けている。

「ジェニーが圧倒的よね。私は反射神経に課題がありすぎるわ……」
「アリスは投げたらものすごい速さじゃない。あれ、光の魔法がなかったら肋骨が折れるどころじゃないわよ」

 咄嗟だと「速く!」と思いすぎちゃうしね。光魔法があってよかった。
 
「キャッチがね……球が速すぎて、ついレシーブをしちゃうわ」
「その、レシーブって言葉の意味が分からないわね」
「かけ声もどきだから気にしないで……頭にふってきた、意味不明の言葉よ」

 反省タイムとして終わったあとに少し時間が設けてある。自らの魔法に対する課題や反省点を一週間後までに提出する宿題があるから、そのためだろう。

「オリヴィアさんもすごかったわね。球が崩れないし」

 ジェニーに褒められると、やっぱりすごく嬉しそうだ。
 
「お恥ずかしながら、入学前から屋敷で練習をしていましたの。卒業生から話を聞いていましたし、無様な姿は見せたくないと」

 ……バッティングセンターみたいに球の打ち出しでもしてもらっていたのかな。

「私は鈍臭くて……最初から外野にしていただき、ありがとうございました」
「レオニーさんも外から健闘していたじゃない」
「練習で即アウトになるのが分かってよかったです」
「フルールさんの反応速度も、お手本レベルだったわね」

 私もジェニーに負けじと褒めておく。

「保育科に入ろうと決めていたので、メイドに似たような練習をするのに付き合っていただきましたの。その……子供の魔法を使う気配を感じ取れるようにと」
「そこまで! 反省したわ……」
「いえいえ。私にはアリスさんほど速く投げることはできませんし、生み出せる総量も段違いですもの」

 ……私も絶対に保育科に入ると言って、特化した練習をしておけばよかった。後悔先に立たずだ。早急にレイモンドになんとかしてもらおう。

 頑張って特訓したつもりだったけど、まだまだ足りなさすぎる。自分の実力不足を知るためにも、クラスメイトとのこんな時間も大切だよね……。

 こうして、少しずつクラス内での仲も深まっていった。
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